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二章⑥ 就寝


 ダンジョンの中は窓もないが壁自体が淡く光を放っているようで常に明るい。おかげでたいまつなどの明かりも必要もなく探索を行うことができた。これも恐らくは透の言う所のクリアできるようにしてあるという事なのだろう。

 光源として用意しやすい松明は消耗品だから、ダンジョン内が完全な暗闇であれば長期の探索は非常に困難なものになってしまうからだ。


「あ、そろそろ22時を過ぎるね」


 ふと懐中時計を確認して春人が告げる。日の光もなく常に明るいダンジョン内はありがたい反面時間感覚は曖昧あいまいになり、時計に頼らなければ正しい時間の流れを知る指標がない。たまたま春人が時計を持ち合わせていなかったら気づかぬ間に昼夜はどんどんとずれていっていただろう。


「明日の事を考えたらそろそろ寝たほうがいいんじゃないかな」


 食後は特に何か会話をするでもなく四人は各々静かに時間を過ごしていた。時折通路の方を通りかかる化け物を見かけたが、やはりこちらに何するでもなく去っていく。そのおかげでここが安全地帯だという確信は概ね固まってた…………だからこそ落ち着いて過ごせたのだ。


「私はまだ眠くないけど」

「俺もまあ眠くはないな」

「わ、私もです」


 けれど三人は一様に春人の提案を否定した。


「でも確実に疲れてはいると思うよ」


 正直に言えば春人自身もそれほど眠気はない。けれど恐らくはこの明るい空間と異様な状況下における興奮が疲れを意識させていないだけのはずだ。今は大丈夫でも気力が尽きれば一気に疲労を覚えることだろう…………そうなれば明日の探索は非常に困難になる。


「まあ、実際その通りだと俺も思う…………ランナーズハイっていうか、色々なことで興奮し過ぎて脳内麻薬が出まくったんだろう。だから疲れてないように感じてるだけだ」


 唯一の社会人である透が周囲を見回す。


「とはいえ寝る努力をするにもこう明るいとな」


 人間の体はよくできているもので、朝に日に当たれば目が覚めて夜に暗くなれば眠くなってくる。だから周りが明るい状況では人間は眠気を覚えにくい。もちろんよっぽど疲れていれば関係はないのだけれど、今日のように一種の興奮状態であると難しい。


「春人、テントとかは持ってないのか?」

「…………見ればわかりますよね」


 一人用のテントであってもそれなりにかさばる。流石に一人で背負えるリュックの中に納まるようなものではない。


「テントも寝袋も用意はしてたんですけど…………ここに飛ばされる直前は手に持ってなかったんですよ」


 このダンジョンに召喚された時に持ち込めたのは体に触れていた物だけだ。春人は出かける直前に召喚されたがたまたまその時はテントと寝袋の一式を持ってはいなかった。食料などをまとめたリュックのほうは背負っていたから持ち込むことができたのだ。


「タオルは何枚かありますからそれで顔を覆うしかないですね」


 幸いにしてダンジョン内は過ごしやすい気温で暖を取ったりする必要もない。噴水広場は草がびっしりと生えているので多少汁に汚れる覚悟さえすれば布団代わりになる。後は周囲の明るささえどうにかすれば眠る体制はできるだろう。


「ま、それしかないか」


 妥協したように呟いて透は春人からタオルを借りるとその場に寝転ぶ。スーツの上着を脱いで枕代わりに丸めておくのも忘れていない…………スーツは皺だらけになるだろうが今そんなことを気にする理由はどこにもなかった。


「お前らも寝る体制だけは取っておいた方がいいぞ」


 横目で天音達に告げると透は顔にタオルを載せる。仮に眠れなくとも目を瞑って横になっているだけでもある程度疲れは取れる。そうでなくとも普通に起きているよりは眠気がやってくる可能性は高い…………なにせ実際に疲れてはいるはずなのだ。体がそれに気づけばあっという間に睡魔がやって来るだろう。


「えと、じゃあ私も貸してください」


 それを聞いて彩花が口を開いて春人を見た。


「それじゃあ、はいこれ」


 彼女に春人はタオルを二枚渡す。


「一枚は本を包んで枕代わりにするといいよ」


 汚れることを考えてタオルは多めに持ってきたから余裕はある。


「あ、そうですね」


 納得したように彩花はタオルを受け取った。そして少し春人から離れたところを寝床に決めて本を枕にする作業を行う。


「天音は何か枕にできそうな物はある?」


 最後に春人は天音を見る。春人はリュックを枕にすればいいが天音はそういったものを持ってないように見える。包丁以外は着の身着のままだし割烹着は透のように上着だけ脱いで枕にするような真似もできないだろう。


「…………気を遣わなくていいわよ」


 憮然とした表情で天音は答える。


「下は土みたいだからちょっと盛れば枕くらい作れるし」

「あー、ならこれを使って」


 さすがに包丁で土を掘るのもあれだろうと、春人はリュックから取り出した小さな園芸用のスコップを渡す。土枕なんて縁起のいいものではないがこの状況では贅沢は言っていられないだろう。


「借りるけど…………なんで持ってるのよ?」

「いや、色々使い道はあるかなって」


 なんとなく用意した中の一つだ。


「まあ、とにかく借りるわ」


 天音はスコップを受け取って三人から少し離れたところに歩いていく。その距離感が心の距離なんだろうかと思いつつ春人も自分が寝るための準備を始めることにした…………といってもその場にリュックを置いて枕にして寝るだけだ。


 タオルを被り、今はとりあえず寝る事だけに春人は集中した。


 お読み頂きありがとうございます。

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