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X.夢見し蝶たち
蝶の遺言。それが、わたしたちにとっての「愛してる」だったのかもしれない。
◇◇◇
「学びの庭アンフェール校 創設誌」──後書きより抜粋。
我が国は古くより死後、生きとし生ける者のほとんどが母なる水へと還り。
数少ない聖者だけが審判の繭に抱かれ輝く蛹と化し、世界を照らす光に成ると伝えられているが。
母なる水へと還ることすらあたわぬ歪な亡者たちは、どこへ向かうのか。
斯様な者は、果てなく光を追いし者と成るのやもしれない。
そう。それはまるでランプの光に引き寄せられた「飛んで火に入る夏の虫」のように。
しかし、斯様な者は業火に身を焼かれるだけでは死ぬことすらできぬ、再生の蟲と成ろう。
我々は、斯様な再生の蟲が生み出されることが決して無きよう、この学びの庭を創設したのだ。
人は蟲を醜いと云うが。
人の魂のかたちは、蟲の在り様と似ている。
初代校長 シエル・ド・メリュジーヌ