祈り
『異国では、蟷螂を〈祈り虫〉と呼んだりするらしい。……わたしは、嫌いだけど。その呼び方』
『へぇ。祈り、か。なんで?』
『彼らの前脚の鎌。いつも揃えていて、まるで祈っているように見えるから……と、本に記してあった』
『ああ。確かに……そう見えなくもねえ。やっぱ異国人は、面白い感性をしてるな。いい呼び名だ。〈地獄〉って意味の俺の名とは大違い』
『……そう? あなたの名前、わたしは……嫌いじゃない、けど』
『ほう? お前がそんなことを言うとは、ずいぶんと珍しいな? なんでそう思う。言え』
『だって……わたしの名は、〈天国〉の意味。そして、あなたは〈地獄〉……何だか、繋がってるって感じ、する』
『繋がってる?』
『そう。きっと、地獄と天国の名を持つあなたとわたしなら──天国も地獄も、楽しく巡れそうに、思える』
『……ふ……っはははは! なんだそれ。ああ、でも、そうだな──お前と一緒なら、地獄の業火の中だろうと楽しいもんだろうぜ。くっ、ははは。本当にお前は、可笑しくて、面白いことばかり言う』
忌まれるためにつけられた俺の〈呪いの名〉が、お前のたった一言で、〈祝福の名〉に成った。
この感情には、きっと。何百年経とうと、言い表すことが出来る言葉など、見つかりはしないだろう。
──これは全て、届かなくてもいい。
ただ、お前をおもい、祈ることだけが。
己の光であり、闇であったのだ。




