第30話
その日、魔物をギルドから予め借りてきた収納箱に封印し依頼を達成した。シオは万全を期して顔を見られる訳にもいかないため先に宿に帰らせた。
いつものようにアタシはシオを抱きかかえるように眠りにつく。
この小さくて暖かい抱き枕はアタシ専用だ。
――なんだ、ここは………
アタシの目に映るのは……少しヘンテコな家の中。見たこともない置物や紙が散乱している。
トコトコと誰かが歩いてくる音がする。
振り返ると変な模様の服を着た子供が立っていた。
頭の包帯に少し血が滲んでいる。
これはシオだ。今よりもずっと幼いが間違いない。アタシがシオを間違えるはずがない。
ただ…………このシオは常に何かに怯えたような、とても濁った目をしている。
これは夢か?それとも………
「……おか…おかえりなさい…」
――――どうした?アタシはもう家の中にいるだろ?
声を発しているのに届いていないようだ。
シオに触れようとしてもこの手はシオをすり抜ける。
不思議に思っているとシオがアタシの方へと歩き出す。
やっとアタシのことが分かったか!と思った矢先シオはまたもアタシをすり抜ける。
そりゃそうか、と思ったのも束の間。
「あああ!クソが!!」
という怒鳴り声と共にバチィという音が部屋に響く。
「俺はちゃんとやってんのに!舐めやがってクソが!!」
アタシの目下にシオがうつ伏せで倒れ込んでいる。
殴られたであろう頬は裂け、赤く染っている。
かっと頭に血が昇り拳を振りかざした。
―――――テメェ何してんだ!
と殴り掛かるもアタシの拳は空を切る。
「……ごめ…ごめんなさい……ごめんなさい…」
シオはズリズリと謝りながら弱々しく地面を這いずっている。
アタシは自分の無力さを呪いながらシオを殴る男を殴り続けるが依然としてこの手は空を切る。
すると突然這いずるシオに男が覆い被さる。
「な……なに」
男はおもむろにシオの服の下に手を入れ始めた。
「士皇は細くて柔らかいんだなぁ〜」
―――――おい、やめろよ。
これは人間では無い。醜悪な何かだ。
「や、やだ」
シオは何かを悟り逃げ出すが先程のダメージですぐによろけてしまう。傷が開いたのだろう、頭の包帯には先程以上の血が滲み始める。
「士皇〜、男の子なんだから逃げるなんて卑怯だろぉ〜?」
男は這いずり回るシオにひたすら暴力を振るう。
――――やめてくれ……
「ははっ、お前は本当にどうしよもない虫ケラだなぁ。」
男は抵抗するシオを暴力で押さえつけながら服を脱がせ始める。
やはりこの男は人間では無い。こんなのが人間の所業であるはずがない。最低最悪で生きる価値もないクズだ。
―――やめろ……
この言葉は闇に吸い込まれ届かない。
アタシの眼前に広がるは地獄、この世の汚いものをたっぷりと詰め込んだ何か。
アタシはシオが陵辱されているのを見ていることしか出来なかった。
否、見ることすらできなかった。
ただ頭を抱え蹲り、耳を塞いでも尚聞こえてくるシオの言葉にならない悲鳴を聞くしかなかった。
これは悪い夢だ、なんでもいいから早く醒めてくれ。
そう願うしか無かった。
最後、男が消え裸で震えながら蹲るシオと少し目が合った気がした。
おぞましい夢が終わると同時に飛び起きたが未だ朝日は昇らず、夜の帳は降りたまま。
シオはアタシの胸の中ですやすやと寝ている。
この時、アタシの中の悪魔が囁いた。
分かってる、確認するだけ。
確認したらさっきのことは忘れてもう一回寝よう。
さっきのは悪い夢だ、絶対そうだ、そうでなくてはならない。
そしてシオの前髪に手をかける。
「………………嘘…」
夢の中で見た頭の包帯………
その血の滲んでいた位置に確かな傷跡がある。
刃物で切りつけたような深い傷跡。
……………つまりあれはシオの記憶?
あれが「少し酷い」?
いや、きっとあれは夢だ。何かの悪い夢だ。
そう思わなければ今にも暴れてしまいそうなほどの怒り。
アタシはもう一度眠りに就こうとした。
しかしどうしても眠ることが出来なかった。
結局夜が明けるまでただただ暗闇を見つめていた。




