第27話
さて、ラスラトが死んでから3週間。
僕が知っている限り全てのラスラトファミリーの拠点が潰された。
話に聞くと金目のものは何も無く、既にもぬけの殻だったそうだ。
僕たちは既にスリムリンの西から東の地区に家を移した。
というのもこの西のスラム付近、名をプーネントと言うのだが既に領主と新たなスラムマフィアの間の抗争が始まりかけている。
それにサルサの家があるここはスラム街から程近い。
せっかく新しいベッドで寝ているのに怒号が鳴り響くのはいい気分じゃない。
結局ベッドは売り飛ばし暫くは宿生活を余儀なくされた。
ちなみに本来サルサのような高ランク冒険者は賃貸をギルド側から推奨されている。
高ランク冒険者は得てして羽振りが良くなり暮らしも良くなる。もちろん高ランク冒険者をターゲットにした厚利少売に舵を切る宿が増える。冒険者のランクごとの人口分布はいわゆる富士山型のピラミッド、低ランクの方が絶対数が多いためギルド側としては安宿を減らす訳にはいかないらしい。
冒険者にとって借家だとしても家を持つというのは一種のステータスになってるんだとか。
ちなみに一定以下の価格帯の宿屋はギルド側から給付金が出る。
異世界で給付金なんて単語を聞くとは思わなかったよ。
さて、ここで僕の新しい能力の紹介、血を元にした魔術、及び魔法は僕にいくらかの選択肢を与えてくれた。
まずは影箱、文字通り僕の影に物を収納出来る魔術。できる人は少なくは無いが冒険者には少ない。出来るやつはそういう職業に就く、それだけである。
ちなみにデメリットは物の質量がおよそ倍になって僕の体重に加算されること。既に僕の影の中には雑貨や生活用品などおよそ10キロ分、僕の体重は20キロ増えたことになる。ほとんどがサルサの武具や服、昔使っていたというキャンプ道具など。猫は寒がりだからコート類が多い。
だけどこれがまぁ重いんだ。何も持ってないのに熱を出した時のように身体が重い。もちろんそのまま持つよりかは遥かに楽なのだが。
戦闘系の魔術は移動と火力に重きを置いた。
果断のサルサ、色々と尾ヒレがついて評判は良くないが彼女は単純に強い。火力不足に陥りやすい斥候でありながらBランクに、しかもソロで到達したことからもそれが伺える。身体強化と風の魔術を使いながら魔物を削り、土の魔術でトドメを指す。
魔術無し、短剣だけでも自分の倍ほどの魔物を屠る腕を持つ。
僕が見ても分かる洗練された戦い方。
だが決して無理はしていない。常に自分が戦えるだけの体力と気力を計算し攻撃に転じている。
僕は彼女の動きをとにかく真似している。だがどうやったって彼女の読みと勘に基づいた動きを追うことはできない。
それに加えサルサの使う属性系の魔術は、僕が普段から動かしている治癒魔術との併用が全くもってできない。
そこで僕が選んだ選択肢は転移の魔術である。曲芸団発祥の魔術で、冒険者の中でも罠として避けられる魔術である。
と言うのもこの魔術、転移先の座標の特定に苦労する上に服だけ残して転移など非常に事故が起きやすい。そして範囲も狭い。
効果だけに着目して訓練した結果、全裸の冒険者が空中に現れる事件が多発したことからギルド側からも推奨されない。
ただ、土壇場で急所を外すためだけに習得している者は多いという。僕のように戦術に取り入れる冒険者はいないとのこと。
座標や距離云々のデメリットを僕は血で解決した。
少々汚いが撒き散らした血で座標を特定、僕の血自体に魔力が含まれているため範囲も拡げることが出来る。血を操れる範囲が僕の転移の範囲ということになる。
だがこの技の一番の難関はサルサに許可を取ること。
披露しようと当然のように自分の腕にナイフを立てたら死ぬほど怒られた。
僕は強くなるためにここにいる。
彼女が僕の血を流す姿が嫌いなのは表情からも痛いほど分かるがこればかりは納得して貰うしかない。彼女の苦虫を噛み潰したような、泣きそうな表情は僕の弱点だがこれは押し通させて貰う。これ以来彼女は寝ぼけると僕の左手首付近を舐めてくるのだが、猫の舌のせいでこれが中々に痛かったりする。
次に破裂の魔術。これは鉱夫発祥と言われている魔術。本来は火の魔石を触媒に起こす。先程の転移や触媒魔術は治癒魔術を動かしながら、しかも魔石などの触媒が無くてもなぜか発動する。
効果は単純に僕の血が光を放った後爆発を起こす。爆発の大きさは血を出した部位に寄って変わるがそれでも威力は満点だ。
遂に僕は自分の戦闘スタイルを確立させた。
武器は両手に短剣やナイフ、ヒットアンドアウェイで間合いをズラしながら突きでトドメを狙う。それが叶わぬ相手の場合、自傷魔術で転移か破裂の択を迫る。僕の返り血を浴びたら即終了の、自分で言うのもあれだが中々にクソゲーである。
ちなみにサルサとの模擬戦ではナイフを使わない徒手空拳でボコボコにされた。影箱が空の僕は軽くて簡単に投げれるそうだ。対処の仕方は十二分に存在することを知れただけでも大きい。
今日はダンジョン内で野宿。
いつも僕らが訓練している場所の近くの安全地帯。
僕は屋外野宿の経験が無いためその練習も兼ねている。
虫除けを撒き、いつでも起きれるように木にもたれ掛かる形で眠りに入る。ただなぜか僕の位置は彼女の膝の間である。
彼女は僕の方に顎を乗せ、僕は彼女に身体全体を預ける。
彼女の体温が温かい。
ちなみに今日は僕とサルサが出会ってからちょうど12ヶ月。
彼女が気付いているかどうかは不明だがちょっとしたサプライズ。
手元にお揃いの腕輪、付与されているのは毒無効と体力向上。
既にスースーと寝息をたてている彼女の頬にキスをする。
ごめんね、普段は恥ずかしくてこんな時じゃなきゃできないんだ。




