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ただ残ったのは、矛盾人間だった  作者: 夏城燎
1 『うつつをみろ』
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 いつかの時、思い出として、僕の心にずっと残っている哲学がある。


 人は人である限りまともではないし、

 また、人は人でいる限り、ある意味まともと言える。

 そんな、単なる言葉遊びとしか思えぬ言葉であるが、

 どうにもその言葉が僕の心につっかかっていた。


 人であるから『まとも』であるし、

 人であるから『まとも』ではない。

 意味が分からないと切り捨てるのは簡単であるが、

 しかし、僕と言う人間はこの言葉に、ある種の共感を示しているらしい。


 僕とて、どうして共感を抱いているのかなど分からないし、

 ぶっちゃけ自分でも知りたいと思っている。

 しかしながら、やはり人と言うのは『情』が存在するからか、

 体は正直であるという言葉の通り、理屈を貫通した感情が備わっている。


 何と忌々しい。


 だが恐らく、この言葉の『まとも』の定義について、きっと、この『情』というキーワードは必要不可欠であり、また、ある意味、答えに最も近いのではないかと勘繰りを入れてみる。

 詳しい解説なんてしてみたら、恐らく分かる人と分からない人が現れるであろう。

 だから僕は誰にもこの言葉を話さないし、僕は他人を、言ってしまえばそこまで尊重しない。

 何故ならば、人と言う生物は、精神――イコール『感情』を省いた際、自己完結できると確信しているからだ。


 感情は愚かである。

 これは教訓だ。

 僕は、全てを終えた頭で、そう色濃く感じる。

 両手に広がる生暖かさと、体の芯を凍らす鋭い冷気に怯えつつ、

 僕と言う人間は、白い霧を口から漏らし、照明がままならない路地裏にて。


 感情を用いて、殺人をしたからだ。


 転がり不格好に倒れる男は、赤くドロドロで煮えた鮮血を腹から垂れ流す男は、

 先ほどまで僕に対し嫌がらせをしていた奇妙な男であり、

 そしてその男が言う事が、未だに馬鹿らしくて笑えるけれども。


 しかしながら、その馬鹿げていた男の戯言をしっかりと聞いていれば、

 このような最悪は訪れなかったのかもしれないと、僕は遅いが、後悔に近い物を抱いた。


 ――しかしその抱いた後悔が、後に後悔でないという事実に気が付くのだが。


 それは僕が、今抱いている感情について解説をし、

 そして理屈を用いて語れるようになってからの話であり。

 とどのつまり、僕に今必要なのは、

 考えるだけの時間と、そしてこの状況をしのぐ策であった。


「お困りかい?」


 なんて、頭に響いた憎ましき声は、僕の耳から頭に通った空気振動であると共に。

 その異常光景について、僕の解明を軽く阻害するほどの、害悪性を有していたと言わざるを得ない。


「……なんで生きてる?」


 話しかけて来た男は、気が付くと僕の眼前に存在し、

 僕が屠った死体を屈んで眺めながら、舌なめずりの音を出して、こう答えた。


「これが俺様の異能だからだ、殺人鬼」


 男は、死体と同じ服装、同じ顔面を覗かせ。

 僕の目の前に、亡霊として顕現したのだった。


 これが神のいたずらであるならば悪趣味と非難するし、

 これが僕の妄想ならば僕は既に手遅れだが、

 この不可思議かつ解明不可であり、そしてあり得ない光景に。


 僕と言う人間は愚かにも、感情でしか反応が出来なかった。

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