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『隣人』

交代、してはいない。2

作者: 鈴木

 ウサギは内臓構造上、一度飲み込んだものを吐き出すことは出来ないという。

 故に仕方がなかったのだ。

 ウサギは「食糞行動」と称される行動を取るが、だからといって肛門から出されることに当人が忌避感を抱いたとして、誰がそれを責められるだろう。

 自業自得で片づけるにはやはり躊躇、憐憫を誘われる。

 ――――ということで、礼龍(らいりゅう)はそのアナウサギの口へ己の魔力を糸状にして送り込み、胃袋にいる野草もろとも飲み込まれた眷属の体に先を絡ませて引っ張り出した。

 放っておいても胃液で溶かされることはないが、自力で這い出てくることが可能かどうかは前例のないことだけに判断がつかなかった。そして、飲み込まれる瞬間を目撃してしまった身としては放っておけない、と思う程度には礼龍は薄情ではなかった。


 閉じられていたアナウサギの口を魔力で僅かにこじ開けて引き出した眷属――――それは体長が一ミリにも満たない昆虫だった。


 カナンが地球に居る時にざっと調べた限りでは草食のウサギが昆虫を食べるかどうかは資料によって異なり、野生種の一部や家畜化された種は捕食するというものもあれば、草を食べた際についていた虫を不可抗力で口に入れることはあるというもの、虫は食べないと断言するものもあった。実際のところがどうだったのかは、はっきりさせる前にこちらの世界へ来てしまった為、今となっては知り得ようもない。

 [ホーム]に生息するウサギはアナウサギとノウサギがモデルの二種で、その存在を認知はしていても生態まで追究していないのでカナンは運営が何処までリアルに近付けているのかをこれまた知らない。

 知っていそうな存在が現在は間近にいるが、日々の会話の中にウサギが登場する機会に恵まれず未だ問うことをしていない。また、この先その機会があったとしても問うかどうかは怪しい。ウサギの食性に関心がないからだ。

 契約主のカナンがそうであるからでもないが、礼龍も目の前のアナウサギの食性は知らない。故に眷属が呑み込まれたのが餌としてなのか事故なのかは判断がつかない。

 つかないが、どの道どちらであったとしてもすることは同じだった。


 礼龍の長いひげの先へ移動後、魔力糸を解かれた眷属はそこはかとなくばつの悪そうな気配を滲ませながら身震いをした。

 身体に残っていた胃液を振り落としたのだ(ウサギの胃液がその挙動で落とせる性質のものなのかどうかは突っ込んでも仕方がない。伝家の宝刀(敢えて誤用)所詮「荒唐無稽(ゲーム)」だ。――――元)。

 その一滴が礼龍の目元まで飛んだが特に不快がるでもなく、居住区(うち)に戻る~?と呑気な声を掛けながら空へ舞い上がった。

 胃液を気にしない礼龍は波打つ己のひげの先の眷属の様子も気にしなかった。

 掴まっているのは大変ではないか、落としてしまったらどうしよう、などの気遣いは一切ない。

 せずとも難なく眷属はひげの上でその身を安定させていたが、そうだろうという明確な信頼が礼龍にあったわけではない。

 ただのうっかりだ。

 緊張感の必要ない状況で、礼龍の思考は短絡化していた。








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