第1話 猫拾った
仕事が嫌なわけじゃない。
でも平凡すぎる日常に少し飽きている自分がいる。
そんな自分を変えてくれる出来事を私は待っていたのかもしれない。
私、葉中明日音は新卒で入社して3年、慣れない仕事で毎日ヘトヘトになりながら働いていた。
10月の始め、仕事もかなりたまっていたが、今日は大型台風が接近しているということで早めの帰宅命令が出た。
「急がない早くしないと電車止まっちゃう。」
職場の最寄り駅に小走りで向かっている。
「ホント早く帰れてよかった・・・」
曇天の空模様に、雨もかなり本降りになり、雷も鳴り始めた。
鞄が濡れないように胸にしっかり抱え込み、傘の持ち手を握り直す。
駅前のビジョンには応援している男性アイドルユニットFEALJOYの最新シングルのPVが流れていたが、今日はゆっくり眺めている余裕はない。
「発売日まであと何日だっけ・・・」
そんなことを思いながら駅前を足早に通り過ぎる。
ミュ〜、ミュ〜・・・
小走りで駅に向かっていると狭い路地から、か弱い鳴き声が聞こえてきた。
「なんだろう?」
立ち止まり、狭い路地を覗くと小さな子猫がいた。弱っているのか、まったく動かずに震えている。
「猫だ・・・なんでこんなところに。」
捨てられたのだろうか、どこからか逃げてきたのだろうか。
漫画やアニメでは段ボールに入れられているイメージだが近くにそんな物はないようだ。
「放っておけないよ・・・」
ミュ〜、ミュ〜
子猫がゆっくりと目を開ける。
右眼が薄い青、左眼が濃い緑。とても綺麗。
子猫と眼が合って、「置いていかないで!」なんとなくそう言われた気がした。
「・・・うち来る?」
子猫に言うと「ミュ〜・・・、ミュ〜・・・」弱々しいが返事をした。
私が今この子猫を見捨てたら死んでしまうかもしれない。
「よし!うちにおいで。」
飼えるかわからない。でも見捨てるなんてどうしてもできない。
「タオル持って来ててよかった・・・。」
鞄から台風の雨に備えて持って来ていたタオルを出し、子猫を優しく包み、鞄に入れる。
駅に到着し、足早に改札を通り過ぎる。
「ごめん、今は鳴かないでね・・・。」
内心ドキドキしながらかなりの満員電車に乗り込み、なんとか帰宅できた。
帰宅後、タオルに包んだ子猫を鞄から出し、優しく拭いてあげた。
「よかった・・・息してる。」
子猫は規則正しい寝息を立てて寝ていた。舌が少し出ていて可愛い。尻尾もピクピクと動いている。
部屋の隅に残していた畳んだ段ボールを組み立て直し、バスタオルを敷いて、その中に子猫を入れる。
子猫に必死になりすぎて自分もかなり濡れていたのでシャワーを浴びる。
「ふぅ・・・」
シャワー後、子猫の寝顔を見ながら無事に連れて帰って来られたことに安堵する。
だがあることを思い出した。
「このアパート、ペット不可じゃん。」自分が住んでいるアパートがペット不可ということ。
「やっぱり貰い手探すしかないかな・・・」
鞄からスマホを取り出し、SNSのアイコンをタップする。
「今日、帰宅途中に猫を拾いました。住んでいる場所がペット不可なので、明日動物病院に連れていった後、
貰い手の方を探そうと思います。・・・よしっ。」
子猫の写真を撮影して発信ボタンをタップする。
するとすぐにいいね!とコメントの通知が何件か来た。
「カワイイ!」「優しい飼い主さんと出会えますように。」「貰い手の方が見つからなかったら引き取ります。」
SNSのコメント欄を眺めながら、「飼いたいけど難しいよ。」と思う。
まだ実家にいた時、猫を飼っていたが今は独り暮らしで仕事で家にいない時が多い。
「はぁ・・・とりあえず興味持ってくれる人がいてよかった・・・。とりあえず明日朝イチで動物病院かな。
それまでに台風過ぎるといいけど。」
窓の外を見るとかなり雨風が強い。明日には過ぎるだろうか。
すごく瞼が重い。そんなことを思いながら私は眠った。
眠りから覚めたらとんでもないことが始まることも知らないで。




