社畜は頭を抱える
混乱する私に煌びやかなドレスに身を包んだ少女が歩み寄る。
「はじめまして、聖女様。聖騎士様。私はこの国の女王のネルティアナと申します。」
ふぁ?聖女?聖騎士?と思わず隣の威月を見ると戸惑ったような不安な顔をしている。彼女もグルでドッキリでも仕掛けているのかと思ったが不器用で真面目な性格だからそんな演技ができるとは思わない。
「えっと……いきなり聖女とか聖騎士とかよく分からないんですけど」
何故かキョロキョロとしている威月を横目に女王様?に問う…不敬とか言って首刎ねられないよね?
「これは失礼をいたしました。ご説明をさせて頂きます。」
そう言うと同時に椅子が出てくる。ふかふかで良い材質なんだろうなと現実逃避を始めた横で威月はまだソワソワとしている。少し鬱陶しいと思ってしまう自分は本当に最低な人間だ。
「この国は数日前に魔物の群勢の襲撃を受けて危機に瀕しております。先代国王夫妻を始め優秀な騎士や文官も命を落としました。お恥ずかしい話、私共では力及ばす、異世界に生きる聖女様と聖騎士様にお知恵とお力をお借りしたく今ここに勝手ながら召喚させて頂きました。」
……全くもって勝手な話だ。私の意思は?断りますとか言ってことわれるのか?国が滅ぶとかはこの国の事情だ。正直私の知った事では無い。
「まこと勝手にお呼び出しした事、責められても文句は言えません。全てが終わったその時にはどうぞ私の命を持って償いを…」
「却下。女王陛下が易々と身を投げるモノではないわ」
私は元の世界に戻ってもただの社畜だ。両親は心配してるだろうが、旦那も子供もいない身としてはこの世界で生きようが元の世界で生きようが大した差はない。しかし、威月はどうなんだろうか。先程から何も喋らないけど
「とにかくこの世界の事を教えてください。」
「ありがとうございます!聖女様!」
…何となく分かっていたが私が聖女で威月が聖騎士なのね。
「所で、何故私達なの?」
「この世界を導くに相当しいお方を神が聖女様として選定され、その聖女様をお守りする為に相当しい方を聖騎士として選定するからです」
…10年前に大喧嘩…いや、あれは私が一方的にキレ散らかして別れた幼馴染のどこが相当しいのか是非も神様に問いたい。
ため息をついて威月をみると前髪で隠された左目に大きな傷が覗く。子供の時は無かった比較的新しそうな傷だ。
「威月……その傷」
言い切る前に椅子を勢いよく倒しながら私の前に威月がとびだす。
「聖騎士様!」
慌てた声に恐る恐る顔を上げると威月の手から鮮血が滴り、貴族らしい服を着た男が振りかざしたナイフを素手で受け止めている。
「陽香ちゃんを傷つけるな!」
低く唸ると同時にその男の腕を捻りあげて組み伏せる
「この国は!フィリカ様の者だ!偽の聖女め!俺が!俺がその姿を暴いてやる!」
騒ぐ男の腕を更に強く捻り、駆け寄ろうとする女性騎士に向かって威月は首を横に振り、代わりに何人かに指を指す。
「私を聖騎士とし、助けを乞うなら。私を信じてくれ」
「御意に、我らが聖騎士様」
返事と共に威月が指差した者を取り押さえる。
「聖騎士様!お手が!」
女王が血だらけの威月の手を握ろうとするもそっと握り込む様に引く
「汚れます。私は平気です。」
この国も一枚岩では無いという事だろうか、そもそも警備ザルすぎんか?と渦巻く頭をなんとか冷静に保つ
「威月…なんで」
何故、彼女は害をなそうとする者が分かったのか、どうして。私を守ったのか。
「ごめんね。陽香ちゃん」