プロローグ
お約束の美学
「「…ようこそいらっしゃいませ」」
古めかしい洋館の入り口で美しい二人の少女が頭を下げる。
双子だろうか?
一分のズレもないその動きに少々驚いた。
顔を上げた少女たちを改めて見ると、あまりに瓜二つな顔に更に驚かされる。
歳の頃は10代半ばほどであろうか。
僕よりは少し年下に思える。
黒い長髪に揃いの和服、二人はまるで日本人形のようだった。
美しすぎて現実感がない。
まるで物語の世界に紛れ込んだかのようだ。
「「…どうぞ、お入りください」」
少女たちに促されるまま、僕は館の中へと歩を進める。
外は雨が次第に強くなってきており、嵐の気配を感じる。
これで雨風をしのげる。
とにかくその安堵感でいっぱいだった。
エントランスは広く荘厳だった。
時代を感じさせるものの決して美しさを損なわない調度品の数々。
天井には大きなシャンデリア、そして正面に大階段。
悪いところなど一つもない。
だが、同時に強烈な違和感を覚える。
――なんだろう?
不意に大階段の上から声がかかる。
「ようこそ、我が雷鳴館へ」
――ああ、やっぱり
声は主はこの館の主人と思われる人物だった。
驚くべきことに(すでに僕は驚いていないが)顔には西洋の鉄仮面のようなものをつけており、表情が全く分からない。
「失礼。その昔、事故で大けがを負いまして。客人にお見せするようなものでもないのでな」
――そうでしょうね
主人は車椅子に乗っていた。おそらくそれも事故の後遺症なのだろう。
双子の一人が大階段を上る。主人の介助に向かうのだろう。
――別行動もできるんだな。
なんとなく二人同時にしか動かないものかと思っていた。
「どうぞこちらへ」
残った一人に案内され、僕はそのまま一階左手の通路へとついていく。
「今宵は荒れるようだ。嵐が過ぎ去るまでどうぞごゆっくりお過ごしください」
主人は去り際にそう言い残した。
――本当に荒れそうだな
僕はある種の覚悟を決めていた。
渡り廊下を歩きながら思う。
あきらかにおかしい。
ここまであからさまなことってあるか?
嵐の中の古い洋館
幻想的な双子の美少女
仮面の主人
明確にどれとは言えないが、漫画、ゲーム、小説、今まで少なからず何度も目にしてきた(ような気がする)世界観。
――何も起きないってことは、ないんだろうな…
悪い予感はしていた。
何かおかしなことに巻き込まれている。
館に入る前からそう感じてはいた。
だって僕は何も覚えていないのだから。
気が付いたら館の前にいて、自分の名前すら思い出せない状態だったのだから…