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真夏の夜話

作者: 柏木匡

 公園に響く明るい声、母親が子供に注意を促す。

それは決して怒りではなく優しい声だった。木々の緑は陽に照らされ

木漏れ日となり、陽が差す間は笑い声と歓声に包まれていた。


 だが陽が沈めばその賑やかさはなくなり、暗闇が包みこむ。

子供たちの歓声の代わりに聞こえてくるのは虫の音と風で揺れる葉の音だった。

耳を澄ますとその自然が作り出す音以外の音が声が聞こえるだろう。



 男は月末の仕事を終え家路を急いだ。

毎月の事だが棚卸には時間を取られる。入社して2年目、仕事にもなれ

大学時代からの交際相手とも順調だ。仕事の終わる時間が遅いのは2人で

過ごす時間をより大事な物に変えていた。


 都内から1時間かけ男は最寄りの駅へと着いた。

この駅は都内からのベッドタウンとして最近脚光を浴び始めたが、まだ自然

が豊富に残る緑豊かな町である。


 最近は新興住宅も増え、男の少年時代とは様変わりしてきた。

それは寂しい気もするが時代の流れである。時が移れば街も変わる。


 定期を自動改札に通し改札正面のドアを抜ける。

風は8月独特のヌルさと湿気を持っていた。ネクタイを緩め上着をわきに抱える。

終電間近ともあり、改札を抜けてくる人数は数える程であった。


 男の自宅は駅からバスで10分徒歩であれば30分かかる道のりである。

この時間バスは既になく、男はいつものように徒歩で帰宅する。


 駅周辺はまだ人の流れはあり、自転車をこぐもの、レンタルショップでたむろする

若者など明るさに溢れていた。


 男はそれを尻目に駅前商店街へと歩みを進める。

すでに商店街はほとんどがシャッターを閉め、空いているのは何軒かのコンビニだけだった。


商店街も5分ほどで抜け、住宅街へと続くこの辺りになると街灯も数が減り

駅前のような明るさはなくなっている。時折道路を横断する黒い影。

多くの人がその生物を忌み嫌う。生活圏に密着しすぎたためカブトムシやクワガタとは

明らかに違う扱いを受けていた。


男もその生物は嫌いである。

生理的に受け付けない。恋人の前ではそんな所は見せないが一人の時は関わらない。


 交際相手に電話を掛ける為、携帯電話を取り出し登録されている名前から選択する。

着信に一件見なれない番号があったが、着信時間が0秒だったので間違電話だろうと

恋人に電話を掛ける。歩いて帰宅せねばならないときには助かる相手だ。


 ほどなくして恋人は電話に出て、明日行くデートの話やお互いの仕事などを

たわいもなく話していた。男は住宅街を抜け裏路地へと入る。

大きい道にでてもよいのだが遠回りになる。男は暗い路地へと話しながら進む。


 路地の途中に小さな公園がある。

男は携帯で話しながらその公園の横を歩いて行く。


 ふと公園のうすぐらい電灯照らされて違和感を抱く存在があった。

離しながらそれを確認する。夜の暗さと電灯の明かりが弱いのではっきりみえないが

女の子のようであった。時刻は0時をまわっている。


 小学生の高学年ぐらいだろうか。うずくまっている為、身長が目測できない。

近頃はこの時間でも塾やゆるい家庭の子供は外にいる場合も見かけるが

誰もいない夜の公園でうずくまってるのは変だと思った。

男は状況を交際相手に伝え、公園の黄色い車どめをまたぐ


 その状況を伝えられた相手は自分を驚かせる為だろうと思っていた。

入浴後の肌の手入れを済ませ、ベッドへ寝ころぶ。


 男は少女と思われる子に近づいた。男は受話器を耳から離し声を掛ける。

その声は電話の向こうにもいる彼女にも聞こえた。


「どうしたんだい? こんな時間にどこか痛いのかい?」

脅えさせないよう極力優しく喋った。


 うずくまる女の子からは何の反応もない。

仕方なく女の子の正面にまわりしゃがみ込んだ。

女の子は顔を上げなかった。男は再度話しかける。


「お母さんは? それともお友達がいるのかな」


 返事はなかった。すると左手に持っていた携帯から彼女の声が聞こえる。

なにかを喋っているようだったが、耳にあて少し待つように伝える。


 彼女の声は震えていた。


 男は立ちあがり少女から視線を外さず受話器を耳にあてる。

彼女は誰かと話しているようだった。家族だろうか、違う今彼女は一人暮らしのはずだ。

交際相手にだれと話しているのか問いかける。返事は無く彼女は誰かと話しているようだった。


「あなただれよ? 博樹出してよ……何その声は? 邪魔なのはそっちでしょ!」


 彼女は誰かに怒っているようだった。しかし声は震えている。

男は自分の名前がでていることに違和感を感じだ。


「おい……なにいってるんだ? 誰とはなしているんだ?」


 男は慌てて周りを見渡す。

男の声は彼女には届かず彼女はヒステリックな声をあげていた。



その時、男の腕が掴まれた。



 男は驚き携帯を落とす、うずくまっていた少女の方を振り返った。

目を疑った。それは少女ではなく大人の女性だった。

顔は痩せこけ肌は土色に変色し直視できないほど崩れていた。



 男は腰を抜かし、後ずさりする。女は立ち上がり男の元へゆっくりと歩いて行った。



 携帯電話からは交際相手を呼び掛ける声が響く。



 次の瞬間、聞いたのは彼女が愛する者の初めて聞く恐怖の叫びだった。


 彼女はベッドの上で固まる。公園に女の子がうずくまっていると

彼は言っていた。そうして受話器からは彼が問いかけている声がした。

その後、雑音の後にスロー再生のような女の声がしたのだ。


 彼女は慌てて彼を呼んだが、聞こえてくるのは女の声だけだった。

その女はこう言っていた。


「ジャマナノ……は貴女…………ガ邪魔な……ノ……ア……」

その耳障りな声だけが受話器から聞こえる。



 彼女は恐る恐る受話器耳に当てる。

受話器からは虫の音と何かを引きづる音が聞こえる。


受話音量を押しメモリを上げた。



「…ズル……ズル……ザ…ザ……」

虫の音と一緒にそれだけが聞こえる。


さらにメモリを上げた時。



「ジャ……マ……ナノ……ア…アナタ…………ジャマダ!!」


大音量が部屋に響き渡った。


 


お読み頂きありがとうございます。

季節物を書いてみました。


8月5日 本文修正

一話完結型なので連載ではなく短編として投稿しております。

段落の取り扱いがイマイチわからない作者です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女の立場になって考えてみると……恐怖を覚えました。 もう少し、「男」と「彼女」の仲睦まじい関係が描かれていたら、より怖かったと思います。
[一言] 最初から主人公と恋人に固有名詞があった方が臨場感が出たのではないでしょうか?
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