第三話 折れない心
翌日はこたつでのんびり。
こたつの心地よさに身を任せ、だらけていたときのこと。
友人たちに不幸のお裾分けしたことで罰が当たったのか、
突如、太ももにひんやりとした感触と、まるで背筋も凍る悪寒が走る。
普段なら女幽霊との遭遇に胸がときめく状況だが、
残念なことに、二度の悲しき出会いにより文字通り気分が優れなかったので、
早々に毛布をめくる。
果たして現れたのは、やはり野太い幽霊だった。
「ていっ!!」
恐ろしく早い目潰しをしかけ、のたうち回る幽霊をよそに思わず嘆く。
「どんだけ執着しとんねん!コイツ、いい加減本物(女性の幽霊)出せや!!」
ベランダから突き落として物理的に厄払いした後、財布をもって近くのコンビニまで歩く。
気分はすこぶる優れないが、お腹は減るもの。
日々の食事をコンビニ弁当に頼る彼には、コンビニは欠かせない。
気分を入れ替え、夕飯を何にするか考えながら歩くこと数分。
コンビニまであと少しという距離にさしかかり、
ふと顔を上げると、こちらへ向かってくる人影が見えた。
夕焼けが眩しくて、相手の顔ははっきりは見えないが、
真っ赤な服装をした人がこちらに近づいてくる。
相手が近付くにつれ、何故か言い知れない感情が募る。
何かがが違う。
今までとは比べ物にならない悪寒。
十メートルほどの距離まで近づくと、
数々の幽霊と遭遇した経験から、さすがに相手が人間ではないと分かった。
真っ赤だと思っていた服装は、
赤茶色の粗末なワンピースで、まるで血がこびり付いたような色合いをしていた。
見るも悍ましい身形に、恐怖を掻き立てられた。
ゆっくりとした足取りでこちらへ近付いてくる。
三メートルまで近づくと、相手が野太くないと分かった。
ワンピースから覗く手足はほっそりとして、まるで男性らしさが感じられない。
こちらへと伸ばすその手は赤黒く腫れ上がり、全ての爪がひび割れていた。
緊張で声が出ない。
あと一メートルの距離まで近づき、男ではないと確信した。
相手の顔を覗き込むと、喉仏も顎ひげもなく、男性特有のむさ苦しさは見られない。
ただ、禍々しい凶相。
その血走った瞳が逆に印象に残った。
目を逸らすことができない。
まるで、その瞳に吸い込まれるように手を伸ば――
「ていっ」
容赦なく突き出した拳が、女幽霊の顔面に吸い込まれた。
ぶっ飛ばされて二度三度地面を跳ねた後、動かなくなる女幽霊。
思わず手が出てしまった。
「あああああああああああああああああああああああ」
俺はなんてことを。
二度三度と続く悪夢、その度重なるストレスによって、
平常心を失っていたが、まさかこんな酷いことになるなんて。
殴り飛ばした女幽霊に目を向けると、
こちらに恨めしそうな見つめたまま、虚空へ消えていった。
そう、女幽霊は消えていった。
そこにはもう何もない。
「あああああああああああああああああああああああ」
あたりには未練がましい男の絶叫が木霊していた。
最悪な一日だった。
念願の女幽霊ちゃんに会えたのに、何もできなかった(除霊あり)。
もっとキャッキャウフフしたり、ひと夏の甘い思い出になることを望んでたのに。
こんなの絶対おかしいよ。
ギャン(省略)で負けたなら、わかる。自業自得だもん。まだ心の整理がつく。
だけど、あんな別れ方をするなんて(除霊あり)。
一体なんでこんなことになったんだ。
「はー、もーマジかよ。せっかくの大チャンスがー」
未練たらたらと言うことなかれ。
俺は諦めの悪い男。
今回はたまたま間が悪くて除霊しちゃったが(四度目)、それも全て、流されるままに行動していた受け身の姿勢にあると睨んでいる。
そう、待つんじゃなくて、こちらから迎えに行くんだ(白馬の王子さま)。
よっしゃ次からは積極的にアプローチしていこう。
さしあたって、
「ビデオデッキは返却しちゃったし、近場の廃病院でも探そっと。墓地とか事故現場でもいいけど。そんで撮影とかしたら、えちえちなハプニングが起こっちゃったりして……」
そんな妄想に浸っている彼には、今後も素敵な出会いが待っているだろう。
望もうと望まざると。