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第二話 狂気に満ちた……

 翌日の深夜0時を過ぎたあたり。

 ライブの打ち合わせが夜遅くまで長引き、ついでに飲みに誘われ、

 ベロンベロンに酔った足で、帰宅していた途中のこと。


 道端に古ぼけたビデオテープが捨てられていた。


 ゴミだと勘違いして通り過ぎようとした矢先、

 狩人(ジョブチェンジ済み)としての勘が、その場に身体を引き留めた。

 振り向いた先にある、古びたビデオに、目線が釘付けになる。


 酔いを覚ますよう、ふーーっ、と一呼吸する。

 ……お宝の匂いがする(泥酔中)。


 なんていうか、こう。

 (とろ)けるように甘い魅力を感じる。

 ふむふむ、これは良いものだ。実にいー仕事をしている。

 しかし、なんで誰の目にも留まらなかったんだ?

 結構目を引く感じなのに(デジャブ)。


 周りを見渡す。オ―ケー。

 素早くビデオを拾い上げ、服の中に隠す。はーいオーケー。

 路地裏に移動して、再度周りを見渡す。はーいオーケー、うぇっへっへ。


 おっと、顔を引き締めなきゃ。

 帰宅するまでが遠足って良く言うもんな。

 一旦落ち着こうと、ふーーっ、と一呼吸する。


 瞬間、身体に電流が走る。

 冷静になれたからこそ、気付けた。

 お宝を鑑賞するまでの最短ルート、その唯一の落とし穴。

 俺じゃなきゃ見逃してた。


「……俺ん家、ビデオデッキあったっけ?」

 このあと、無茶苦茶確認した。



 なかった。

 だが、安心してほしい。


 俺はラッパー。諦めの悪い男。


 善は急げということで、頼れる悪友達に連絡を取り、

 夜も明けぬうちに、見事ビデオデッキを借りることができた。

 取りに来るの早すぎと、怒られちゃった。てへっ。


 結果オーライ。

 いやー良かったわ借りられて、ラッキーラッキー。

 あいつらが居なかったら危うくこのビッグウェーブに乗り遅れるところだったわ。

 借りてきたビデオデッキを、せっせと自宅のテレビモニターにセッティングする。


 持つべきものは友。いい言葉だ。

 昔からの幼馴染だから、気兼ねなく素の自分をさらけ出せる。

 当然、あいつらも素の自分をさらけ出してくる、そんな関係。


 1人は俺と同じで、ラッパーなあいつ。髪が緑のスゲーやつ。

 何がスゲーって、努力家でかなりストイックなとこ。たまに暴走するけど。

 いつも新品のラップを持ち歩いてるし(暴走中)、ラッパーの鏡だな。

 俺も見習わなきゃだぜ!


 もう1人は、陽気なあいつ。

 俺とは違い、圧倒的な社交性の高さを備えてる。たまに暴走するけど。

 ただ、誰にも物怖じしないスタイルは嫌いじゃない。ガタイも良いし(意味深)。

 こいつも要チェックだぜ!


 感傷に浸っている間にも手は止めず。

 セッティング完了、ちゃきーん。


 ちなみに幸せのおすそ分けをしようと、

 悪友達の分もダビング済みだったりする。さすが俺、義理固い。

 ネタバレは嫌だから、ダビング中と巻き戻し中は外出していた。

 煙草を買って、ヤニも補給済み。準備は万端、完璧ですわ。



 後は再生するだけ。

 デッキ本体の再生ボタンを押そうと手を伸ばすも、その手は何故か震えていた。


 俺には分かる。

 ……これはたぶん、"警告"な気がする。

 心の中の綺麗な俺が、一線を超えさせない為にくれた最後のチャンス。

 止めるなら今だろう。

 まだ、間に合う。


 内心の葛藤とは裏腹に、

「そんなこと関係ないぜ☆」と、再生ボタンを押した。


 俺はラッパー。諦めの悪い男。



 緊張した様子でその時を待つ。


 長い砂嵐の後に映し出された映像は、緊縛された男の姿。

 毛深い男がより毛深い男に責められ……いやこれはダメだな。

 これ以上は、俺の頭がフット―しちゃう。


 ラッパーの矜持たる、折れない心がぐにゃりと曲がる、

 ――その寸前で、天啓の如く、閃いてしまう。


 いや、逆に考えるんだ。

 苦手なものなら、克服すれば良いと。


 毛深いんじゃない、モフモフなんだ。

 そう、あれはモフモフ。きゃっきゃ、うふふとモフモフ達が戯れてるんだ。

 俺には見える(自己暗示)。

 よーし、よしヨシ、いいぞ俺ー、その調子だ。


 それは常人では辿り着けぬ境地。

 まさにコペルニクス的発想。

 ダメージを度外視した圧倒的攻めの姿勢。

 ……やはり俺は天才か?


「んなわけねーだろ、○○○○○(コンプライアンス)」

 取り出しボタンを連打する。

 指に力がこもる。借りたデッキだとか知ったこっちゃねぇぜ。

 さらに力をこめ、一心不乱に連打する。

 頼むぅ、頼むから俺の純情を返してくれぇ。



 ようやくビデオテープを取り出すことができた。

 純情は返ってこなかったが。


「はー↓↓、これはまじくそ。ビデオデッキさんも完全におこだわ」

 嘆く男に更なる追い打ちが襲い掛かる。


 テレビモニターに急に砂嵐が映りこんだかと思った途端、

 画面が暗転した。


 モニターから突如腕が突き抜け、その手が地面をかきむしる。

 ふしくれだった指。ひび割れた爪。

 良く見ると小指のあたりからは、赤い血が垂れているように見える。


 なんだこれ?血か……いや、これ赤い糸じゃないか?(フラグ回収)


 オドロオドロしい光景をよそに、期待に胸が高鳴る。

 今度こそは愛しの"女"幽霊ちゃんに出会えるのではと。

「おいおいまじかよ、こんなホ○○デオ(コンプライアンス)に潜んでやがったのか?」


 はー諦めないで良かった。

 夢は叶うって、昔のエラい人も言ってたもんね。

 あたし知ってるもん(幼女)。


「はー↑↑、サイコーかよ?今度こそ頼むぞ、神様?」

 手から肩、肩から頭の順にモニターから這い出てきたのは、夢にまでみた長髪の幽霊。

 期待に胸が張り裂けそうな中、その長髪から覗く、(おぞ)ましい目玉がこちらを見据えた。


 まるで野武士を彷彿とさせる、それはそれは野太い男(幽霊ちゃん)だった。

南無三(なむさん)っ!!」

 怒りを乗せた目潰しに、野太い男(幽霊ちゃん?)がのたうち回る。

 実に見苦しい光景だった。


 室内を見回し、目についた掃除機を持ち上げ、追い打ち。

 残念ながら汚れは落ちず。

 ならばと、さらに腹を蹴り上げ、壁際に寄せる。


 のたうち回る姿をよそに、ビデオテープを掴み、そのまま床に叩きつける。

 幽霊はテープの破損と共に消えていったが、俺の心には癒えない傷が残ってしまった。

 ちくしょう。


「どーなってんだよ? 2度目やぞ、オイ!」

 腹の虫が収まらない。なぜなら2度目だから。

 なんなら2日連続だったりする。


 だめだだめだ。

 一旦落ち着こうと、ふーーっ、と一呼吸する。

 肩の力を抜き、身体全体を脱力させ、床に横になる。

 このまま寝るかと、目を閉じた。


 瞬間、ゾッとするほどの悪寒が走る。

 冷静になれたからこそ、気付けた。

 未だ悪意が消えていないことに。


「なんでだよ! テープは壊したはず!」

 とっさに跳ね起き、辺りを見渡す。

 ――あった。


 テーブルの上に置かれた。

 ――まさか。


 それは新しいテープ。

 ――俺はなんてことを。


 但し、ダビング済みの……。

 ――してしまったんだ。


 2度の心霊体験を経て、

 鋭敏に研ぎ澄まされてた感覚が、俺に教えてくれる。

「呪いもダビングされた?」



 一度解き放たれると誰にも止められない。

 引き鉄を引いてしまった事実を、見なかったことにした。

 恐怖のどん底に落とすこの事実を……見なかったことにした(大事なこと)。


 嫌なこともいずれは終わる。

 終わりよければ全て良し。

 つまり、大事なことは、この経験を次に活かすこと。


 ネガティブなことは考えちゃだめだ。

 引き寄せちゃう、いやなこと。

 そう、ポジティブに。何事にもポジティブに。

 ポジティブな思考がこの経験を、次に活かすために必要なのだ。



 そう、さしあたっては、

 ハイテンションに身を任せて借りてしまったこのビデオデッキの返却。

 友人とはいえ借りを作ったままは良くないからな。


 迷惑をかけたお詫びに、このテープもあーげよ!


 呪いは連鎖する。

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