日常回って意外と伏線になっていますよね
「上級魔法の記述……上級魔法の記述」
俺はクライス家の書庫で、魔法に関する本を探していた。
希少価値が高い本。そのため村長の家といっても、それほどの数は期待していなかったのだが……。
応接室と同じスペースに本棚がところ狭しと並んでいる。本棚自体も2メートル近い背丈がある。
膨大な知識が詰まっていた……ある意味理想郷なのだが、問題が一つあった。
なんでもこの書庫には司書などいないらしい。
普段閲覧する者などいないようだし、管理する意味もないのは分かる。
「にしても……乱雑すぎるだろう」
名前順にもジャンル別にもなっていない、無法地帯状態な本棚。
目的のものを探すのも一苦労だ。
探索の途中で、あのふざけたネーミングセンスが光る奴の本も見かけた。
気になり手に取ってみると、
「人類最終目標の考察」
と、まじめな題名が大文字であった。
「~結局人間の最終目標ってエッチだよね~」
副題を見て、本を叩きつけてしまった。
一度でも見直した俺の徒労を返して欲しい。
目的のものはそれから30分経った頃に見つかった。
「中級魔法発動条件~より分かりやすく改良しました~」
「上級魔法発動条件~これができれば銀級だ~」
まともそうな題名で良かった。奴がおかしすぎたんだ。世界は……おかしくなかった!
まずは中級魔法を覚えて見ることにする……が。
「どういう意味だこれ?」
魔力等価の法則だの、魔力残量の法則だの、この世界独自の法則が書かれており、理解が難しい。
スロームに聞いてみるか。
そう思いバタン、と分厚い本を閉じる。
今何時だろう?
アーチの家にお邪魔したのが、太陽が登りだした頃だ。
今は……昼ぐらいか。かなり集中してたな。
「お疲れ!」
「おう。────ひゃ」
労う声と共に、冷たいなにかが頬に当たる。
ビックリして変な声が出ちゃったじゃないか。
土作りのコップに注がれた何か発見し、戦々恐々とする。
「何って、差し入れよ!」
でもこれは……どう見てもドブだ。
黒く濁った水分。表面にアクみたいなのが浮かんでいる。
「く、クライス家のもてなしは、どぶ入りのコップを差し出すことなのか?」
「なに言ってんのよ!
そんなことあるわけないじゃない!」
「水っていうより、濁った川のような色してんだけど。このコップの中身」
「失礼ね!どぶなんか入れてるわけないじゃない!」
良かった。アーチにもそのぐらいの分別はつけることが出来るようだ。
なら、なぜこんな色になっちゃった。そこが心配だ。
「なあ、大丈夫なのか。これ。飲んだ瞬間、血反吐吐かないよな?」
「この私が淹れてあげたのよ!そんなあるはずないでしょ!」
「だから心配なんだよ」
俺の拒絶にアーチが肩を震わせる。
い、言いすぎたか?
「の、飲まないの?」
不安げに、上目遣いで俺に聞く。
なまじ活発な性格だから、意外性もあって効果抜群だ。
水に炎とか、フェアリーにドラゴンとか。相性属性的に有利なのだ。
善意でやってくれたことは確かだ。飲まなきゃかわいそうだろ。
男なら、度胸を見せろ!
俺の脳内ライトが、そう発破した。
ええいママよ!スロームよ!解毒魔法の準備をしといてくれ。
ごびごびと勢いよく飲む。
口に広がる生臭さ、ざらざらとした食感。
それ以上に味は濃厚だ。
「あれ?意外とイケるじゃん」
「よ、良かった。美味しいよね」
ほっと胸を撫で下ろし、ニカッと笑う。
その姿に熱っぽい視線を向けた。胸部が熱い、息が荒い。
いやおかしい。俺はロリコンではない。そりゃあアーチが成長したらどうなるか分からない。
けどだ!少なくても今欲情することはない。
絶対にだ。絶対にだ!
ここだけは否定しないと、何かとんでもない勘違いをされる気がする。
「おい、アーチ。何を入れた?」
「何って?
タートルのだしよ。川辺で採れるでっかいのね」
…………精力剤じゃないですか。亀エキス100パーセント配合の、強力なやつじゃないですか。
「これを飲めば、精力的になるって言われているらしいわ。ルーアルンデが疲れていたから、気遣ってあげたの!」
別の意味で精力的になっちゃうな。「力」を抜けば幼いバズーカが荒れ狂っちゃう。
しかし、やばい。これは非常にやばい。
今にも理性が蒸発して、襲いかかってしまいそうだ。
「アーチ。一旦出ろ」
「ど、どうしたのよ?」
「いいから早く」
「ここは私の家よ……むぅ、分かった」
たぶん必死な顔をしたんだと思う。アーチは書庫から出た。
どうしようこの高まり。
俺は六歳だ。賢者になることはまだ出来ない。
煩悩だけが残り、それを発散する手段がないとは……。思った以上にきつい。
こういう時は、心身ともに無になるんだ。瞑想だ。マインドフルネスだ。
俺は瞑想をし、落ち着かせる。
暗闇に閉ざされた世界で、波紋が広がる感覚。
「精神系の魔法……かな?」
暴走状態に陥ったことで、開花したらしい。
魔法は知識と想像力、奇跡を起こす魔力があれば理論上は開発出来るらしい。
「知想変換の法則」というらしい。
「どんな効果が出るか分からないし、自分に掛けてみるか」
何の魔法か知らないと、宝の持ち腐れだし、危険だ。俺は心の中でスロームに謝り、制約の指輪を外した。
その安直な考えが、ルーアルンデを悲劇へ陥れることを知らずに。
「あ、ああ、やば」
精力剤で得た魔法だ。つまりそれに類似する効果を持つのだ。
二つの効果が相乗し、いよいよ理性が吹き飛んだ。
「アーチ!」
「どうしたの?もういいの?」
入り口付近で待っていたアーチが、顔を出す。
そんなアーチに俺は片足を下ろし、右手を伸ばした。
「好きです結婚してください」
「へ、え、ほえ?」
突然の告白に、眼をぐるぐる回す。
無論、俺の本音ではない。ちなみに何をやっているのかすら理解できていない。
……あれ、何をやってんだ?
「我が小さなプリンセスよ。どうか我が愛を受け取ってください!」
気持ち悪い事を言い、アーチに口づけをしようとする。
「や、やめなさいよ!」
放たれる見惚れるほど見事なストレート。
避ける、という概念すら欠如した俺はそれをもろに受け
…………意識を失った。
「目覚めた?」
「これなんというか、何をされているのですか?」
背中は地面と一体化してるののだが、頭は柔らかい。
「膝枕。そんなことも知らないの?」
「いや、どこでフラグが立ったのかと」
「何を言っているのか分からないわ。理由なら、あなたの調子が悪くなったからよ!」
調子が悪くなったのだったか?
気絶した直後の記憶がない。なにかやらかしたような気がするんだけど。
心なしか頬か痛い。
ああ、そうか思い出した。アーチに殴られたんだ。
「それはありがたい。……って、元々はお前のせいじゃないのか」
「なんで?」
「なんでもない」
タータルのせいで俺が暴走したことを言うのはためらわれる。
善意……だったしな。
が、教育をした方がいいんじゃないかと思う。
こんなの誰構わず振る舞えば、アーチの身が危ない。
「あのなぁ、今さっき俺に飲ませたやつあるだろ」
「またあの話?
おいしかったって?」
「うまいのはうまいが、あれを二度と男に飲ませるな、いいな」
「なんでよ」
案の定難色を示すアーチ。
さて、どう説得したものか。
「あれは……そうだな。一生を共にすると決めた奴のみに。それもマンネリになってきたら」
こんな幼い子供に何を吹き込んでいるのだろう。
世界が世界なら、今頃通報されているところだぞ。
「ならいいじゃない。私達ずっと一緒でしょ?
あらなに?いきなりの告白?
さすがに今はあれなので、もうちょっと大きくなってから
「ずっと友達でしょ!」
そっちかぁ。それ以外ないか。
不覚にも、どう断ろうかと悩んだよ。
「一生は無理だろ」
「だって、この村で暮らす限り一生じゃない」
「ま、そうだな」
この村は狭い。だからここで暮らす限りは、付き合っていくことになるだろう。
「あれ?
でもそうなったら、一生は無理?」
「どういうことだ?」
「だって私、この村から出るのが夢なの」
想定外の夢を告白する。本人はあっけからんとしているが、それがどれ程難しいか分かっているのか?
「……おいおい。否定する気はないが、親には言ったのか」
「お母さんにはもう言った。あいつは……知らない!」
お母さんよく許可をしたな。大事なクライス家の血筋だろうに。
けど、シークがそれを知ったら、なんとしてでも止めるだろうな。
出奔でもする気か?
家の問題もあるし、外の危険性も問題だ。
「けど外を出るには、強さが必要だぞ」
「うん、だから特訓してる」
「どんな事をしているんだ?」
「素振りしたりとか、走ったり」
「下地は必要だが限界があるぞ?」
「どうすればいいのよ」
「うーん、自分で考えてみろよ」
表立って指示をしたくない。
考える頭があるなら他者に依存せず悩めばいい。
じゃないといずれ後悔する。俺がそうだった。
「そうだわ!
この村の強いやつにケンカを吹っ掛ければいいんだ!」
「おおう。だがあながち間違っていないか」
「手始めに」
急に黙り、それを不審に思った俺はアーチを見た。
顔が真っ青になったと思う。
「あの……アーチさん?
なぜファイティングポーズをしてるんでしょうか。俺に向かって」
「近くにいる強いやつだからよ!」
あーそういえば 、完膚なきまでにあしらってしまっていたな 。
─────これはチャンスだ。
シークとの約束がある。剣術と魔法、常識を教える。
アーチの性格からして、他人に何かを強要されるのは嫌がるだろう。
自発的にしてくれるなら万々歳だ。
「オーケー分かった。なら外に出ようか、ここでやるのはマズイ」
◇◇◇
アーチとメイと出会った草原で、対峙する俺とアーチ。
「まずは素手で攻撃してこい」
「分かった!」
アーチは下半身に力を入れ、走る。
手加減はない。右手に渾身の力を込め俺に迫る。
それを上半身を入れるだけでかわす。カウンターに足を引っかけ、胸に手を当てる。そのまま右手の方に倒れるように力を入れた。
面白いほど簡単に転ぶアーチ。
身のこなしは悪くない。どころか多分俺より上手だ。
けど、
「ダメだ。攻撃が安直すぎる。もうちょっと頭を使え!」
体勢を整え、再度殴りかかるアーチ。
ブラフだな。本命は蹴りだ。
俺はしゃがみ、かなりのスピードの蹴りをかわす。
「フェイントを使ったのはいい。けど目線、息づかい、体勢。すべてが分かりやすくすぎるな。精度の低いフェイントはスキになる」
「むぅぅぅ。分かんない!」
地団駄を踏み、苛立ちをあらわにする。
「ああ、ごめん。アーチは身のこなし事態は悪くない。頭を使う事を教えるより、直感を磨かせた方がいいか」
「ルーアルンデ?」
一人でぶつぶつと呟き、それを不気味に思ったのかアーチが戸惑う。
「分かった。アーチ、今度は何も考えず殴りかかってきてくれ」
「簡単なのは大歓迎よ!」
愚直に俺に殴りにかかる。
やはり安直だ。分かりやすい。
俺は上半身を斜めに傾け、ストレートをかわした───と思いきや、間髪をいれず蹴りが迫った。
………………二段構え!
回避しきれず、足を素手で止める。
プロ野球のブルペンのような軽快な、けれど凄まじい音が俺の鼓膜を震わせる。
「おぅ。すごいなアーチ。思ったより早かった」
「ふふん、でしょう」
まだ未発達な胸を張り、腰に手を当てるアーチ。
「何してるの二人とも」
昨日聞いたばかりの少し気だる気なソプラノ。
「おっ、メイ。奇遇だな」
「うん、奇遇」
少し地表が盛り上がっている場所で、メイは手を振った。
「きぐうってなに?」
「そんなことも知らないの?」
「し、知ってるし!
あれでしょ、うんわかるわかる」
「本当にぃ?」
メイとアーチの形成は昨日とは真逆だ。
さんざんお人形扱いした意趣返しのつもりだろうか。
「はいはい、あんまいじめてやんなメイ」
「はーい。でもアーチをいじめてたルーアルンデに言われたくないなー」
「人聞き悪いことを言うなよ!」
「違うの?」
「アーチと特訓してたんだよ」
絵面的にはちょっとアレだった気がしないでもないが。
「ルーアルンデ。雰囲気とか変わったね?」
「……分かるのか?」
「まあ、いろいろと、ルーアルンデを見る機会はあったからね」
ほほーう、それは……意味深な言葉だな。どういうこと?
適当な発言をして俺が戸惑うのを笑う作戦だろうか。
「まあ覚悟を決めただけだよ。少しずつでも変わっていこうって」
「そう。…………変わらない方が良いこともあるけど」
後半部分をボソリと呟くメイ。ちょうど吹いた風の音で聞き取れなかった。
「ん?何か言ったか」
「ううん、何もないよ」
「何の話をしてるのよ!」
「アーチがバカだなぁて」
「むむむ、言いたい放題してぇ」
メイはアーチに対して辛辣だな。いや俺にもか。
シークにも態度が変わらなかったから、こういう性格なんだろう。
しばらく唸っていたアーチだが、とたんに嬉しそうな顔へとすり替える。
オンオフの電源があるようだ。
「そうだ。せっかく三人集まったんだし、遊ばない?」
「それは名案。よきよき」
「それで、なにして遊ぶんだ」
…………。
三人共々石像のように固まり、空気が凍る。
俺は友達と遊ぶ余裕がなかった。アーチは友達がいないことは聞いている。
「なぁ、メイ」
「うーん、どうしよう?
私もそんなに友達いないからなぁ」
意外だ。メイみたいな性格の子はリア充ぽいけど。早熟なだけ同年代と馴染みにくいのだろうか。
「そ、そうね!
とりあえずいたずらでもする?」
「却下だ却下!」
いきなりなんてことを言い出すんだ。
アーチのいたずらなんて、どこかの家を破壊するぐらいやってのけそうだぞ。
メイが挙手をし、提案する。
「遊ぶっていっても、出来ることは限られているし、アーチの家にでも行く?」
「あいつがいるから嫌!」
即断だった。シークあわれなり。
「ってなったら外で遊ぶか」
「えー、疲れるから却下」
「ならメイの家にでも」
「ごめん、それはできないかも……。私も気が引けるし」
複雑な家庭事情なんだろうか。
普通の環境ならこの歳でメイみたいに聡くはならないか。
「ってなればなんだ?」
猛烈に嫌な予感が背筋をなでる。
「ここはルーアルンデの家にお邪魔するしかないわね!」
「賛成」
「ちょっとまて!
もうちょっと危機感というかだな。そういうのを持った方がいいと思うんだ」
「大丈夫。ルーアルンデはそんなことしない」
「そうね!」
出会って一日しかたっていない相手をそこまで信用できるとか。
アーチは何も考えてなさそうだが、メイは不思議だ。
なんとか反論しようと材料を集めた所で。
そういえばこいつら人の話を聞かないな、と諦めた。
「さ、左様で……ございますか。お嬢様方」
そういって恭しく頭を下げるしか、俺はできなかったのであった。
注意。これは作中とは全く関わりのない世界線です。
ルーアルンデ「さて、今回のゲストはアーチさんです。パチパチ」
アーチ「て、手慣れているわね」
ルーアルンデ「そりゃもう何回もやってるからな」
アーチ「ふーん、じゃ自己紹介ね!」
ルーアルンデ「それについてはいいです。はい。これ以上はネタバレになっちゃうので」
アーチ「何よ面白くないわね!」
ルーアルンデ「ごめんごめん。今回の話だったけど、どうだった?」
アーチ「ルーアルンデが気持ち悪かったわ!」
ルーアルンデ「んぐ。それを言われると弱い。けどお前にも……こほん。
話は変わるがこの企画のことどう思う?」
アーチ「作者がブックマークと感想を狙ってるやつね!」
ルーアルンデ「そうそれだ」
アーチ「とっとと、ブークマークしなさい!」
ルーアルンデ「ちょおっと!アーチさん?運営さんにバンされるから口を止めろよ!」
アーチ「何よ、ルーアルンデのためにやったのに……」
ルーアルンデ「それでバンされたら元も子もねぇだろ!」
アーチ「むぅう」
ルーアルンデ「なるほど分かったぞ。アーチを登場させるのが困難だった理由。…………めちゃくちゃ扱いづらい」
アーチ「むぅうううう」
ルーアルンデ「あ、ああ!もう時間だ。仕事しないとな」
アーチ「…………次回お家デートってマジですか」
ルーアルン「あの……アーチさん?怒ってます?アーチさん?アーチさん!」
このあと慰めるのに20分は掛かりましたとさ。
注意。これはギャグであり、本当にブックマークを強要している訳ではありません。
運営さんごめんなさい。バンするなら通知をお願いします。即刻このあとがきを削除します。