母親の温もりって偉大なものですね
ブックマーク3件ありがとうございます!
嬉しすぎて狂喜狂乱、裸で躍り狂いました。(嘘です)でも、心の支えになっているのは嘘偽りのない事実です。躍り狂いもしました。裸の部分だけが嘘です。
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「それで、言い分は何かあるか」
ヒノキのいい匂いが香る我が食卓にて、俺は正座(自主的に)をしていた。このまま勢いで土下座までする勢いである。
足元が水没しているため、だんだんと体温が奪われている気がする。
あの銀髪の精霊、シルが放った水魔法は、今にも燃え盛らんとする木々のみに留まらず、家まで侵略した。
家の中にあったものには被害がなかった。不幸中の幸いだ。
暗くどんよりとした雰囲気が辺りを漂っている。もっとも暗いのは雰囲気だけでなく、視覚的にも同じことが言える。
我が食卓は、丁度日陰に位置する所にあるため、通常はろうそくに火を灯すのだが、雰囲気を考慮したのか、自然状態で薄暗い。
俺を真正面で仁王立ちしているのは、厳つい顔を一層凶暴にさせたライトと、「やっちゃったねー」的な顔をしているスロームだ。
そりゃ家を全焼させかけたかと思ったら、今度は水浸しにしてくれたのだ。普段は人の心に疎い俺だが、痛いほど怒りを察しできてしまう。
ごめんなさい、と言って許してくれるかどうか。
…………いや違う。失敗をしたなら、打算抜きで謝らないとな。許すか許さないかは相手が決める。俺はできる限りの挽回をするだけだ。
「言い訳はありません。本当にごめんなさい」
深く頭を下げ、相手の反応を待つ。数秒の気まずい沈黙の後、ライトが深々とため息を吐いた。
感情の起伏があまりないライトだが、今回ばかりは怒り心頭のようだ。
「今回は幸いに被害はなかった。だが下手をすればとんでもないことになってたぞ」
「はい。申し訳ござません」
ライトの言葉は耳が痛い。けれどそれを逃げずに受け入れる。ライトの言っていることは事実だ。
それに、ライトも怒鳴り散らしたいだろうに、俺のことを思って、諭すように言ってくれている。
事態を想定仕切れてなかった。甘かった。
魔法は強力だ。それ故にあらゆることを想定しないといけない筈なのに。
「まあまあ、あなた。ここは私に任せて」
母性を全開にした声が陰鬱な空気に響く。今まで黙って聞いていたスロームが、ライトと俺の間に割ってきた。
「だがしかしだな」
急激に強ばった表情が弛緩し、スロームを止めに掛かるライト。
「あ、な、た?」
優しげな声に微笑を浮かべるスローム。だが氷点下の微笑だ。無言の圧も同時に発生させている。
「わ、わかった」
ライトは吃りながら、首を縦に振る。
あの厳格で感情の起伏が小さい父親が、あっさり引くほどの怖さ。
恐怖で俺の二の腕に鳥肌が立った。
「ルーアルンデ」
スロームは他者を圧倒する威圧を消し、俺に問いかけた。その変わり身が怖い。
「はい」
冷や汗を流しながら、それでもスロームの瞳を真っ直ぐに見返す。
「幼いあなたに、こんなことを言うのは酷かもしれない。けど言いましょう。あなたはもう既に子供の力じゃないの。その辺りと大人ですらあなたにかなわない」
「そ、それは流石に言いすぎでは…………」
いくら訓練を積んでいるとはいえ、俺は六歳児だ。
将来を見据えれば、並みの大人を凌駕する力を持つとは思うが、今現在は子供の力にすぎない。
町中のチンピラに喧嘩を吹っ掛ければ、間違いなくぼこぼこにされる。原型を留めるか否かは議論の余地があるとは思うが。
「いや、もうお前はその域に達しつつある。この村の大人にはまだ太刀打ち出来ないがな」
スロームの言葉に賛同するライト。いやいや、親バカ過ぎるでしょ。
てか、後半部分に聞こえたことが気になるんだが。
ここの村人達は平均の大人より強い?
だめだ考えるのをよそう。嫌な予感がする。
「善悪の判断も常識も足りない。そんな状態で力を振るえばどうなると思う?」
仮に、仮にだ。俺がそれぐらいの力を持っているなら、答えは決まっている。
「他者にも自身にもよくないと思います」
「そう、良くできました。だからあなたには制約を与えるわ」
「せ、制約……?」
愛しげにスロームは俺の頭を撫でている。
制約。その単語が物騒に聞こえるのはルーアルンデだけだろうか。
「おい待て! それは流石に許容しかねるぞ!」
血相を変えて、烈火のごとくスロームに寄るライト。
なんだ?ライトの言葉のニュアンスには、スロームを思いやるものを感じられるが。
とんでもなくリスクがあることなのだろうか。
「あなただって納得したじゃない。これは遅いか早いかの違いよ。それに私だって、自分のことは自分で出来るようになったのよ?」
「それは……そうだが。けど」
「あなた」
先程の覇王色の覇気は使わず、どこか懇願にも似た眼差しでライトを見つめるスローム。
「……………………分かった」
たっぷり数十秒苦虫を噛み潰したような顔をし、ライトが折れた。
けど、俺は納得していない。放任主義の彼女だが、六年間母親をやってくれたのだ。何かあったら「自分で立ち上がれるしょう?」といいつつ、手助けはしてくれていたのだ。
最初こそ他人のような、よそよそしさを覚えていたが、もうスロームのことを母親だと認識している。
そんなスロームが危険なことをするなら、止めるのは俺だ。それが、俺のせいでもあっても。
「そ、その制約というのは何でしょうか」
「痛いことはしないわよ。心配した?可愛いんだから」
たおやかに笑い、俺の額を小突く。
こんな時でも、スロームは俺の心配をしてくれている。
「か、からかわないで下さい!違います。僕は母さんのことを心配して」
「ふふ、本当にいい子ね。私にはもったいないぐらいだわ」
そんなことない。こんな異世界から来た、文字通り異郷人で異色の俺こそ、スロームは勿体無い。
「安心して、お父さんが大袈裟な反応をしただけよ」
優しい口づけが俺の頬にされた。
温かい。心が満たされる。
スロームがここまで心配するなと言っている。ならそれを信用しないのは違う気がする。
「じゃあ始めるわね」
スロームは薬指から指輪を外し、それを俺の人差し指につけた。
銀色に光る、天使を形作ったような指輪だ。
途端に、とんでもなく強い力が俺を押さえつけた。
否、俺の魔力をだ。まるでさらさらに流れていた血液が、圧迫され固形状態になったような不快感だ。
「あの、これは?」
「これは制約の指輪。これをつけてると魔力が押さえられるの」
なるほど道理だ。力を制御できなければ、リミッターを付ければ良い。簡潔で実に合理的だ。
しかし、一つの疑問が残る。
「ちょっと待ってください。母さんはなんでその指輪をつけてたんですか」
「私はね、生まれながらに魔力が高かったの。でも家が貧乏だったから、魔法書なんて買えなくて。パンクしそうになったところで、ライトがこの指輪をくれたの」
タイヤに空気を入れすぎるとパンクするみたいなものか。
でもそれだと、スロームの身が危ない。
「ダメですよそんなの。母さんが危なくなるってことですよね」
「ううん、私は村の結界の維持に魔力を消費してるから」
ちょくちょく家を出て、何をしていたのかと思ったら、村の結界を張っていたらしい。
でもそれだったらいいかな。
「だが、それも完璧じゃない」
「え?」
「もう、余計なことを。そうね、たまにでいいからルーと一緒に魔法を使いましょうか」
「それで母さんの魔力が発散する出来るなら、いくらでも」
「うんうん。こんなできた子供になるなんて幸せだわ。それじゃあ早速やりましょうか」
スロームは指をパチン、と鳴らし、床に張っていた水を消失させた。水の染み込んだ床もピカピカになっている。
え、あれ、何て言う魔法?
俺が起こす奇跡とは比べ物にならないほど、高度なことをするスローム。
理論の理解すらできない。
「さぁ、特訓特訓。ルーと特訓、ふふ」
語尾に音符マークが付きそうなほど嬉しそうにしているスローム。
肩をごつごつした手で軽く叩かれた。
「ルーよ。母さんはあれでも銀級並みの魔術師だ。死なないように気を付けろ」
……………………そ、それ早く言ってほしかったなぁ。魔力が膨大と言う時点で気づいとけよと、自分自身にも突っ込みを入れよう。
「それじゃ、行きましょうか。理由がないからルーと特訓できなかったけど、丁度いい建前が出来てよかったわ」
スロームは太陽すら霞む笑顔で、俺を引きずり、外に出た。
「大変だから結界を張りましょう」
無詠唱で丁度庭を囲むように、半透明の壁が作られる。
「あ、あの、結界なしで出来ることをやりませんか」
「んふふ、ダメ」
死刑囚を断罪する無慈悲な一声。
スロームの回りに大地が震えるほどの力が集まる。
「インフェルノ」
地獄のかまをひっくり返したような炎が。
「ブリザード」
絶対零度の冷気が。
「トルネード」
空気を切り裂き、全てを飲み込む竜巻が。
俺をギリギリ避けて発動される。
もはや自然災害だ。動く自然災害がスロームだ。
なんとも言いがたい衝撃に、意識を手放したいと脳が叫ぶ。これ以上は情報過多でショートすると訴えた。
体は脳に逆らえない。
薄れ行く意識の中で、一連の問答が走馬灯のように駆け回った。
「善悪の判断も常識も足りない。そんな状態で力を振るえばどうなると思う?」
「他者にも自身にもよくないと思います」
──────全くもってその通りだったな。身に染みて理解できたよ。
注意。
これは作者の悪ノリで書いたものです。メタな発言が多いので、世界観をぶち壊しにされたくない人は、読み飛ばしちゃってください。
また、今後ずっとするかも未定です。
スローム「さて、始まったわ」
ルーアルンデ「何の話ですか、母さん?」
スローム「ここはねぇ、次回予告をするための場らしいの。面白そうでしょ?」
ルーアルンデ「なんか、作者の思い付きとノリでやった企画っぽいな」
スローム「はーい。メタな話はそこまで。あわよくば感想やブックマークを狙っている作者なんて、ぽいってして」
ルーアルンデ「一番メタなこと言わないでよ母さん」
スローム「ふふ、因果応報よ」
ルーアルンデ「もう因果応報なんて言葉はごめんだ」
スローム「なんのこと?」
ルーアルンデ「いや、なんでもない」
スローム「たまにおかしなことを言っちゃう残念な子だけど、良いところの方が一杯あるのよ?」
ルーアルンデ「誰に言ったのか分からないけど、唐突な擁護しなくていいから」
スローム「本当のことなのにね。早めの反抗期かな?」
ルーアルンデ「六歳で反抗期はちょっと早いですね!?」
スローム「いいことじゃない。そういう素直じゃないところも嫌いじゃないよ?」
ルーアルンデ「そ、それはどうも」
スローム「って、ツンデレするのも良いところなのよ」
ルーアルンデ「か、あ、さ、ん?」
スローム「あらら。ルーが怒っちゃったから軽く仕事しちゃうわね」
スローム「次回。幼馴染みっていいものですね」
ルーアルンデ「これ、続いちゃうのか?」