プロローグ
これは、俺自身の物語だ。
誰かに指図されたわけでもなく、自分で選び取った唯一の道。
自分の意思を持たず、他人にすべてを委ねていたこともあった。
けど、それは地獄だった。自分の身を削ることは当たり前。考えることも出来ず、それが最善だと脳に刷り込まれていた。
けれど、ある契機を境に、俺の考えは変わることができた。
もう自分のためだけに生きようと思った。
スローライフを目指そうと目標を持てた。
そして今、自分の意思でここにいる。
もう一度言おう。
─────これは、俺自身の物語だ。
◇◇◇
安全地帯から自らの意思で前に進んだ俺達に、筋骨隆々の二足歩行の獣「オーク」が現れた。
オークは俺達と同数……三匹が隊列を組んでいる。
「いくぞ、お前ら!」
俺は仲間に発破を掛け、戦闘体勢へと移る。
剣士風の男が先陣を切る。一匹のオークに向かって剣を振りかざした。
オークは木の槍で応戦し、つば競り合いになる。
にらみ会う一人と一匹。
残されたオークは無粋にも邪魔立てをしようとする。
「おっと、させない」
俺はイメージを叩きつけるように、魔法を発動させる。男とオークの周囲を土で囲い、二人だけの舞踏場を作り上げた。
強制退場をさせられたオーク×2は、雄叫びを上げながら俺をにらんだ。
「guoooooo!」
二匹同時に地面を揺らしながら、俺へと向かってくる。
俺の取り柄は魔術だけだと思った?
腰に掛けてあった鞘を撫で、抜剣する。
「やぁああ!」
全身をバネのように使い、オークへと突撃する。
「geriiee?」とオークは間抜けな声を出したが、さすがはこの過酷な環境で生きてきただけはある。
即座に俺の攻撃に対応し、剣と槍がぶつかった。
奇襲に成功すると踏んでいた俺は、舌打ちをひとつ、魔法をもう一匹のオークに発動させた。
地面が盛り上がり、オークの足へと噛みつく。
無詠唱魔法だ
「gegagsa!」
苦しそうにオークは自身の足を睨み付ける。ダメージとしてはその程度のことだが、俺の目的は足封じにある。
「gagagagaa?」
オークも状況を理解したのか、足元に槍をぶつけるが、ガンガンと音が鳴るくらいだ。
一匹を無力化し満足した俺は、呆然としているオークへと、魔法を使う。
烈火の玉を数個発動させ、オークの周囲へと回らせる。
「guaaaaaaa!」
俺は手をグッと握り、同時に烈火の玉を降り注がせた。
断末魔をあげるオーク。中級魔法を重ね掛けした威力は、肉を焼き付くす。後は骨だけになった。
「さてさて、もう一匹調理しないとな」
手をパンパンと叩き、足封じされたオークへと向き直り、
「gugooooooo!」
「なっ!」
オークが俺に向かって槍を振り下ろしていた。
なぜ動ける。
そんな俺の疑問は、オークの無くなった足を見て解消する。
────足を切りやがった!
後悔してももう遅い。段々と濃くなっていく死の香りに、俺は目をつぶった。
「…………あ、れ?」
いつまで経っても痛みは訪れず、目を開ける。と、背中に光の剣が刺さったオークが、地に倒れようとしていた。
「油断しない、死にたいの?」
我がパーティーメンバーの魔術師兼、参謀役の少女の声だ。
俺は反省するのは後回しにし、作り上げたドームを解除する。
「こっちは倒したよ」
血の流れる剣を拭きながら、剣士は手を振った。
「ふぅー」
辛くも勝利した初陣に、緊張の解けた俺は脱力する。
しかしまぁ、勝ちは勝ちだ。
反省すべきことは一杯ある。改善すべき所も、作戦ももっと練らなければならない。
けれど、あんなに恐れていた魔物を倒したという事実が、達成感として現れた。
─────ほんっと、あの頃と比べたら大違いだ。
俺はもう、昔になってしまったことを思いだした。
そう、あれは確か、前世で死んだ後の話だ