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完璧王子のファンにはならない

作者: 藍星しずく


榊原椿(ささきばらつばき)、高校3年の18歳。


部活には入っていない、友達も少ない私は学校が終わるとすぐに家に向かう。



午後4時過ぎ、なんの予定もない学生らが帰宅し始めるこの時間の街はいつでも騒がしい。



『今、人気急上昇中の新人モデルHaruプロデュースの香水、発売決定!』



街中で最も目立つであろう大型ディスプレイからそんな声が聞こえて足を止める。


足を止めたのは私だけじゃないようで、周りにいた女子高生たちのグループも同じところを見つめている。


そりゃあそうだろう。突如現れた18歳の男性モデルのHaruはここ最近で驚異的な人気を得て女性、特に学生からの人気は物凄い。



「どんな香水なんだろう〜!」


「絶対買わなきゃ!バイトのシフト増やせるかな〜」



そんな若々しい黄色い声が後ろにいる2人組から聞こえる。



あの人たちもHaruのファンなんだな。

顔も整ってて高身長、その上優しいと噂の完璧王子、本当にすごい人気ね。



そんなことを考える。



彼のファンじゃないという女子高生なんて全然いないんだろうな。


でも私は、Haruのファンにはならない。



なるほど、発売はちょうど1ヶ月後香水の香りだったり値段だったりとかはまだ公表されていないんだな。



ここでの広告はあくまで人目をひくため、しばらくしたら本人の口から詳細を発表して売り上げを伸ばす気なのだろう。



「こんな所で立ち止まらないで早く帰ろう。」



そう呟いて足を進める。




***




綺麗に管理されたマンションの2階、鍵を開ける。



「ただいま。」



もちろん、おかえりの声は帰ってこない。



「はぁ、夜ご飯の準備しようかな。」



手を洗って制服から着替えてからキッチンに行く。


幼い頃に両親を事故で亡くしてから私は、母の妹である叔母さんの家に住まわして貰っていた。


叔母さんもその旦那さんも、2人の息子であるお兄ちゃんも嫌な顔せず私を引き受けてくれた。


ただ、私にとって居心地がいい家とは言えなかった。


本来なら家族3人で祝う誕生日、3人で行く家族旅行、そういった日常に家族ではない私がいていいのだろうか。

日に日にその気持ちは、申し訳なさは募っていった。


それに気づいてか、食事を作るという役割を私にくれて少しでも家にいてもいい理由をくれた叔母さんには感謝しかない。


そうして中学に上がったころからその家を出る高校2年の春休みまで、朝昼晩毎日食事を作っていたから今では慣れたものだ。


叔母さん夫婦が両親が残してくれたお金には手をつけずに私を育ててくれたお陰もあり、今の生活に金銭面で困ったことはない。



本当に感謝しかないな〜



そんなことを考えながら、夜ご飯の支度を進める。




***




「よしっ、今日もいい感じね。」



無事完成してリビングのテーブルにお皿を運んでいると玄関の方から鍵の開く音がする。



もう、こんな時間か。



エプロンを外して玄関に向かう。



「ただいま〜」



おかえりと口にする前に肩にずっしりと重さがくる。



「おかえり、疲れたんなら早く中に入ろうよ。」


私の肩に乗っている彼の顔を見てそう言うのは日常になりつつある。


私の言葉に「ん〜」と気の抜けた返事をしてから私を抱きかかえてリビングに向かう。



自分で歩けるんだけどな〜



そんなことを言っても聞く耳を持たないのは言うまでもないから私は黙って体をあずける。


リビングに着いても彼は私を離そうとしない。

私を上に乗せて後ろから抱きしめソファーに座ったっきり彼は何も喋らない。



「ご飯出来てるのに冷めちゃうよ?」


「うん。」



うんって、食べないのかって聞いてるのに…



「充電中だから、あとちょっと待って。」


「充電って、そろそろ慣れなよ。」


「無理。」



無理って…



「だって、毎日スタジオ行って撮影とかインタビューとか…椿が一緒に来てくれたらいいのに…」


「馬鹿言わないの。私たちが結婚してる事だって本当に一部の人しか知らないでしょ?2人は外では赤の他人にならないといけないんだから。」


「そうだけどさ…」



後ろから不服そうに声がするけど聞かなかったことにしよう。


今の会話で察した人がいるかもしれないが、私の後ろにいる彼は、芸能界にいる。

モデルとして仕事をして今では引っ張りだこだ。



彼の名前は、浅倉春樹(あさくらはるき)

芸名Haruとして仕事している。


そして、私たちは結婚している。

彼が18歳になってすぐ婚姻届を出した。


幼馴染で私の事情を知っている彼はいつだって私のヒーローだった。


叔母さんたちはこの結婚に心配はしたが、反対はしないで祝ってくれた。


とは言っても、彼の仕事のこともあるし世間には公表しないことになっている。

高校を卒業するまでは私も旧姓の榊原のまま生活をしている。



「ご飯食べる…」



充電が住んだのか彼は私を立たせて自分も立ち上がる。



「温めてくるね。」



電子レンジで2人分温めてくる再びテーブルに並べる。

そうやって今日も2人の夕食が始まる。




***




ご飯を食べてお風呂に入って食器を片付け終わる頃には、

時刻はあっという間に9時をまわっていた。



とりあえず今日やらないといけないことは終わりかな。



テレビをつけて教科書とノートを広げる。


家でこうしていると忘れがちだが私も高校生、そして受験生だ。

大学進学を目標にしてる私に毎日の勉強は欠かせない。


春樹からは、「俺が頑張って稼ぐから家にいてくれるだけでいいのに。」なんて言われるが甘えてられないし、いつ何があるか分からない。


考えたくはないが、もし春樹が仕事ができなくなってってことを考えると大学を卒業して私もしっかり仕事をしたい。



「よしっ、頑張ろう!」



気合を入れて苦手な自分の克服したいところを重点的に勉強する。


どれだけ勉強したかは分からない。

急に左肩にずっしりと重さがきた。



またか…



顔を左に向けると、私の後に風呂に入っていた春樹の頭が目の前にある。



「冷たいよ。ほら、髪乾かさないと。」


「…乾かして。」


「はいはい。乾かすから頭上げて。」



素直に従った彼を軽く撫でて洗面所からタオルとドライヤーを持ってくる。



「いつになったら自分で乾かせるようになるの?」


「椿がしてくれるからいいの。」



いっつもそう言うんだから…



毎日、乾かしなさいって言ってるのに一緒に暮らし始めてから1度も自分で乾かして出てこない。


私はお母さんですかって言いたくなってしまうくらいだ。



なんて、正真正銘、私は奥さんなんだけどね。



この事実がいつでもすごく嬉しい。



「はい、乾かせたよ。」


「ありがと。」



また勉強しようかなとは思ったけれど、今日は十分したからと彼の隣に座ってテレビを見始める。


彼のバラエティ番組がやっている見たいで私も一緒になって見る。


そうしていると、私の太ももに彼が頭をあずけてくる。



いつもなんも言わないでくるからびっくりするのよね。



いつも通り甘えたな彼の頭を撫でながらテレビを見続ける。



「あっ、そう言えば香水プロデュースするの?」



ふと、今日帰宅中に知ったことを聞く。


家で仕事の話をすることがあまり好きじゃないから聞かない方が良かったかな、なんて思ったけど彼は平然と答えてくれた。



「うん。ありがたいことにね。」


「よかったじゃん!楽しみだね!」


「嫌じゃないの?」


「え?」



微妙な表情をして私を見上げる彼。


凄いことだと思うし私もなんだか誇らしいよって伝えると意地悪な笑顔を見せる。



「俺がその香水つけたら、それを買ったファンの女の子たちと一緒の匂いになっちゃうよ?」


「あっ、それは…」



嫌だって私が言うのはダメだよね…


さっきまで嬉しい気持ちだったのに一気に暗い気持ちになる。



「うそうそ、俺は使う気ないからそんな顔しないで。」



優しい声でそう言って軽くキスをしてくれる。



「本当…?」


「うん。それに俺は椿一筋だからなんの心配もいらないよ。」


「知ってる…」



そんな可愛くない返事をしても彼は嫌な顔ひとつしない。


もともと異性から好意を寄せられることが多い春樹がモデルになると更に人気が出て…心配が絶えないのが実際のところ。


ただいつもこうやって心配ないって言ってくれて私がどれだけ救われているだろう。


もうそろそろ寝よっか、そう彼に言うと一緒にねって私を抱えて寝室に向かう。




私は、完璧王子のHaruのファンにはなれない。


彼の本当の顔はそれじゃないから。



私は…


ひとりじゃ出来ない事だって沢山あって、誰よりも甘くて、私を溺愛してくれる浅倉春樹の虜です。



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