第16話
パワーレベリングを目的とした志願者一行は、拠点のスーパーから2時間ほど歩いた
いまはもう廃墟同然の大型駅の構内を進んでいた。
「索敵報告です、前方にしばらく敵影無しです!」
本体の進むずっと先の方まで偵察してきた職業盗賊の男が、戻るなりそう報告をする。
「よし、一旦ここでいったん休憩にする!
各自あまり本隊から離れないように腰を下ろすなりして休憩してくれ。
あと1人での単独行動は絶対にしないように。
出発は、1時間後とする!
付き添いのメンバーはちょっとこちらに集まってくれ」
隊長の男が志願者たちへの付き添いに名乗り出たメンバーにそう声をかける。
藤次はどうしようか迷ったものの、ここに居ても仕方がないので、スキルで出入口を作成し、
中に入って休むことにした。
不思議部屋のキッチンに備え付けの水道で水を飲んでいると、いまでは痛みすらない利き腕の
付け根部分がむずむずとしている感覚に襲われる。
これはずっと経験してきた感覚なのだが、なんの感覚だっただろうか?
皮膚の下、筋肉がちょっとくすぐったいような感じ、これは・・・。
記憶を辿っていくと、成長痛という言葉が思い浮かぶが、さすがにそれは無いと思った。
たしかに高校に通っていた現在も、成長痛を感じることは稀にあった。
だが、成長痛を感じる場所は大抵が足だ。
まぁきっと何かの気のせいだろう。
スキルの回復効果とやらに期待して、およそ30分くらい硬くて白い床に座って休憩する。
ちょっと体が温かいと感じるこれは、たしかに回復魔法のそれと似ているといえば似ている。
だが、回復魔法のようにキラキラとした光のエフェクトが無い分、やはり実感しづらいのも
事実だった。
部屋から出ようとドアを引いて開けた瞬間、外の光景を見て愕然とした。
そこは不思議部屋に入る前と打って変わって地獄の様相だった。
何人もの仲間の死体が転がっており、駅構内の壁には飛び散った生々しい血の跡がべったりと
張り付いている。
この短時間の間に、何があったッ!?
すぐにでも駆け寄って安否を確かめたい衝動をぐっと堪える。
敵が居たとしてもまだ不思議部屋の領域内だから、感知されていないはずだ。
部屋の中から見える限りで、用心深く周囲を観察する。
5分しても、動くものは何もないと判断し、いつでも不思議部屋に逃げ込めるように、慎重に
不思議部屋から駅構内へと踏み出した。
そのどれもが残念ながら事切れた動くことのない死体だった。
周囲の血の感じから切り傷かと思いきや、致命傷を与えた傷はそのどれもが刺し傷であるようだった。
しかも穴の直径が20~30cmほどもある刺し傷など尋常ではない。
ひとりひとり顔を確認していくが、全員レベル0の人たちだった。
恐怖に見開かれた目を、そっと閉じて回る。
付き添いで来たベテランの死体は無いものの、暗い駅構内の床に、ひきずったような血の跡だけが
不気味に奥へと続いているのが分かった。
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