第13話
「このドアが見えませんか?」
藤次が左手で指さしたのは、スキルで作成した不思議部屋に入るためのドアだった。
従業員用のバックヤードで、藤次は自分の職業とスキルを、助けてもらったお礼に
役に立てられないかと提案してみたのだ。
最初はにわかに信じてもらえなかったが、出入口作成で設置したドアを開けて、不思議部屋に
入った途端に、ドアはまだ開いているにもかかわらず、バックヤードの面々が壁を指さして、
おい、あいつどこに行ったんだっ!? 消えたぞ!? などと急に騒ぎ出したので、首を
かしげながら不思議部屋から戻ったところで、冒頭につながるわけである。
「俺には見えない、本当にここにドアなんかあるのか?」
そう言ってドアを触ろうとした一人の男の手が、ドアをすり抜け、壁を撫でている。
どうやらドアは見えないし、触ることもできないらしい。
「俺にはまったくわからないが、さっきの現象を見ると、本当にあるんだろうなぁ」
「信じられないけど、職業でランダムを選ぶ奴って、けっこういるもんなんだなぁ・・・」
などと男たちが話しているのを聞いて、藤次は驚いて声をあげる。
「えっ、ほかにランダムの職業を選んだ人がいるんですかッ!?」
いままでの話を聞くとはなしに聞いていた3人が、別に隠すことでもないとばかりに
すっと手を挙げてくれた。
この避難民で唯一の女性、椎名ひかりは、天気予報士という職業だと教えてくれた。
彼女がスキルで予報した天気は、彼女のスキル効果範囲内でのみ100%の確率で、
当たるというか、天候が操作されてその天気になるのだそうだ。
しかも一度決定した天気も、再び天気を予報することで、最終的に最後に予報された天気に
上書きされるのだそうだ。
まだスキルレベルが低いせいか、効果範囲は狭いし、効果時間もそこそこらしい。
この半年の間に、水道から水が出なくなった。
これにより、水分補給という意味では、魔法使いの水魔法か、自然からの恵みである雨が重要視
されることとなった。
ただ、魔法使いの使う水魔法は、そもそも飲み水を出す魔法ではなく、あくまで攻撃魔法という
ジャンルである以上、レベルが上がっても威力が上がることはあれど、水の量が急激に増える
わけではないのだそうだ。
このスーパーにも何人かいる水魔法を使える魔法使いの男からそう教えてもらった。
魔法は、マナやMPといった魔力めいたものを消費するのではなく、体力を消費して使うのだそうだ。
だから魔法を使うと疲れるらしい。
なので獲得できる水の総量という意味では、一定の体力を消費して、一定時間降り続ける雨は、
水魔法より飲み水を確保しやすいのだそうだ。
ただ、魔法使いたちの水魔法と椎名ひかりの天気予報という両方のスキルがあって、はじめて
ここでの飲み水が確保されているので、どちらを欠かすこともできない。
不思議部屋で水を好きなだけ使えるキッチンを有する藤次は、その水をどうにか皆の為に
流用できないか試行錯誤してみたのだが、結局のところ自分で飲むことしかできなかったのだった。
【読者の皆様へお願い】
面白い、続きが気になる!と思われましたら、ブックマーク及び小説下の広告下に『☆☆☆☆☆』があるので『★★★★★』にて応援お願いします!!




