第11話
徐々に意識が覚醒していく。
意識が戻った藤次がまずしたことは、気を失う前に感じた、あの恐ろしく鋭い痛みが襲ってくるで
あろうことに、とっさに耐えられるよう身構えたことだった。
身構えたことで、自然と身体が強張り、意識せず身動ぎをすることとなった。
「オイ、あんちゃん起きたみたいだぜ」
そんな野太い男の声がすぐ近くから聞こえた。
すぐパタパタという足音が近づいてきた。
一向にやってこないあの恐ろしく鋭い痛みを不審に思いつつも、ゆっくり、そしてうっすらと
瞼を持ち上げると、そこには心配そうにこちらを覗き込む20代くらいの女性がいた。
さらに遠まきに、こちらを見ている何人かの男や老人がいる。
何かの台の上に寝かされていたので、上半身だけでも起き上がろうとして、利き腕が無いことに気づく。
「腕、痛みが無い、どうして?」
藤次は、まだ血が足りないせいか、それとも驚きからか、たどたどしい言葉で目の前にいる
女性に質問をする。
「信じられないかもしれないけど、あちらにいる僧侶の方の回復魔法で治療してもらったの」
女性が後ろを振り返り、壁際に立つ50代とおぼしき、いかにも神父というような恰好をした男を
紹介した。
「気にすることはナーイ、すべてはあまねく神の御業によるモーノ。
アナタは神をシンジマースカ?」
「はい、ありがとう、ございました・・・」
「主ヨー、この者に祝福を与えたマーエ、アーメン!」
胸の前で十字の聖印を切り、神父は笑顔で神に祈り始めた。
すると、なんだか体が淡い光に包まれ、ぽかぽかと暖かい気がした。
なるほど、これが僧侶という職業の回復魔法なのかと思った。
現金なもので、痛みが無く、安全という状況からか、盛大にお腹が鳴ってしまった。
そうだ、お腹が空いていたのだったと気づき、同時に周囲の人にそれを聞かれたことで
とても恥ずかしくなってうつむく。
「腹が減るってのはしっかり生きるためには、大事なことだぜ若いの」
笑いながら、レトルトのお粥を容器によそって持ってきてくれたのは、
工事現場にいそうな、わりと強面のひげ面の男であった。
「レンジが使えないから温かくはないが、まぁ食えるだけでもありがたいってもんだ」
感謝をしつつ、容器を受け取るが、利き腕が無い不便さが身に染みる。
四苦八苦しながら、容器を一度台の上に置き、左手で不器用に食べようとすると、その容器が
女性に取り上げられ、お粥をすくったスプーンを口元に差し出され「食べさせてあげる」と言われた。
あーんである。
そもそも味の薄いお粥であったわけだが、この歳でそれをやる恥ずかしさからか、味はあまりよく
分からなかった。
「食料だけはまだまだバックヤードにたくさんあるから、いまは食べてゆっくり休んで、
何事もそれから、ね?」
お腹が満ちたことで、眠くなってきた。
彼らはもう何日もそうしているのか、この従業員スペースのいたるところに、各々が自分の
スペースを確保し、そこでくつろいでいる。
交代でやっているのか、何人かは扉の見張りをしている。
そんな光景を見つつ、久しぶりに常に人の気配がする場所で、ゆっくりと目を閉じたのだった。
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