出逢い
ことにゃんに会えるのであれば、まずは本来の自宅付近へ向かう必要がある。
自宅の外へ出るとすぐに出逢いイベントが始まる設定になっているため、なる早で行かなければならない。
そういえば今日はどっちの家に帰ればいいんだろう。まぁ、今はどうでもいいか。
せっかくミラプリの世界に来たんだから色々と見て回りたいのだが、迂闊に寄り道してはいけない理由がある。
ミラプリはイベントを1つ消費すると、行動ポイントであるハートを1つ消費するシステムなのだ。
ハートは合計5つあり、イベントやアイテムで回復したり最大値を増やしたりする事で、攻略の幅を広げていく。もちろん、行動自体をスキップする事も可能だ。
朝・午前休憩・昼休み・放課後・夜という5つの時間帯があり、序盤はこのハートをうまいこと調整して進めなければならない。なお、次の日になればハートは全回復する。
また、赤いビックリマークがメインイベントで、青いビックリマークがサブイベント。黄色いビックリマークがあれば買い物ができる。
基本的にはこれらを目印にして攻略を進めていくのだ。
赤いマークが重要なのはもちろん、青いマークでも好感度に関わるイベントがあるので、場合によっては見過ごせない必須イベントになる事がある。
ちなみに、黄色いマークが表示されていない建物には入れない仕様となっている。ファニーマートもこの時間は立入禁止。
進行イベントによっては全て『?』マークになる事があり、しっかり会話を聞いていないとイベントクリア出来ないのだが、今はまだ先の話だ。
メインキャラクター達とはマークが無くても会話できるが、好感度には影響せず同じセリフを繰り返すだけ。
話が逸れてしまったがつまり、誤ってイベントマークに突入してしまうと、ことにゃん攻略の為に使用するハートが無くなってしまうのだ。
では実際に、僕がマークを確認できるのかどうか。
それは、今からことにゃん出逢いイベントの場所へ行ってから判明することになる。
さて。
ここからだと目の前にある公園を突っ切るのが本来の家への近道だ。
だが、初日のこの時間は『工事中』という看板と共にカラーコーンとバーが出入口に設置されており、通り抜け出来ないよう設定されてしまっている。
今ならカラーコーンに付いているバーを跨いで簡単に入ることができるが、立入禁止バグで強制的に教室へ飛ばされてしまったらたまったもんじゃない。
まずは無理せず正攻法。正規ルートで本来の家へと向かう。
という訳で公園の手前にある横断歩道を渡り、カカス方面へと進む。ここから大回りして──。
あれ?目の前で会話してる二人組。
片方の女の子って、もしかして……?
栗色に光るポニーテール。
笑うと猫目になる元気っ子。
「か、か、か……」
苦手なタイプは特に無し。
会ったら誰でもお友達。
「かがみいぃぃぃぃぃん!!!!!」
ミラプリのメインヒロインの1人、水瀬鏡。
「うぉっ!?」
驚いた鏡がこちらを振り返り、猫みたいな目をまん丸にさせる。
僕はお構いなしに手を振りながら駆け寄った。
「ハァ、ハァ……。ごめんなさい、いきなり、あの」
「えーっと……。ボクの記憶にはいない人だなぁ」
あぁ、安定のボクっ娘だ。
「ああ、あの、ぼぼ、僕は、その……」
「どこかで会ったことあ……りますか?」
ふわぁ、かがみんの敬語。超激レア。
「僕は、狩場幸太郎って言って、その、転生してきて……。あ、実はここじゃない世界から来てて、ミラプリを極めてて……」
「……ごめんなさい、人違いじゃないですか?」
……あれ?かがみん、怒ってる?
これは、明らかに不審者を見る目だ。
眉間にシワを寄せて、横にいるモブのような子と一緒にこちらの様子を伺うように見てくる。
「いや、違うの。落ち着いて。僕はただ、仲良くなりたくて……」
「ごめんなさい、急いでますので失礼します」
そう言うと、二人は足早にその場を立ち去った。
僕の中の時間が、少しだけ止まった。
かがみんが人に冷たい態度を取った姿を、今まで1度たりとも見たことがない。
苦手なタイプは特に無し、会ったら誰でもお友達。
そんなキャッチフレーズを持つ彼女が嫌悪感を抱いてしまうくらい、僕は最悪な会話をしてしまったと言うことだ。
これがゲームプレイだったら即リセットなのに。リセット機能使えないのかな。
だが、落ち込むのはまだ早い。
逆にこれが、ことにゃんじゃなくて本当に良かった。
もし先にことにゃんと出逢っていたら、取り返しのつかない事になっていた。
それに、改めて確信が持てた。
ここは間違いなく、ミラプリの世界だ。
何故ここに連れて来られたのか分からないけど、本当にミラプリの世界にいるのなら、僕はことにゃんと仲良くなりたい。
攻略対象は、ことにゃんただ1人。
他の女の子に構っている暇はない。
気持ちを切り替えて、先に進もう。