ブライトマン
全ことにゃんルートを攻略し終え、ようやく眠気が襲ってきた。
カーテンの隙間からはすでに光が差し込んでいて、デジタル時計を確認すると8時を回っていた。
軽装に着替えてベッドへ潜り込み、僕はそのまま深い眠りに就いた。
──ふと目を覚ますと、まだ8時過ぎ。
たくさん寝た気がするのに数分しか経っていない。
……あれ?時計が動いてない。壊れてる。
外もやけに静かだ。気になってカーテンをスッと開けて、我が目を疑った。
自転車に人が乗ったまま、止まっている。
僕の家の前は国道からの抜け道になっていて、人や車がしょっちゅう通る。
小窓を開けて改めて左右を見渡すと、車がすれ違う直前で路上に止まっており、
電信柱に手を付いて休むお爺さんは、杖を持ったまま微動だにしていなかった。
朝から近所のコンビニへ向かうであろう母親と小学生くらいの女の子は、
会話の途中だろうか、口が半開きのまま笑顔で固まっており、
近所のアパートの壁に登ろうとしていた猫が、空中でピタッと止まっていた。
何が起こってるんだ……?
両親が大丈夫か気になって部屋へ向かおうと後ろを振り返ると、真っ白な光が視界を埋め尽くした。
「うわっ!」
思わず両腕で目を防ぐ。ついでに尻もちをついてしまった。
腕の隙間から少し覗くと、白い光は両手を腰に当てた人型に輝いているのがわかった。
とりあえず直視できそうだ。頭の中でこの状況を必死で考えようとすると、突然声が聞こえた。
「私はブライトマン。願いを叶える者」
「……ふぇ?」
願い?いきなりなんだ?
「狩場幸太郎。君は選ばれたのだよ」
「……あの、なんなんでしょ」
「いま、この瞬間に動いているのは、私と君だけだ」
「……あのー、これなんですか?」
「だ・か・ら!選ばれたの!」
「えっと……」
ダメだ、状況が全く飲み込めない。
「これって……夢ですか?」
「夢じゃない。現実だ。喜びたまえ!」
どこか嬉しそうな声になる。いや、夢でしょこれ。
「それで、どんな願いを希望するのかね?」
「そんな急に言われても……」
「なんでもいいぞ。大金持ちになりたい、女の子にモテモテになりたい、イケメンになって世界一の有名人になりたい……!」
なんでコイツが楽しそうなんだろう。
「願いを増やすことも可能だし、人を生き返らせる事だってできる。私に不可能など無いのだよ」
「……ほんとに、なんでも?」
「そうだ!なんでもだ!いいぞぉ、その調子だ!」
なんか前かがみになってる気がする。苦手だなぁ、この人。
「それじゃあ……」
せっかくである。とびっきり出来ない事を言ってやろう。
「僕を、ミラクルプリンセスの世界に連れて行って下さい」
「ほほう、なるほど……」
待ってましたと言わんばかりのテンション。出来るわけないのに。
「では、対価となる犠牲を教えてくれたまえ」
「対価?」
「願いを叶えるには、それに見合った犠牲が必要となるのだ」
最初に言えよ。
「二次元の世界となると、だいぶ大きな対価でないと難しいぞ」
「それって、自分の命とか……?」
「命でも別に構わないが、それ以外の何か大切なものでもいいぞ」
「大切なもの……」
まず思い浮かんだのがRIKAだったことに、自分でビックリした。
昨日の今日だからだろうか。今なら失っても何も惜しくはない。
「それじゃあ……」
こんなに早く決定するとは。でも、RIKAって言って『大切じゃないじゃん』って言われたらヤダな。
だったら……。
「僕の、愛する人でお願いします」