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 葛城明日菜は儀式の夜、村から東京へと逃された。

 真希は以前から雑誌で東京に知り合いをつくり、事情を話して預かってもらうことになったのだそうだ。その後、明日菜は恋人を作り、その彼氏の実家である鹿児島に引っ越し、今では結婚して子供を作って暮らしている。

 あの後、真希は手を合わせながら、そう話してくれた。きっと彼女も、本心では信郎に対して申し訳ないという気持ちを持っていたに違いない。

 帰りの電車の中、ミラノは静かだった。

 きっと奥野千代から聞いた話を思い出しているのだろう。

「マリノちゃんを最後に見たのは……そうそう、あの日はあなたと一緒だったわ」

「私と?」

「ええ、あなたはアレルギーがあるから触ることは出来ないのに、あなたもとても可愛がってくれてね。マリノちゃんはあなたが触らないように止めていたわ。あの時、電話があって私は店の奥に引っ込んだのよ。それから5分くらいして店に出てきたら、あなたたち二人ともいなくなっていたのよ」

「その時、他に誰かいませんでしたか?」

「他に? さあ、どうだったかしらね。ウチは近所の子供たちの遊び場みたいなところがあったから、他にもいたかもしれないわね」

 もしかしたら、そこにいた子が川に落ちた可能性がある。

「その黒猫は?」

「帰ってきたわよ。ただ、全身が濡れていたように憶えてるわ」

「川に落ちたんですね?」

「それはないわよ。もし、あの川に落ちたんだとしたら、子猫じゃ上がってこれないはずだし」

「その後は?」

「それがあまり憶えていないのよ。それから間もなくしてこっちに引っ越したんだけど……その時にはもういなかったように記憶しているわ」

 ひょっとしたら千代の記憶は書き換えられているのかもしれない。それをやった者がいるとすればマリノ以外にはいないだろう。

 まだ何かマリノが隠していることが何かあるのだろうか。

「お姉ちゃん、帰ってきてくれると思う?」

 ボソリとミラノが言う。

「きっとね」と響は頷く。

 千代の記憶を書き換えたとしても、それでもマリノは自分の存在を消し去ろうとはしなかった。それは身近な人ではない誰かに自分のことを憶えていてほしいという気持ちがあったということではないだろうか。

 きっとマリノとミラノは再会出来るはずだ。

 そう信じたかった。


   了


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