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 地面が割れて、巨大な化物の姿が現れる。

 響は、真希と山城へ向かって呪符を投げつけた。二人の周囲に呪符が舞い、そこに二人を守るための結界が張り巡らされる。

 だが、この巨大な妖かしをどうすれば鎮められるものか、響にはどう対処すればいいかわからなかった。

 果たして、これまでのように生命を消し去ることが出来るのだろうか。

(動きを止めないと)

 響は大きくジャンプして、その巨大な身体へと蹴りをいれる。だが、それはあまりにも固く、とてもダメージを与えられるものではない。

 その手に妖力をこめその動きを止めようと試みる。しかし、それもまた難しいもので、響の力ではある程度動きを妨げることは出来ても、それ以上のことは出来そうもない。

 仕方なく、響はある呪符を飛ばした。

(結界)

 それは符呪を教えられた時、一条春影から貰った呪符だった。

――いざということがあれば、この符を使いなさい。強い力があなたを護ってくれます。

 まさかこんな形で使うことになろうとは思いもしなかったが、ひょっとしたら春影はこんな時のことも予測していたのだろうか。

 その呪符が大きな光の円を作り出し、強い結界が作り出される。そして、その結界の中心に白い着物姿の一人の少女が姿を現した。

「君は?」

「戯け。そんな子供に対するような呼び方をするな。私は六花、時継神ときつがみと呼ばれる橘六花たちばなりっかだ」

「六花? 妖かしの一族の?」

 響が六花の姿を目にするのは初めてのことだった。六花は『妖かしの一族』のなかでも特別な立場であり、滅多に人前に姿を現すことがないと聞いていた。

「なんだ? 知らんで呼び出したのか?」

「強い結界を張るだけのものかと思っていました」

「私は常に強い結界を飛ぶことにしている」

 そう言いながら、六花は周囲を見回し、巨大なムカデの姿に視線を向けた。「何が起きたかと思ったら、こういうことか。あんなミミズの化物など」

「ムカデですよ」

「たいした違いはない。どっちも虫だろ」

「化物と言いましたか? 妖かしではないのですか?」

「それも大差ない。化物だろうと、妖かしだろうと、モノノ怪だろうと、それを見るものの主観で決めるものだ。呼び方などどうでもいい。そもそも私は戦うことは好まない。戦う手段を求めるのなら、あの戦バカの詩季の娘にでも頼めばいいのだ」

 六花はブツブツと文句を言った。

 ムカデは一度、地中へと姿を消し、地面の中を強い地響と共に近づいてくる。

「そんなこと言ってる場合じゃありません。あれはどうすれば倒せるんですか?」

「倒す? ああ、そんなことか」

 土が割れ、それが再び目の前に姿を現す。

「六花様!」

「騒ぐな。こうすればいいだろ」

 冷静な表情のまま、六花は右手を翳した。ふわっと風が周囲をめぐり、巨大なムカデがその動きをピタリと止めた。

「これは?」

「私の術で動きを止めただけだ」

「これからどうするんです?」

「おまえが切ればいい。おまえはそのための刀を持っているじゃないか」

「どうしてそれを?」

 六花は響がジャケットの内ポケットのなかにいれた、あの直江四門の残した短刀のことを知っているようだった。

「それほど強い霊力を持った刀、術で隠すこともなく持っていればすぐにわかる。そんなことよりもいつまでも縛っておくことも出来んぞ。早くしろ」

「どうすれば?」

「刀で切ろうと思うな。切るのはお前の力で切るのだ。それを伝えればいい」

 迷っている時間はなかった。

 響にとってその短刀を使うことは初めてのことだった。それでもその柄を握る時、それをどう使うべきかが自然と伝わってくる。

 響はその刀を抜き放った。そして、そのまま真っ直ぐに振り下ろした。

 その手の中に妖かしの生命の感覚が伝わってくる。

 妖かしが浄化され消えていく。

「ふん、二度と私を戦いになど呼び出すな」

 背後から六花の声が聞こえた。

 振り返った時、既に六花の姿は消えていった。


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