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わずかに大地が震えている。
まるでこの会話が聞こえ、それに反応しているようだ。
「そもそもどうしてそんなことをしてまで明日菜さんを『生き仏』にしなければいけなかったんですか? 本来、『生き仏』の儀式が行われるのは15歳になってからと決められていたんじゃありませんか? それなのに明日菜さんは14歳で『生き仏』の儀式を受けた。そして、その翌年、村は廃村となった。あと一年、待っていれば廃村になったはずなのに」
「だから? 廃村になったからといって、明日菜が自由になれるわけじゃない。村のしがらみ、村の人たちとのしがらみが消えるわけじゃない」
「それは信郎さんがいたから?」
「そうよ。あの子は明日菜にとって邪魔な存在だった。だからあえて一年早く儀式を済ませ明日菜を逃がすことにした」
真希の表情からは後悔の感情は一切なかった。既に真希は全てを明かす覚悟が出来ているようだった。
「信郎さんはそんな人ではなかったはずです」
「あの子はいい子だったわ。でも、こんな村を愛していた。私にはそれが何よりも我慢出来なかった。いえ、もともと私は家族なんてものを信じていなかった。私はずっとここから逃げたいと願っていた。それなのに父も母も、村の人たちに縛られて、誰も私のことなど考えてくれなかった。私は私自身を救うために、それだけのために明日菜を産んだのよ」
「葛城さんは知っていたんですか? 今、葛城さんはどうしているんですか?」
「10年前に死んだわ。彼には全て話したわ。それでも私に従ってくれたわ。彼には少しの罪悪感はあったかもしれないわ。あの夜以来、彼はずっと夢にうなされるようになった。でも、それだけよ」
「それ……だけ?」
「そうよ。あの人は私の言いなりだった。いえ、そういう人だったからこそ、私は彼に嫁ぐことに決めた」
「どうしてそこまでしてーー」
「私が14歳の時、道に迷った東京から来た旅行者が村にやってきた。彼らはいろいろなことを教えてくれた。何よりも未来の可能性というものを教えてくれた。でも、この村にいる限りそれは望めなかった。私はそれが欲しかったのに」
「あなたは明日菜さんを助けたかったんじゃない。自分をこの村に閉じ込めた人たちを出し抜きたかっただけなんですね」
「こんな村の奴ら、皆、死んでしまえば良かったのよ!」
真希は怒りを吐き出すように叫んだ。
(そうか)
響はやっと妖かしの正体がわかったような気がした。
「妖かしは恨みによって生まれるものです」
「要はここで死んだあの子の恨みってことでしょ」
ますます地響きが大きくなってきた。
(来た)
それはすぐ真下にいる。
「こ……これは?」
山城が声をふるわせた。
「あの化物が地中を動いているんです」
「私を殺したいのでしょう。私を殺し、恨みを晴らせばいい」
真希は立っていられず、その場に膝をついた。それでも彼女は強い口調で言った。
「いえ、あなたを恨んでいるだけなのなら、ここを離れてもっと騒ぎは大きくなっていたはずです。あれは捜しているんですよ」
「捜す?」
「明日菜さんを捜し続けている。きっと明日菜さんが生き仏として埋められていると思いこんでいる」
「そんな……」
「彼は知らないまま死んだんじゃありませんか? 明日菜さんがここから逃げたことを知らないままで死んだのではありませんか? そして、アレが持っている恨みは、彼自身のものじゃない。あなたですよ。あなたの村への恨みと融合したんです」
「私?」
「村への恨み、この村に住んでいた人たちへの恨み。そして、明日菜さんに対する愛情。そんな矛盾した感情でアレは生まれたんです」