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先生は異世界に行きます。

 爺さんが少し近づいて来たのでその分だけ後ろに下がると爺さんはなんとも言えないような顔をして俺に話し掛けてきた。


「まぁ深くは気にする事ではない。どうせ、お前さんも転移して皆の記憶から消えるのじゃからな。」


 まさかとは思ったが俺も転移させるらしい。

 異世界転移のテンプレ通り、何か力をくれるのだろうか?


「丸腰の状態で異世界に行かないといけないのか?それとも神様からの贈り物か何かをくれるのか?」


「その認識で間違ってはおらんよ。日本の平和な環境からいきなり異世界の過酷な環境に転移させて直ぐに死なれても困るからの。」


「望みを言えばその通りの力をくれるのか?」


「与える力は一つのみじゃがある程度望み通りの力をやろう。」


 ある程度でも望み通りの力をくれるのはありがたい。

 どうせ俺が欲しい力はたった一つだけだ。


「なら、力をくれ。転移させる力を・・・いや、異世界を渡る力を。」


「異世界に行く前から日本に帰る事を考えているのじゃな。」


 俺が日本帰る事と欲しい力の本質は別だ。


「俺が帰るんじゃない、赤井達を元の生活に帰してやりたいだけだ。」


「ん?成程、面白いわい。自分ではなく生徒の為の力を欲するか。」


「俺は教師だからな、生徒を守るのも教師の務めだ。」


 俺の読む、異世界転移ものの小説で帰って来れるケースは少ない。

 一人だけならまだしも複数の人間が同時に転移した場合、帰りたいと願う人間もいた。

 赤井達にも帰りたいと願う奴がいるはずだ。だからこそ、その為の力が欲しい。


「良かろう。じゃが世の中はそこまで甘くは無い。わしが与える力はいずれ異世界を渡る力になるだろう。」


「いずれはだと?どういうことだ!?望んだ力を与えると言っていただろ!」


「異世界を渡る力というのは人には有り余る力じゃからな。程度の低い状態からでなければ身を滅ぼす事になるのじゃ」


 俺は思わず息を飲んだ、爺さんが鋭い眼光で言うからだ。

 身を滅ぼすと言うのは事実なのだろう。


「わかった。それで充分だありがとう。」


「理解が早くて助かるわい。おまけに言葉も問題なく通じるようにしとるから心配せんでも良いぞ。」


 言葉が通じるのは正直助かる。

 異世界に行って言葉が通じないのは死活問題だからな。


「それじゃそろそろ転移させるぞい。準備はいいかの?」


「ああ、よろしく頼む。」


 今、行くから待っていてくれ赤井、青山、木根、黒川。

 絶対に助けてやるから。


「それじゃあ、良き異世界を。」


「じゃあな、爺さん。いや、神様。」


「ほほ、初めて神と呼んだの。」


 そう爺さんが言ったと同時に俺の目の前は真っ白になった。


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