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先生は親代わりになりました。

ガサガサッ


ガサガサッ


 最初に気付いたのはトレイリだった。


「止まって。」


 トレイリは小声で俺に言った。


「どうしたんだ?」


 何となくつられて俺も小声で話す。


「何か居る。」


ガサガサッ


 確かに物音がする。

 流石は先輩冒険者と言った所か戦闘力はともかく気配の察知はすごく早い。


「気を付けて、またフォレスト・ファングかも知れない。」


 俺とトレイリは武器を構えて戦闘準備をした。

 すると目の前の草むらからガサガサと音がしてきた。


「来るわ。」


 トレイリがそう言った瞬間、草むらから音の正体が出てきた。


「むー」


「「へっ?」」


 俺は拍子抜けして変な声を出してしまった。

 だが、それはトレイリも同じようだった。

 目の前には熊のぬいぐるみが居た、どっからどう見ても熊のぬいぐるみだった。


「むーむー」


「かっ可愛い!」


 トレイリが武器をしまってその場で飛び跳ねた。

 良く分かるっ!そう言ってしまいそうになるほど可愛かった。


「むー、むー」


「多分、この子はハピネスベアの子供よ。」


 ハピネスベア?どんな魔物なんだ?


「ハピネスベアって言うの相当珍しい魔物よ。ランクはA、大人のハピネスベアは遭遇した相手の運をコントロール出来るって聞いたことがあるわ。」


「ランクAってヤバくないか!」


「子供だから多分大丈夫よ。それに何か人前に出てきた理由があるみたいよ。」


 そう言われてみると何か訴えかけてきているように見える。


「ついて来て欲しいのか?」


 そう聞くとハピネスベアの子供は頷いた。


「むー。むー。」


「こっちみたいね。」


 俺達はハピネスベアの子供の後についていった。


「これは・・・。」


「・・・ひどい。」


 俺とトレイリは言葉を無くした。

 大きな熊が傷だらけで横たわっているからだ。


「むー。むー。むー。」


 ハピネスベアの子供の親なのだろうか?ハピネスベアの子供が横たわった親熊を起こそうと揺すっている。

 しかし、親熊に反応は無い。


「何かに襲われてそのまま死んだのか・・・」


「可哀そう・・・この子、一人ぼっちになったんだね・・・」


 トレイリがそう言った事で俺は気付いた。

 俺達だったから良かったものの他の冒険者の前に無防備で姿を現したらこの子も死んでいたかも知れない。

 多分、この子は生きる術を親熊から教えて貰う前だったんだろう。


「このままだとこの子も危険だ。魔物を人が育てる事は可能か?」


「聞いた事がないわ、そんなの。そもそも魔物は人間に懐かないもの。使い魔ならともかく。」


 使い魔か・・・それしか方法は無さそうだな。


「この子を俺が使い魔にする事は可能なのか?」


 俺は魔物を使い魔にする方法をトレイリに聞いた。


「魔物を使い魔にするには条件があるのよ・・・」


トレイリに聞いた使い魔にする方法は以下のとうりだ。

1、使い魔にする魔物の持つ魔力より多くの魔力を与えること。

2、使い魔にする魔物が相手を主と認めること。

3、使い魔にする魔物との魔力の相性が良い事。

4、名前を与えること。


 この4つの条件をクリアしないと使い魔に出来ないらしい。


「私の場合、保有する魔力の量が多くないからこの子を使い魔に出来ないのよ。ハピネスベアは保有する魔力がこの森の中で一番多いからね。多分、貴方なら4つの条件をクリア出来ると思うわよ。」


「分かった。やってみる。でもその前に親熊を弔ってやらないとな。」


「そうね。流石に子熊の前で親熊を解体なんて出来ないからね。残念だけど土を掘って埋めてあげましょう。」


「ある程度までは任せてくれ、転移。」


 俺は近くにあった大きな木を転移で別の場所に移動させた。

 すると木があった場所が大きく抉れている。

 こっちに来て直ぐに実験しておいて正解だったな。


「すごいわね。あと少し掘るだけで十分な広さになるわ。」


 トレイリと協力して穴を掘り、親熊を穴に入れてあげた。

 上から、周りの土をかけ、その後、さっきの大きな木を土の上に転移させた。

 案の定、明らかに周りから盛り上がって生えている木になったが、何処に埋まっているか一目瞭然なので結果オーライだと思うことにした。


「ほら、受け取れ。」


「むー。」


 俺は早速、手に魔力を集めて、ハピネスベアの子供に与えた。

 どうやら、気に入ってくれたらしい。


「今日から俺がお前の親だ。そしてお前の名前はピースだ。」


 俺が名前を付けると同時にピースの体が光出した。


「どうやら、成功みたいよ。良かったわね。」


「これからよろしくな、ピース。」


「むー。」


 こうして俺に大切な仲間が出来た。


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