先生は初めての依頼に挑戦します。
トントン、トントン
何かを叩く音がする。
「・・・さん、・・・ですよ。・・・て・・・さい。」
誰かが呼んでる・・・ネネちゃん?
「ん。ふぁーあ。おはようございます。今、起きました。」
「おはようございますトオルさん。もう直ぐ朝食が出来るので起きたら一階に降りて来て下さいね。」
「分かりました。今、行きます。んー。」
目を覚まして、少し伸びをする。
「ここは・・・あーそっか、俺って異世界に来たんだっけ?」
久々にしっかりと寝た気がする。
日本に居た時は毎日のように悪夢でうなされていたが今日はすごく疲れていた事と悪夢の正体を思い出したおかげか悪夢を見ずに済んだと思い、俺は眠い目を擦りながら着替えて、一階へ降りた。
「あれ、まだ俺だけですか?」
俺以外の客が居ないのでネネちゃんに聞いた。
「はい、私が起こしに行って、こんなに早く来るのは初めてかもしれません。冒険者の方々は夜遅くまで飲んだりしていますから呼んでも二度寝をしてからなのでもう一時間位したら皆さんも降りて来ると思いますよ。」
遅くまで飲んでいれば仕方ないかと思い、ネネちゃんに朝食をお願いした。
「今日の朝食はお母さんの作ったクースー鳥の卵と肉、新鮮な野菜で作ったサンドウィッチです。」
「おっこれはおいしそうだ。料理担当はカリアさんなんですか?」
昨日、自己紹介の前にグラーフさんが厨房のある方の暖簾から出て来ていたのを思い出してネネちゃんに聞いた。
「朝食はお母さんが担当で、夕食は父さんが担当なんです。父さんは豪快な料理しか作れないので。」
なるほど、俺は思わず納得してしまった。
グラーフさんがこんなに見た目が綺麗な朝食を作っている所を全く想像出来ないからだ。
「トオルさんはこの後、どうするんですか?」
突然、ネネちゃんから声を掛けられたので少し驚いた。
この後か・・・ギルドにでも行ってみるか。俺はその場で次の予定を決め、ネネちゃんに伝えた。
「今日はギルドで何か依頼を受けてこようかなって考えてます。」
「そうなんですか、ではお互いに一日頑張りましょう。」
「お互い頑張りましょう。サンドウィッチおいしかったです。ご馳走様でした。」
ネネちゃんとお互いを励ましあい、朝食のお礼を言ってから俺は宿を出た。
かぎしっぽ亭からギルドまで余り離れていないので目的地のギルドに直ぐ付いた。
「いらっしゃいませ、ご利用ですか?」
「依頼を見たいのですが。」
「依頼はあちらの掲示板に貼り出されているので受けたいのがあれば、私まで依頼書をお持ち下さい。」
「ありがとうございます。」
俺は受付嬢の丁寧な案内を思い出しながら丁度良さそうな依頼を探した。
「ゴブリンの討伐か・・・」
ランクはEなのでランクFの俺でも受けられる唯一の討伐依頼だ。
もっと転移の力の練度を上げないとな。そんな事を考えながら受付まで依頼書を持っていった。
「すいません、この依頼を受けたいのですが。」
「はい、では依頼のご説明を致します。依頼内容は森に居るゴブリンの討伐です。20体で依頼達成と成りますので覚えていてください。ゴブリンの討伐確認部位は小さいツノなのでツノを20本取ったらギルドに居る私までお持ち下さい。」
討伐確認部位がツノって事は解体用のナイフか何かが必要だな。
森に行く前に買っておくか。
「この辺に武器とか売ってる店ってありますか?」
「ギルドを出て右側の建物が武器屋ですよ。」
うわっ隣なのかよ。恥ずかしい。
俺は顔から火が出る思いをしながらもギルドを出て隣の武器屋に入っていった。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
挨拶をしてきたのは胡散臭いような人ではなく優しそうな笑顔を浮かべる比較的若い男だった。
「解体用のナイフと軽い剣と鞘、軽い胴あてを下さい。」
「では4つ合わせて銀貨2枚に成ります。」
俺は財布から銀貨を二枚出して武器と防具を手に入れた。
財布の中身はあらかじめ地球の金からこの世界の金に入れ替えておいた。
「ありがとうございました。」
準備が出来たのでこれから森に行こうと顔を二回軽く叩いて気合を入れた。




