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最善の導  作者: 雨柚
第一章 三人の神官長と三人の異世界人
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閑話 とある異世界トリッパーの晩餐

 拍手からの転載です。

 出された食事に文句を付けるなんて失礼なことだ。これから世話になる身で礼を失した行いをするわけにはいかない。

 そう考えていた千歳だが、ドンと目の前に出された料理の数々に思わず顔を引き攣らせてしまった。


「ダナさん……こ、これ……」


 千歳が指差したのは、夕食として用意された食事のなかでもとくに異彩を放っている瑞々しいサラダだ。

 異彩。そう、異彩という他ない。

 たまらなくなって、千歳は悲鳴を上げる。


「なんでレタスが青いの!?」


 白いサラダボウルに収まっているレタス――これは本当にレタスなのか?――は眩しいほどに青かった。リンゴや信号のように緑を青と言っているわけではない。本当に青いのだ。


 青。英語で言えばブルー。


 レタスって何だっけ、と思考が飛んでいきそうになる。未知との遭遇とは、きっとこういうことを言うのだろう。

 そんな謎の物体(レタス)は、まるで宝石のようだとすら思える輝きを放っていて……はっきり言って食べ物に見えなかった。ままごと用の野菜よりひどい。

 クリーム色のドレッシングがよく映える濃い青色は食欲を減退させるには十分で、千歳は目を逸らしてしまう。


 しかし、千歳にとっては不幸なことにおかしな色をしているのはレタスだけではなかった。


 マッシュポテト(らしきもの)は灰色をしているし、スープにいたっては黒一色だ。闇鍋か、闇鍋なのか。それともイカスミスープ的な不思議料理なのか。

 そして、グリーンサラダならぬブルー(レタス)サラダに添えられたプチトマトにはなぜかぶち模様。何のつもりだ、ぶちトマトだとでも言うつもりか。面白くないわ。

 白くて四角い物体がスープに浮かんでいるが、絶対に豆腐ではないだろう。では何かと聞かれても困るが。少しも安心できないことは確かだ。

 オレンジ色や黄色の食材もスープのなかに入っている。しかし、小さく切ったニンジンやカボチャとかいうオチはなさそうだ。というか、黄色は黄色でも蛍光ペンのインクみたいな色なのだが、これは食べ物なのだろうか。


 混乱しすぎて頭が正常に働いていないのが自分でもわかった。


「何言ってんだい、この国の野菜は元からこんな色だよ」


 ダナの声がなぜか遠く聞こえる。


 この間違った方向にカラフルな食材を食材として認めているらしいこの国の人々と千歳は相容れないだろう。目の前の食事だけでだいぶ心の距離が開いてしまった。異世界との文化の壁が厚すぎて越えられる気がしない。


「文句言ってないでさっさと食べな」


 千歳が考えていたことはすべて口から漏れていたらしい。ダナに言われてはじめて気づいた。千歳はどれだけ混乱していたんだろうか。


 食堂のおばちゃんならぬ神官のお婆さんに睨まれ、千歳は意を決してフォークを手にした。

 グサッとレタスにフォークが刺さる感触に、なぜか冷や汗が出る。

 普通だ。刺した感触は普通にレタスだ。それが嵐の前の静けさのように感じられて……サラダを口に入れたらとんでもないことになりそうでフォークを持つ手が震える。


 左手に水の入ったグラスを準備して、千歳は嫌いな物を嫌々食べる小学生の如く息を止めながら口を開ける。


(さあ、来い!!!)


 結果。

 異世界での初めての食事は――意外と美味しかった。信じられないことに。


 スーパーの見切り品で作った料理よりよっぽど味がいい。舌の肥えている方ではない千歳でも、いい食材を使っているとわかる。ブランド野菜みたいな感じだろうか。……高いから買ったことないけど。

 料理の味付け自体は元の世界の食事と大差ない。スパイスの効いているものもあるが、食べにくさを覚えるほどではなかった。



 ――――ただ、やっぱり色だけはどうにかしてほしいと千歳は思った。





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