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「見て! あれ!」


 それは昨年の優勝者ケイ・息吹の作品だった。大輪の赤いバラの花がモデルの体を埋め尽くし、一つ一つのバラが咲いてはつぼみ、つぼんでは咲くを繰り返していた。直径三十センチはあろうかというバラが体のあちこちで咲いている。モデルの体など必要なかった。人体は花の中に埋没してまったく見えなかった。モデルがどんな動きをしようと関係なくバラは咲きつぼんだ。バラの花は見事に再現されていて、咲いて行く様、閉じる様が人々の目を奪った。

 さらにバラの花が色をかえていく。

 花びらの芯から外側へ、赤から白へ、白からブルー、紫、赤、紅と花芯のイエローはそのままに色を変えて行く。

 レーシーはやられたと思った。Dモデの技術を使えば、どんな立体でも人体上に表現出来る。なんという大胆な発想だろう。レーシーはDモデを衣服の延長線上に位置づけた時点で自分達の負けだったと悟った。

「私、行けない! 無理よ。絶対に失敗するわ」

 確かに、内気な京子がバラのドレスに興奮している人々の前を歩くなど、無理な話だ。雰囲気に飲まれて立ち往生してしまうだろう。それでも、京子がランウェイを歩かなかったら皆の努力は総て無駄になってしまう。


「しっかりして下さい。大丈夫、あなたなら出来ますよ」


 レーシーは心にもない言葉を吐いていた。


「いいえ、ダメよ」


 京子がその場にくずおれそうになった。


「お母さん!」


 トムだ。トムが車椅子で現れた。京子が驚いた顔をしてトムを見つめた。


「あなた、今、なんて?」


「お母さんって言ったんだよ。それより、これ」


 トムがバックルを差し出した。


「トム!」


 バックルを無視してトムを抱き締める京子。初めて「お母さん」と呼ばれたのだろう、京子が涙を浮かべている。


「あなた、ダメじゃない。病院で休んでないと」


「ごめんなさい。でも僕どうしてもお母さんの晴れ姿見たかったんだ。ねえ、さっきのバックル、つけて見せてよ。急いで作ったからぶっつけ本番だけど、でも大丈夫だと思う」


 京子は体を起すと既に身に付けていたバックルの上から二つ目のバックルをウエストに巻き付けた。カチリとスイッチをいれる。

 ブーン。

 微かな機械音がした。


「凄い! 一体いつのまに」


 レーシーの賞讃の声と同時に、司会者が「次はチーム・シノヅカ!」と呼ぶ声がした。


「さあ、行って! お母さん、誰よりも綺麗だよ」


 京子は涙を拭ってランウェイに向って歩き出した。

 


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