第六話「ギアパワーをちゃんと付けるとイカしてるかもよ?」
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閑静な住宅街に、ひっそりと佇む邸宅。そこには噂のゲーマー妖怪が居た。
「妖精。よ・う・せ・い! 何度言わせればいいのかしらね」
とにかく、居た。その声の主、サティスファクション都が、さておき、と一段置いて、場に居る二人、城茂美とニシワタリに言う。
「スプラシューターワサビ」
途端に、二人はぐぬう、と変な声を上げる。それにサティスファクション都も続く。しばらくぐぬうタイムをした後、最初に手を挙げたのはニシワタリだった。くぐもった美声が響く。
「メインは防三、サブは防六遠投三」
次は茂美である。鋭い美声が響く。
「メインは攻二インク回復一、サブが遠投三イカ速三サブ効率三」
最後にサティスファクション都である。麗しい美声が響く。
「メインはラストスパートにヒト速二、サブがスペ上昇九」
そこで、三人はお互いの顔を見やる。それぞれが口を出す。
「ニシワタリ、相変わらず防御がん積みってどうなの? そこまで効果無いでしょ?」
「防御があればやられにくくナリマスシ。やられにくければ塗れる時間も倒す時間も増えマス。合理的デスヨ? それより城さんの没個性っぷりの方が何か言われるべきデショウ?」
「没個性とはなんだ。安定と言って欲しい。基本的にチャージャーばかりしているから、シューターの感覚を忘れてるだけだ」
「とはいえ、安牌に進み過ぎているのはいただけないわね?」
「そう言う君のスペ上昇をサブでがん積みはどうなんだ? 無理があるんじゃないか?」
「“ラストスパート”とイイ、最後にファイナルクリスタルダストしたいのが見え見えデスネ」
「いいじゃない、好きなんだし。でも動きまわれるスプラシューターの系列なら、ヒト速積むのは変じゃないでしょ?」
「だったら防御積みのメタにメタる攻撃二積みもおかしくないだろ?」
「でしたら、攻撃積みのメタにメタにメタる防御がん積みもおかしくないデショウ?」
「「いや、それはおかしい」」
「なにやってるの三人共」
朗らかな美声が聞こえる。台所から人数分の湯呑みを持ってきた犬飼美咲である。
「何って、『スプラトゥーン』でこの間新しく追加されたブキにどういうギアパワーをつけるか、と言う話よ?」
「ギアパワー、というと、服とかにあるあの印だよね? でもそれとさっきの暗号みたいなのはどういう関係が?」
「成程、その辺の話はまだしてなかったわね。というか次にすると言ったその次が今回だったわね」
「都くんは偶に訳の分からないことを言うね」
茂美の言葉は無視して、サティスファクション都は言葉を続ける。
「と言う訳だから、今回はギアパワーについてレクチャーしてあげるわ、美咲」
「うん、お願い!」
お願いされたサティスファクション都は、どこからかホワイトボードを出してきて、それにざっと、文字を書き込む。
“ギアパワーをちゃんと付けるとイカしてるかもよ?”
「これが今回のお題よ」
「さて、まずは一通りギアパワーの基礎知識から入った方がいいでしょうね」
「お願いします」
では、とサティスファクション都は手にしたペンでホワイトボードに“メインとサブ”、と書き込む。
「ギアパワーにはメインとサブという二種類の区分けがあるわ。メインは、そのギア、服とかね? それに最初から付いているもの。サブは、バトったポイントで一定ポイント付くとランダムで付いてくるもの。後から出ないと付かないのね? そして、メインとサブではメインの方が効果が高いの。でも、それはギア固有。サブは効果が低いし一定のものしか、だけど、その代わりに、どのギアでも付くことが出来るの。だから、効果を考えるならメインを選んでから、サブをこねくりまわしていくのがベターね。ああ、ギアパワーはたくさんつけると効果が上がるけど、でも二倍三倍とかではないから注意ね。たくさん積むと当然効果は高いけど」
そう言って、話をしながら起動していたWii Uで、セットアップの画面を出し、ギアを一つ一つ見せていく。
「……? この服持ってるけど、確かはてななのは一つだけだったよ? 一つで一個解禁だとしても、何で三つあるの? 後から増えるの?」
「……あなたは、これから『スプラトゥーン』の闇を見るわよ、美咲」
「……?」
はてな? という顔の美咲に対して、茂美とニシワタリは得心顔である。
厳かにサティスファクション都が言う。
「ギアに、サブを積むことは可能よ。ただし、それには代償が伴うの」
「代償?」
「それは、ポイント30000!」
「うわ、高い!」
「それだけで済めばいいのだけれど。このギアパワー、先にランダムと言ったわよね?」
「あ、うん」
「どれが付くかは偶然に左右される訳だけど、このランダムでついたパワーを、もう一回抽選し直すことも出来るの。それもポイント30000!」
「また高い!」
「しかも選びたいものが絶対付く訳ではないから、欲しいギアが来なければ、同じポイント数で更に引き直し!」
「それは怖い!」
「そうやってポイントが枯渇するまで回してしまうというのが、このゲームの闇の一つ、通称ダウニーガチャよ」
おどろおどろしく言うサティスファクション都に、ニシワタリが横やりを入れる。
「トハイエ、それが出来るのはランク20からデスから、そこまで行ってない犬飼さんにはまだ縁遠い話デスヨ」
「それにポイントだけが捧げ物ではないからな」
茂美の言葉に、やはりはてな? な美咲。それに対するはサティスファクション都である。
「そういえば、美咲はまだ“フェス”は体験してなかったわね」
「“フェス”? 何それ?」
「簡単に言うと定期的に行われるイベントよ。それについては、またそれがあった時にでも話しましょうか。さておき、その“フェス”で貰えるスーパーサザエというアイテムでも、サブギアの増加と付け替えは出来るの」
「まあ、それも厳選しようとすると高速で溶けるけどな」
「ダウニーオッカネエ……、ダウニー信用デキネエ!」
「それはさておき、美咲のランク帯ならまだメインのギアを合わせることを重視していくだけでも問題ないけど、いつかはダウニーのお世話になるわよ? 恐ろしいと言いながら回してしまう悪夢を味わうわよ?」
脅され、美咲はぞっとしていたが、頭を振って気分を変えると、「それより」と切り出す。
「ギアパワーって、色々あるけど、まだちょっと良く分かってないんだけど、それも教えてくれる?」
「勿論よ」とサティスファクション都。
「そぉれ」と言って指を鳴らすと、ホワイトボードにギアパワーのアイコンがそこに浮きあがってきた。
「どういう仕組み?」
「妖精だからね?」
そんなことを言いながら、サティスファクション都はこれまたどこから出したのかな指棒を手に、浮かび上がった印を示していく。
「まず攻撃力アップと防御力アップ。攻撃と防御が上がるパワーね」
「そのままだね」
「そうね。でもどちらも細かい所で効果が出るわ。攻撃は三発で倒すブキを高めても二発で倒せないけど、地面が塗られていて受けるダメージと合わさると二発で倒せる場合があるの。これを疑似確というわ。先の例だと疑似二確ね」
「それに対抗する為に防御を積むのデス。それもたくさんネ!」
無闇に怖い感じでにまあ、とするニシワタリであったが、特段怖い要素がないので意味が不明だった。美咲も困惑してしまう。その怖さについて理解が出来るサティスファクション都と茂美。それでもその内容には賛同しない。
「あなたの場合はがん積みし過ぎ。どんだけ疑似確取られたくないのよ」
「撃たれてやられるなら分かりマスガ、足下のダメージが原因なんて嫌なんデスヨ!」
「固辞すること?」
「とはいえ、防御は積んでいればその疑似確が若干変わってくる、というのは確かにある。だから全く無駄と言う訳でもない。ただ効能が出る為にはメイン三つくらい積まないと、だな。一つ二つじゃあ足下ダメージを食らっている場合に、くらいだ」
「デスヨ! だからこそのがん積み! ジャスティス!」
「この辺は好みの世界だから次にいくわよ」
と、サティスファクション都は指棒を使う。指した所から、文字が出る。
“インク効率アップ(メイン)”“インク効率アップ(サブ)”
「これはそのままの意味ね。メイン及びサブのインク効率、インクの使用量が減るギアパワー」
「減るって言ってもがん積みしても三割程度らしいですケドネ」
「そりゃ五割六割とか減ったら流石にまずいだろ。しかしインク効率、つまりインクの使用量の多いブキには結構重宝するギアパワーだな。メインなら96ガロンやチャージャーなどの効率が悪いブキを使う時、というのがベターか」
「サブはメインよりもうちょい効率が落ちるけど、それでも積めば二割くらいといわれているわね。サブなら大体どれでも使い易くなるけど、特に消費が重いスプリンクラーとかスプラッシュシールドとかに相性がいいと言われているわね」
「メインとサブ効率がん積み96デコもありデスカネ? 個人的にはなしなんデスガ」
両手を広げてふるふらり。ないない、とするニシワタリに、サティスファクション都はすっぱり流れを断って続ける。。
「それは趣味の範囲でしょ? さて次は“インク回復力アップ”」
「これも単純に、インクの回復量がアップするギアパワーデスネ」
「しかし、きっちり積むと通常より5割増しくらいの速度になるらしいから、インク効率が悪いブキは積みたいパワーだ」
「むしろインク効率がいいブキの方が、相性は良いかもしれないわよ? ちょっとの潜伏できっちり回復出来るなら、効率は段違いだし。運用に絡め易いから、アプデで株が上がった一番なのはこれかもしれないわね」
さて次。
指棒がアイコンを指す。浮かび上がるのは、
“ヒト移動速度アップ”“イカダッシュ速度アップ”
「それが前に言ってたヒト速と、それと同じようなのなイカ速だね」
「そう、前にも言ったと思うけど、ヒト速がヒト状態の移動速度のアップ、イカ速がイカ状態の移動速度アップね」
「ヒト速は射撃しながらの移動力にも影響をするし、イカ速はダイオウイカの速度にも影響する。が、そもそも移動速度が上がるのがそれだけで有用なんだな」
美咲ははてな? と。
「速いだけで? 攻撃とかインクが、とかのが強そうだけど」
「攻撃力のみが強い訳ではないのデスヨ」
ニシワタリは意味深に言う。
「強さには色々あるけど、速いというのはこのゲームでは十分影響が大きいわ。何せ、ナワバリなら三分しかないわ。その中で一秒でも早く動けば、一秒でも長く塗れる。それがどれだけ大きい差になるかは、もうそこそこやっている美咲なら、分かるんじゃない?」
「確かに、もうちょっと塗れたら勝てたかも、って思っちゃうね」
そういうこと。とサティスファクション都。
「特にイカ速は、イカ状態で進むことの多いこのゲームでは汎用性が高いデスカラ、これ! というのが決まらない時はとりあえず付けておくとベターな選択デスネ。さっきも城さんが迷ってイカ速をサブ積みしていたくらいデスシ」
「迷ってない! 当然だから入れたんだ!」
「城の安牌思考はいいから次に行きましょう」
指棒の示す先は“スペシャル増加量上昇”と“スペシャル時間延長”の二つ。それが浮かび上がる。
「これは美咲もそろそろ意識するべき点ね。“スペシャル増加量上昇”は文字通り、塗ったポイントではいるスペシャルへの蓄積が増えるもの。“スペシャル時間延長”も文字通り、スペシャルの時間が延長するものよ」
「どっちもスペシャルを上手く使う為には覚えておきたいギアパワーだ。どちらかというと、スペ上昇の方が汎用性はあるか」
「ちょっと前のアプデまではスペ延長はスペシャル次第だったデスカラネ。今は時間延長する意味が無かったトルネードとメガホンレーザーは撃ち終わりの隙が減りマシタガ」
「スペシャル延長、ってバリアとかダイオウイカとかも?」
「勿論よ。がん積みにすればどちらも結構伸びるわ。だから、ほんのちょっとの時間が欲しいガチマッチではがん積みはいい選択肢かもしれない、けど、まあやっぱり個人の趣味の範囲だわね」
さて次。と指したのは
“復活時間短縮”“スペシャル減少ダウン”“うらみ”“カムバック”
「一気に来たね」
「尺もあるからね? で、先の二つは大体文字通り。復活までの時間が短くなるのと、やられた後に減少するスペシャルのゲージ量が少なくなるもの」
「これはどう積むかというのに考えが要るんだよなあ」
「そうなの? 付けたら便利そうだけど」
まあそうなんだが、と茂美。
「デス数、つまりやられる数が多い場合は、あれば効果がてきめんに出るんだが、やられないと効果が無い、というのが、自分にはネックに感じるんだよなあ」
「やられなければ、意味が無い。それが復活系効果の勿体ないと感じさせるところデスネ。バリバリ行ってバリバリ倒してバリバリやられるスタイル、というのは役に立っているのいないのか、デスシネ。他のパワーで長所を伸ばして生き残る方がいいのデハ? デス」
「とはいえ、まだやられる場合が多いな、と思うなら復活短縮はあってもいい選択肢だとは思うわね」
「“スペシャル減少ダウン”はどうなの?」
「これは、……この間のアップデートで結構評価変わったんだっけ?」
問うサティスファクション都に、茂美がどうだったか、と。
「いや、死ななきゃ安いになっただけじゃなかったか? ブキ固有の減少幅が大き過ぎて、付けても焼け石に水だと思うし」
「そうデスヨ。死ななきゃ安いんデスヨ。だから今こそ防御がん積み時代、カム……」
放っておくわよ? と前置きして、サティスファクション都は続ける。
「“うらみ”は復活系の中でも特殊で、こちらを倒した相手の位置がしばらく味方全員に分かる、というもの。場所が分かると大きいのは前々から言っているから分かっているかと思うけど、一人でも分かると結構違うのよね」
「“カムバック”も特殊デスヨ? 復活した後の自分の性能が向上するものデスネ」
「“うらみ”と“カムバック”、どちらも“復活時間短縮”と相性がいいのがポイントだな。やられてもやられても、それらがついて嫌がらせのように戦える」
「“うらみ”と“カムバック”がどちらもフクについていて、メインでしかないギアパワーだから、併用できないけどね」
さてと。とサティスファクション都は次を指す。
「“スタートダッシュ”と“ラストスパート”」
「“ラストスパート”は、さっき都ちゃんが上げてたやつだね」
「そう。“ラストスパート”は残り30秒でインク効率とインク回復量が上がるギアパワーよ。ナワバリでは高い効果を発揮するわ」
「タダ、ガチマッチでは今一つですけども」
「どうして?」と、ニシワタリに美咲は問い掛ける。
「簡単な話です。ガチマッチは残り30秒より前に決着がつく場合があるからです」
「そうなの?」と、サティスファクション都に美咲は問い掛ける。
「悔しい話だけど事実よ。その点では、必ず発動して移動力が上がる“スタートダッシュ”の方が優れていると言えるでしょうね」
「“スタートダッシュ”は開幕から30秒移動速度が上がる。ナワバリでもガチでも、素早く拠点となる位置を取る為に選択するのは当然だろう。イカ速ヒト速とも相乗効果を出すから、急いで取りたい! というせっかちさんには大変向いたギアパワーだな」
「次行きましょうか。“ボム飛距離アップ”。これは単純にボムの飛距離が伸びます。たくさん積めばチャージャーを相手に出来るくらい飛びます。以上」
「さっくりだね」
「広げようが無いからな」
うっさい。と毒づきながら、サティスファクション都は続ける。
「次。“スーパージャンプ時間短縮”。これはスーパージャンプするまでの待機時間が減るわ。たくさん積むと本当にすばっ! と飛んでいくんだけど、スパジャンを連発するという行動自体が若干地雷でもあるんで、効果は分かるんだけど付けるか悩むギアパワーかもね」
「敵陣深く入って塗ってすばっ! は、そう言う君の得意技だろ、都くん。あれ本当に鬱陶しい」
「目の前で鬱陶しいって言わなくてもいいでしょ。さておき、次に行くわね」
指棒が示すのは
“イカニンジャ”と“ステルスジャンプ”
「この二つは結構特殊な部類よ。“イカニンジャ”はイカ移動中の飛沫が発生しなくなり、“ステルスジャンプ”は着地点のマーカーがでなくなるの。隠密的行動が出来る、と言う訳ね」
「え、イカの時の飛沫が無いって、便利じゃない?」
美咲の言葉に、茂美が受け答えする。
「確かに、元々見えない状態の潜伏から移動まで見えなかったら、このゲームでは相当のアドバンテージだ。だが、その代償としてイカ移動の速度がかなり落ちる」
「さっき移動速度はそれだけでも大きな効果がある、と言ったと思うけど、そこが削られる訳ね」
「一応、イカ速を積めば普通程度の速度まで戻すことも可能デスガ、それだけでギアパワーの選択の余地が狭められるのデシテ、中々難しい考えをしないといけないところナンデスヨ」
「“ステルスジャンプ”も、ジャンプするまでの溜め時間が長くなって、棒立ちに近い状態になってしまうから、スパジャンの使い方に戦略性が求められるわね。強いからこそのテクが必要なギアパワー、と覚えておくといいわ」
「うん、難しそうだからいつか使えるようになったら使ってみる」
「そのくらいでいいわね。さて次。“ボムサーチ”」
指棒の先のアイコンが浮かび上がる。
「これは、ボムがどこにあるか、どこに投げられたかが分かるギアパワー。ちょっと前まではそれだけだったけど、アップデートでボムに対する耐性が付いたのがポイントかしら」
「タダ、ボムが無い相手だと死にスキルなのがやはり難点デスネ。半分くらいのブキにボムがあるから、そうそう死にスキルとはならないですが、でも巡り合わせと言うのもアリマス。そこをどう考えるかが必須デスネ」
「説明ありがと。では次に行くわよ」
“マーキングガード”
「これは、ポイントセンサー、スーパーセンサー、“うらみ”のマーキング効果を弱体化させるギアパワー。通常より半分の時間でマーキングが取れるわ」
「これも相手にマーキングするものがないと死にスキルになるのが難点だな。また、弱体化させるけどゼロになる訳ではないのも注意だ。ちょっとの時間は、やはりどうしてもマーキングが付いてしまう。それをどう取るか、だな」
「説明ありがと。では次に行くわよ」
指棒が“スタートレーダー”を示す。
「これはちょっと前までは死にスキルとして名高かったギアパワーよ。効果は、リスポーン地点、復活地点ね。そこに居る間全相手の場所が分かる、というもの」
「……でもそのままだと、復活地点にいないと意味がなくなるんじゃ?」
美咲の言葉に、その通り、とサティスファクション都。
「一歩でもリスポーン地点を出ると消える、という効果だったから、常に発動する、というのは使い勝手悪すぎたの。自分しか相手の位置分からないしね。ただ、ちょっと前のアップデートで、リスポーン地点を出て数秒は効果が残る、つまり場所が分かったままになる、ってなったから、トルネードとかと絡めるとわりと使えなくもない、くらいにはなったわ」
「それでも使ってる人お目にかかりまセンガ」
「やっぱり微妙だよな」
「Disはさておき。次は“逆境強化”」
指棒の先の“逆境強化”が浮かび上がる。
「相手よりこちらの数が少ない時、スペシャルゲージが自動上昇する、というものね。塗ったら、ではなく何をしなくても、だから塗れば更にスペシャルゲージが溜まり易い、というギアパワーよ」
「塗る力の弱いブキとかだと、かなりお世話になるな。チャージャーだと、少ない手勢での防衛が多いから、自動で溜められるのは結構大きい」
「城は大概付けてますモンネ。倒せてスペシャルも撃ててってずっこいデスヨ」
「戦略だよ、戦略」
「まあ、その辺はさておいて、最後のギアパワーね」
最後に残っていたギアパワーを、指棒が示す。
“安全シューズ”
「“安全シューズ”は、相手色のインクの上での移動力の激減を緩和するギアパワーよ」
「これは昔は本当に強かったデスヨネ」
「ヒト速合わせると普通に歩いてるのと変わらないくらいだったからな」
「ということは、今は弱くなったの?」
そうね、とサティスファクション都。
「昔ほどではなくなったわ。でも、それでも根強く使われているくらいには、有用なギアパワーよ」
「これもイカ速ヒト速と同じで、移動力に関わってくる。素での速度が上がる訳じゃないが、どうにも相手の色を踏まないと、と言う時は結構あるからね。そういうちょっとした所での差が、生存率や塗る時間に差を生むんだ」
さてと。とサティスファクション都。
「一通り見たわけだけど、長かったから全部は把握してないわよね、美咲?」
「うん、大体の感覚は分かった気がするようなだけど、きっちりとは」
「まあ、世の中にはネットと言う都合のいい情報源があるから、おいおい調べて行けばいいと思うわ。さて、最後に、自分はこのギアパワーを推す、というのを私たち三人でやってみましょうか」
突然のふりに、しかしニシワタリは余裕で答えてみせる。
「防御、イカ速、インク回復でしょう」
「本当に防御好きよね、ニシワタリ。城は?」
ふられた茂美は、沈思黙考。しばらくしてから、周りの圧力に負けたように答える。
「攻撃、メイン効率、逆境強化、だな」
「チャージャーらしいのかしらね、それは」
「うっさい! それより、君はどうなんだ、都くん」
「あたし? メイン効率、ヒト速、安全シューズ」
「いつもの赤ZAP布陣デスネ」
「悪い?」
いえいえ、と下がるニシワタリ。そしてさて、とサティスファクション都。
「美咲は、どういうのがいいと思う?」
「あ、えっと……」
美咲はしどろもどろ。だったがじっくり待たれたので引くに引けず、答えた。
「可愛いギアならなんでもいい、じゃ駄目?」
サティスファクション都、ニシワタリ、茂美はしばらくぽかんと。それから、三人同時に頭を抱えた。
「そうだー、外見から選ぶって手もあったんだー」
「ガチ攻略脳になってマシター。初心者ならそういう入りで良かったんデスネー」
「……なんか変なこと言ったかな、あたし」
いやいや、とサティスファクション都。
「そういう思考でも、実は全然構わないわ。話が矛盾するかもしれないけど、気に入った服装から逆算して戦い方を研究するのだってありだし、ある程度はダウニーガチャでどうにか出来るわ。そういう感性を、私たちみたいに潰れるには、まだまだ時間があるのかもしれないわね」
そう言うと、サティスファクション都はパンと拍手。同時に、展開していたギアパワー達が霧散する。
「じゃあ、どういうコーデがいいか、って話でもしましょう」
「コーデ……。コーデナンデ……」
「可愛い、可愛いってなんだろう」
「壊滅的な気がするんだけど」
「何を言ってるの、美咲! こんなでも一応女子なのよ、私たちは。出来ないことは無いわ。無い!」
最後の気合が空回りするのを感じながら、美咲は恐る恐るスプラトゥーンガールズトークを開始するのだった。
「さて次回ハ」
「ちょっと戦い方の話をしたいわね」
「どうせするなら、まっとうな塗る戦いについて、ね」
「まっとうな撃ちあいじゃない辺りがひねくれてマスネ」
「どうせ突くならニッチじゃないかしら?」
「それもニッチか分からないデスケドネ」
「もう、いいのよ、やりたいんだから。ということで、次回は塗る戦いの思考とは、と言う話にしたいかと思います。どういう話になるのやら」
「二人とも何やっているんだ! 自分一人ではちょっとついていけないから三人寄らば!」
「姦しいだけだと思うけど。ということでまた次回」
ギアパワーは悩ましいのがいいですよ?これをつけておけば、という安定が無いので、思考錯誤させてくれます。攻め方戦い方でも全然違う方向性のパワー付けが成り立ちます。そこら辺りが分かってくると、また楽しくなってくるんですよ。さあ、ダウニーガチャだ……。




