第16話「二カ所のガチエリアをどう占領するか、知っておいて損はないかもよ?」
トある町のとある邸宅。そこで少女達が話をしている。
「それで、うどんにしたんだけど、やっぱりゆでたてじゃないといけないって分かったよ。ずるずるだった」
「いや、ずるずるのうどんはあれはあれで美味いだろ。汁吸っているのがいいんじゃないか」
「あなた達、人の家で何の話してるのよ」
お盆に湯呑みを乗せてきたこの辺鄙な邸の主人、サティスファクション都がそう言う。
その友人、犬飼美咲の答えは明確であった。
「うどんの話」
「そう言う意味合いで聞いた訳じゃないのよ、美咲」
「聞いてよ、都ちゃん。今日のお昼、うどんを食べたんだけどね! それがもうずるずるでさ!」
「その話まだするの?」
それもそうだね、と美咲はあっさり話を引っ込めた。その傍らで『スプラトゥーン』の片手間に会話していた城茂美は、何やら唸る。
「うーん」
「どうしたの、城」
「さっきから“ガチエリア”やってるんだけど、今一勝てないんだ」
「デカラインは大体勝ててるけど、ヒラメは3戦全敗だね」
「どうにも二つに分かれているのは苦手だな」
「そんなお困りのアナタニ!」
話は聞かせてもらった! とばかりにニシワタリが登場した。美咲と茂美の背後にいつの間にか。相変わらずどこから出てくるのか分からない妖怪である。
「いきなりだね、ニシワタリ」
「いやいや。しかし城が“ガチエリア”をやるようになるトハ。前にちゃんとお話した甲斐がアリマシタ」
「やらず嫌いはいけないと思ってね。でも、やって嫌いになりそうだ……」
「まあまあ、デカラインで勝ちを稼いでいるということは筋は悪くないと言うことデスヨ。問題は、二カ所のエリアの処理デショウ」
得々と語るニシワタリに、そうなんだ、とちょっとへしょげた感じの茂美。
「一方はいいんだけれど、どうにももう一方を上手く取りきれなくて、そうこうするうちにこちらも取られて、って形になりやすいんだよなあ」
「そうデスネ。二カ所のエリアを取るマップは、一カ所の占領よりもすること、考えることが多い所デスヨ。城はチャージャーですから、余計に難しい判断を下さないといけないデスネ。ということデ!」
ニシワタリの背中が隆起する。それに呼応するように服は背面が破け、肉があらわになり、そこから大口が現れた。そしてその口が大声で言う。
「“二カ所のガチエリアをどう占領するか、知っておいて損はないかもよ?”!!」
そして大口は背面に収納されていった。
「と言うワケデ、“ガチエリア”占領についての講義となりマスガ、まず初めに言うとこれが正しいと言うことではないということデス。人によってやり方も違ってくるものデスカラ、比較的こういう形がベストだろうというだけなのを、まず最初に断っておきたいデスネ」
「いきなり予防線張ったね」
美咲が容赦なく言う。ニシワタリは「……っ!」とたじろぐがすぐに気にしていないそぶりで続ける。
「では、講義に移りマス。まず基本として、二カ所のエリアの場合は、一カ所のエリアに比べて攻めと守りの配分が変わってキマス。一カ所の場合は攻めて取って守ればいいのデスガ、二カ所の場合は自分近くのエリアを取り、それから相手近くのエリアを取りに行く、という形になりマス。逆に言うと、相手もこちらの方を取りに来る、というのは分かるかと思いマスガ、いいデスネ?」
「つまり、相手を自陣に来させないようにしつつ、こちらは取りに行く、という形になるんだな?」
ニシワタリは頷いて続ける。
「そういうことデス。このお互いがお互いの所を取りに行く、という流れが、二カ所のガチエリアの妙味であり、難しさなのデスヨ。では、その状態をどう打開していくか、デスガ、これはマップに寄る所が多いので、今、城が苦戦している“ヒラメが丘団地”の話をしていきマショウ」
「お願いする」
ヨロシイ。とニシワタリは更に得々とした雰囲気で話し始める。
「“ヒラメが丘団地”のエリアは団地の屋上の二カ所デス。ここがどういうところか、美咲さん、分かりマスカ?」
話に入らずお茶を啜っていた美咲は、突然のことに驚いて、思い切りお茶を飲んでむせた。
「あ、ああ、すいマセン。そこまで油断していたトハ」
「ごほ、ごほ……。い、いきなりはないよー」
「平にご容赦ヲ。しかしこれは美咲さんの知識にもなることデスカラ、考えておいても損はないデスヨ?」
「うん、まあそうだね。で、“ヒラメが丘団地”の屋上だね?」
「そうデス」
うーん、と美咲はしばらく眉間にしわを寄せる。そして答えを出した。
「どっからでも登ってこられる場所、だよね? あっちからこっちから上がってきたり上がったりするから、防衛が面倒くさいとこだ、と思うんだけど」
「美咲さんにしては高い点数が出る答えデスネ。90点をあげマショウ」
「やった! 高得点!」
跳ねて喜ぶ美咲に対して、茂美は疑問ありげだ。その疑問を直接問う。
「で、残り10点はなんなんだ?」
「防衛のコツさえ分かっていれば、案外押さえやすいということデスヨ。これは、“ガチエリア”でも特に変わらないのデス」
「そうなのか?」
ニシワタリは深く頷く。
「ええ。ということで、まずは“ヒラメが丘団地”の“ガチエリア”、の話をする前に、ブキを考えマショウ」
「ブキ選びからか」
「そうデスヨ。それによって戦い方も変わってきマスカラネ。城としては、チャージャーの方がいいんデスカネ?」
「……、いや、ここはむしろ“ヒラメが丘団地”はどういうブキが向いているか、の話の方が参考になりそうだ。相手も、そういうのを使ってくるからな」
「賢明デスネ。では、ここで特別講師をご紹介しマショウ」
そう言うと、ニシワタリはサティスファクション都に頭を向ける。
「いきなり展開が早いわね、ニシワタリ」
と、サティスファクション都。
「何事も早いに越したことはありマセンよ。で、用意の方は大丈夫デスカ、サティスファクション?」
「滞りなく、よ。ということで、ぽちっとな」
サティスファクション都が、何かのスイッチを押した。そうすると、声が聞こえてきた。
『どうも。スーパーバイザーのパッション郷です』
聞こえてくるのは、サティスファクション都の古い知り合いであるパッション郷の声である。スピーカーから、声が聞こえる。
「テレビ電話か!」
「若干言葉が古いけど、まあそんなものね」
「なんで本人がここに来ないの?」
美咲の当然の問いに、声だけのパッション郷が答える。
『それはわたしが引きこもりだからですよ』
「答えになっているような、いないような……」
『ぶっちゃけ家から出たくない。でも他者とは触れ合いたい。そういう要望に、人間は答えを出す力を持ったと言うことですよ。素晴らしいですね、文明というものは』
「そのせいで私達は隅に追いやられてるんだけどね」
『古いモノがいつまでも表に居てもいい事はありませんよ、サティスファクション』
「そういう話はまた今度にしていたくトシテ。スーパーバイザー。ブキのお話をしていただけると助かるのデスガ」
『ああ、そうでしたね。では、“ヒラメが丘団地”の“ガチエリア”で優位なブキのお話をしましょう。でも簡単ですよ? “ダイナモローラー”を担ぎなさい、ですから』
「“ダイナモローラー”」
『それも通称銀ダイナモがよいでしょう。“ダイナモローラー”の塗りと、“スプリンクラー”の塗りのダブル効果で強力に塗れます。お勧めです』
「いや、もうちょっと具体的に話してもらわないと」
『それもそうですね。ではまず“ダイナモローラー”が“ヒラメが丘団地”の“ガチエリア”において何故強力かというのを説明しましょう。まず、二つのエリアがある“ガチエリア”は一つの場合と何が一番違うと思いますか?』
「二カ所にある、以外にか?」
なんだろう、という思考をする茂美をさしおいて、美咲がその問いに答える。
「塗る所が狭い、かな」
『人にしてはなかなか物分かりがいいですね。正解です。一つのエリアの場合に比べて、二つのエリアは狭いのです。これが何を意味するか』
ああ、と茂美。
「狭いと言うことは、塗る範囲も狭い、ということか」
『そうです。となると、瞬間的な塗り能力が高いブキは、高い効果を得やすい。これは分かりますね?』
「成程。だからそれが高い“ダイナモローラー”な訳か」
『その通り。“ヒラメが丘団地”の“ガチエリア”は、他の二つのエリアがあるマップよりも格段に近くにあるのも、“ダイナモローラー”が優位な点です。自陣側の近くに居ながら、塗りをすることが可能なのです。攻めなくていい。これは“ダイナモローラー”においては大変な有利です』
「聞くだに地獄絵図が浮かぶわね」
サティスファクション都の評に、誰もが確かに、と思う。
パッション郷は続ける。
『また“スプリンクラー”の塗り範囲でも“ヒラメが丘団地”十分にエリア確保が狙える場合もあるので、銀ダイナモと指定しました。ですが、“スプリンクラー”にはそれ以外にも効能があります』
「というと?」
茂美の問いに、パッション郷は仄かに高らかに、言う。
『“スプリンクラー”はエリア防衛にも活用できるからですよ。むしろ、防衛として張るのが基本であるとさえ言えます。具体的に説明しましょう』
そこで一息間を置き、続ける。
『“スプリンクラー”は壊されるか自分がやられるかのどちらかが無い限り、延々と塗り続けるサブである、というのは初歩の話。通常の“ナワバリバトル”であれば、いい位置を見てタイミングタイミングで設置場所を変えますが、“ガチエリア”では定点に設置しておく方が強いのです。相手がある程度塗っても、定期的に塗るという効果が中々攻撃を通せない、という防衛効果を生むのです。これを阻止するためには当然“スプリンクラー”の破壊が最善手。なので、相手が撃ち壊しにくい位置、あるいはそうすると隙が出来る位置に“スプリンクラー”を設置するのが常道なのです。その常道の位置がきっちりあるのが、“ヒラメが丘団地”の“ガチエリア”なのです』
そこで、一息、二息、三息して情報が皆に浸透するのを待ったパッション郷は、茂美に質問する。
『茂美さん。ではどこに“スプリンクラー”を設置するのが、“ヒラメが丘団地”では有効でしょうか?』
「壊しにくくて、それでもきっちり塗れる。となると、エリア範囲にある屋上入り口の上か?」
『人にしては冴えていますね。正解です。あそこは射程があるブキ以外では中々撃てないので、お勧めポイントですね』
さておき、とパッション郷は一旦話を置く。
『その位置に“スプリンクラー”を設置しつつ、相手の陣地に塗りをしかけていく、というのが“ダイナモローラー”の強みを押し付けられて、お勧めです』
「しかし、チャージャーとかが相手だとあそこでぶんぶんはヤバくないか? 開けてるから格好の的だろ」
『……』
突如の沈黙は、それが正答だと確信させるには十分だった。
それを無視して、事務的な声でパッション郷は続ける。
『他にも“スプリンクラー”のサブがあるブキや、スペシャルの“ボムラッシュ”や“トルネード”のあるブキでも効果が高いです。その辺を考えてブキ選びするといいでしょう。以上』
そこで、ブツリ、と音声が途切れた。気まずい空気が流れる。
それを払しょくするように努めて明るく、ニシワタリが茂美に質問する。
「で、城。ブキはどうしマスカ!?」
「……、ああ、とりあえずシューターでどう動くか知りたいから、“スプリンクラー”と“トルネード”がある“N-ZAP89”辺りで話をしてもらいたいな」
「その辺を選ぶのは作者の趣味デショウカネ」
「?」
「いえ、なんでも。さておき、赤ZAPの場合の攻め守りの話をしましょう。と言っても、まずは自陣近くのエリアを確保するのが先決。ここをまず押さえマショウ」
「うん、それは分かる。でも、その後なんだよ。相手があっちからこっちから来て、ぐちゃぐちゃになる」
茂美の言葉に、ニシワタリは深く頷く。
「そうなんデスヨネ。エリア二つの守り方を身につけないと、そりゃあぐちゃぐちゃになりマスヨ。ここでポイントになるのは、相手の攻めてくる場所がどこなのか、というのを明確にしておくことデス」
「でも、あっちからこっちからだろ、あそこだと」
いいえ、とニシワタリは否定する。
「ちゃんと精査すれば、侵入路は限定されるのデス。ちゃんと思い返してクダサイ。攻めてくる場所は、実は言うほど多くないはずデス」
しばし茂美は考え、そして「そうか」と独りごちる。
「……確かにそうだ。西の壁から登ってくるのと、真ん中の通路から登ってくるのと、エリアから真正面からくるのくらいなのか」
「一応、こちらが使うスロープの方を登ってくる可能性とか、他にもあるんデスガ、大体がその三地点からだ、というのが分かりマスネ?」
「ああ。ということは、そこを警戒すればいい、ということか」
「そうデス。その内、西の壁を登ってくるのは“スプリンクラー”を設置する場所からでも塗られているのが見えるので、それを確認したら攻めてくると思っておくと違いマスシ、来るのを倒しておいてまた来ないように塗り直したりも重要デス。真ん中はこまめに下を撃って塗っておくと相手が入り辛くなりマス。この辺は塗り易いシューターの役目デスネ。そして残りは正々堂々の正面突破。ガチでやりあうだけデス」
「そうなると、搦め手が無いと難しい訳か」
「守りの心の隙を突く、というのも重要デスネ。赤ZAPなら歩き塗りが速いのを活かして、先ほど言ったスロープを上る裏取りの選択肢もありマスネ。そうでなくても、こちらも壁を登って攻め入るのも当然ありデス。ばれたら危ないですが、正面突破だけではどうにもならないデスカラネ」
成程、と茂美は納得する。
「赤ZAPでの中央突破。悪くないと思うけど?」
サティスファクション都が混ぜっ返してくる。
「その辺は趣味の範囲じゃないデスカネ。というか、世の中近距離ジャンキーばかりじゃないんデスヨ?」
「ジャンキーじゃないわよ。離れられないくらい好きなだけ」
「だからジャンキーなんデスヨ。さておき、上手く相手をいなして攻め入る段になって重要なことは、攻め過ぎないことデスネ」
「攻め過ぎない?」
茂美の疑問の言葉に、ニシワタリは頷いて答える。
「さっきパッションも言っていましたが、“ヒラメが丘団地”のエリア二つはかなり近い位置にありマス。つまり、ある程度なら短射程でも自陣に居て塗れると言うことデス。そうやってじりじりと塗りつつ、焦れた相手が突っ込んできたら自陣に誘い込んで倒す。あるいは遊撃に出た味方を待つ。というのが理想デスネ」
「攻め一辺倒じゃなく、待つのも重要なんだね」
美咲の言葉に、ニシワタリは頷く。
「まあ、赤ZAPなら“スプリンクラー”設置後に人数優位を見て遊撃、というのが理想の形デショウネ。偶に正面から突撃もあり得ますが、やはりじりじりと戦うのが重要デス。そして、攻めれる、と見たら一気に。これが“ヒラメが丘団地”での基本戦術デス」
「ということは、チャージャーだとダイナモとかのそういう動きを咎めていくのが重要なんだな」
「そうなりマスネ。ただ、いいスナイプ位置は敵が登ってすぐの所でもあるので、その点は注意が必要デショウネ。そう言う場合は自分では咎め難いので、仲間の頑張りに期待デス」
「成程成程。感じがつかめてきたよ。とりあえず、“スプリンクラー”のある“スプラチャージャーワカメ”辺りでやってみるかな」
そう言うと、茂美は止めていたプレイを再開し始めた。
「ふう」
息を吐くニシワタリ。それを労うように、隣に立ったサティスファクション都は湯呑みを差し出す。
「麦茶だけど」
「今の時期はむしろ麦茶デショウ」
ニシワタリは一息で飲むと、はあー、とまた息を吐く。
「ということで、エリア二つある“ガチエリア”の話、と“ダイナモローラー”強いって話だった訳だけど」
「ぶっちゃけ、二つあるエリアの方が楽しいまでありマスヨ? ちょっと攻めと守りのバランスがマップによって違いが激しいデスガ、それもまた堪らない魅力デスヨ。“モンガラキャンプ場”みたいな攻めと守りの振り分けが難しいマップもいいんデスヨ?」
「その話はまた今度ということで。次回はどうなるのかしらねえ」
「予定は未定デスカラネ。パッションがへそ曲げてなければ、厨ブキ回になるんじゃないかと思いマスガ」
「しばらくそう言うネタで押していくのかしら?」
「ぶっちゃけ基本的な話は済ませてますからね。応用編になるのもしょうがないデショウ。ネタ自体はあるから、しばらくそうするのデショウ」
「ということで、今回はここまで。次回は“.96ガロンデコ”の話、と仮にしておきましょうか」
「ソレデハ」
二カ所のエリアをどう占領するかの話と、そう言うとこだとダイナモつええよなと言う話。
ダイナモ……。強過ぎるのよやつは……。という冗談も冗談に聞こえないくらい、強い所では強さを押し付けられる。それがダイナモ。怖いですね?
さておき、ネタ自体はあるものの、見せ方をどうするかというのがまだ安定してないなあ、という。この話を終わりにどう向かわせるのか。あるいはこのままネタを続けていけばいいのか。というので悩ましく。終わりの為のネタも仕込まないとなあ。
とかなんとか。




