第14話「シチュエーションによって取るべき行動を見極めれれば上手くなってるかもよ?」
高級住宅街の外れ。そこにある一軒の邸宅に、その女は居た。
眉目秀麗なその黒髪の女は、その美貌をおかしな形に崩していた。その手にある、一通の封書が、その原因である。
「うーん。どう思う? ニシワタリ」
黒髪の女は、ちゃぶ台を前にして座っている金髪の女、ニシワタリに問う。ニシワタリの顔も可愛いと言う顔を変質させて、そして答える。
「どうもこうも。あいつが本気ならもうちょっと違う方向性、というかバトル物カヨ、になりそうデスケドネ。それはあなたが良く分かってるデショ、サティスファクション」
「そうなのよねえ、乗り込んできても不思議じゃないのよねえ。あれかしら、昔やりあった時の傷が、とかなのかしら」
「あいつそんな大怪我するタマデスカ」
「なのよねえ。どっかで力が減じたとかならいいんだけど」
はあ、とサティスファクション都はため息。どうにも大変面倒な事態らしい。
「どの道、様子見、がしたいんデスガ」
「よねえ。来いってんだもんねえ」
二人は頭を突っつき合わせるようにして思案している。
そこに。
「いいの? 手の内を見せるみたいなのに」
「それくらいは見せても問題ないさ。なんていっても美咲の頼みだからね」
いつもの二人がずかずかとい言う音をたてながら部屋に入ってきた。そして、頭を突っつき合わせているサティスファクション都とニシワタリを見る。
「ん? どうかしたのか?」
「ん、あー。……サティスファクション、これ話していいんデスカネ? 危ないことになりはしないカト」
「ん、あー。別に死ぬもんじゃないからいいんじゃない? あいつは人間にはあんまり興味無い奴だったし。興味無さ過ぎて生きてても死んでても無視するだけなんだけど」
「それもそうデスネ」
軽い語り口とは裏腹に険呑な雰囲気を出している二人の言葉に、入ってきた片方の城茂美が反応する。
「結構物騒な言葉が聞こえたが、それ聞いたらそうなるのか?」
「可能性にゼロはないのよ、城」
「それいい意味で言ってないだろ」
「まあね」とサティスファクション都。
「でも、一応話さないといけないのよね。ちょっと私が出かけるから」
「あれ、用があるの?」
そう言うもう一人の入ってきた方、犬飼美咲に、そうよ、とサティスファクション都。
「その理由が、さっきの険呑な会話ナノデス」
「自分で言うかね」
茂美のつっこみを素知らぬ顔のニシワタリ。
「何があるの?」
「まあ簡単に言っちゃうと、昔の仇敵のとこへ、ちょっとティーをしばきあげにいくってだけよ」
「仇敵なのにお茶?」
「仇敵ったって、もう半世紀はあってないからね。昔は私も緋の国の鬼女としてぶいぶい言わせてたけど、今じゃゲーマー妖精だし。あいつもどうなってるか分かったものじゃないわ」
「ヒトが科学力を手に入れてからこっち、妖怪は肩身が狭くなりマシタカラネ。相手も同じような境遇なのかもシレマセン」
「とはいえ、仇敵は仇敵。私がどうなるか分からない。それは畢竟、この家にも手が及ぶかもしれない。だからどうしたものか、ってニシワタリが言っていた訳よ」
「でも、お茶しに行くだけでしょ?」
「なんか微妙に話に付いてこられてないでしょ、美咲」
「うん。都ちゃんみたいに変わっているかもしれないんでしょ? それに仇敵だったのは前の関係で、今はまだ関係性無いに等しいんだから、新しい関係を築いていけばいいだけじゃないかなって」
「うわ、なんか普通にもっともなこと言われた!」
「それも美咲さんにデスヨ!?」
驚愕されていることに、なんで? と首をかしげる美咲。その美咲の肩に、茂美が手を乗せる。
「大丈夫。結局こいつらの脳みそが戦いに染まっているだけだ。大人しくなったなんて小手先なんだ」
「くっ、ちょっとその通りな部分があるから反論できない……!」
「マア、それはそれとして」
軽く斜線を引くニシワタリ。
「大丈夫かもしれまセンガ、何せ相手は仇敵。何が起こるか分かりマセン。それに出かけると、ちょっと困ることがあるんデスヨネ、サティスファクション?」
「そうなのよね。私がいないと面倒なことが起きるのよね。だから出来ればすぐに帰って欲しいんだけど」
「成程。しかしちょっとくらいは駄目かな?」
おずおずという珍しい感じの茂美に、サティスファクション都は怪訝な顔。
「どうしたの?」
「いや、さっき美咲に、『スプラトゥーン』上達したいって話をされてね」
「うん、それは分かる」
「その話が盛り上がって、一つチャージャー対策を見せようって話になったんだよ」
「うん。つまりここで見せたいって話な訳ね?」
「そうだ。お互いの家に行くのもいいんだが、ちょっと遠いし、それにここはその中間点で丁度いいんだよ」
「成程ね」
と、サティスファクション都は納得の動きを見せた。
「確かにお呼ばれしたティータイムにはまだ間があるわ。『スプラトゥーン』の一戦くらいの時間はあるから、ならひとつ、城のチャージャー対策とやらを聞いてみましょうか」
「ソウデスネ。普段チャージャーを使っていると言う設定の城のチャージャー対策とやら、聞いてみマショウカ」
「要らない茶々は止めろよ?」
と言いつつ、茂美はゲームパッドでスイッチオン。ゲームが立ちあがる。そしてアオリとホタルの掛け合いが始まった。
「……今はタチウオとモンガラか。丁度いい所だな」
現在のステージを確認して、茂美が独りごちる。それに追従するのはサティスファクション都とニシワタリだ。
「どちらもチャージャーの位置取りが重要なステージデスネ」
「逆に言うとチャージャーを含む遠距離タイプのブキが機能しないと泥縄のステージよね」
「僕の言うことを取るな!」
城、怖ーいと茶々を入れるサティスファクション都とニシワタリ。茂美は少し眉間にしわを寄せるが、すぐに息を抜く。
「ブキは……、短から中射程の方が分かりやすいか。美咲もその辺りの射程がメインなんだろ?」
「最近はもっぱらスプラシューターワサビだよ」
「なら、それで行くか」
茂美はブキをスプラシューターワサビに設定し、ついでにギアも変更すると、ナワバリバトルにエントリーした。
「ギアは、適当ね? メインイカ速とサブヒト速ってことは」
「そうだ。とりあえず機動力重視で、後は考えていないよ。どのギアでも戦いに行ける方が、参考としてはいいだろうし」
「成程デス。オオット、始まりマシタヨ?」
ステージはタチウオパーキング。
「味方はスプラチャージャー、わかばシューター、スプラシューターワサビか」
「それに茂美のスプラシューターワサビデスネ」。
「対して相手側にはリッター3K、カーボンローラーデコ、N-ZAP85、スプラシュータコラボ、ってとこね」
試合が始まる。
「まずどう攻めるの、城?」
「とりあえず前方を塗りながら一気に進む。こちらにもチャージャーがいるから、地均しが必要だからな」
「いい感じにわかばが塗りに行ってるわね」
「これでもう一人のワサビが違う方に言ってくれるといいんデスケドネ」
ニシワタリの言うように、もう一方のスプラシューターワサビが、茂美のキャラと行動を一にしている。そのまま、二人して同じ方向、一番下の広場の手前、そこを良く狙える高台にまで移動する。
「さて、ここからが重要だぞ、美咲」
「そうだね。ここに来るまでは素早く出来るけど、その後が、よく射抜かれちゃうんだ」
「それは、攻め方に迷いがあるからだね」
「迷い?」
美咲の首傾げに、茂美はそうだよ、と答える。
「チャージャーとの戦いというのは、如何に相手を出し抜くかなんだ。そして、出し抜く行動に迷いは禁物。少しのブレが勝敗を分けてしまう」
「そういう城は案外不意打ちに弱いものね」
「……否定はしない。さて、ここからどう動くか、というのを見ておくといい」
そう言うと、茂美は高台から中央の広場にキャラを進める。もう一人のワサビはその様子を見るように止まっていた。
「おお、攻めるわね」
「チャージャーが来る前に電撃戦、としたいところデスガ、相手も到着しているみたいデスヨ?」
チャージャー特有のレーダーサイトが見える。それが茂美のキャラに重なる、かに見えたが、それがすぐに途切れる。
「?」
「死角に入ったのよ、美咲」
「そうだ」と茂美はサティスファクション都の言葉を肯定する。実際に、茂美のキャラは相手側の高台の真下辺りにいる。
「チャージャーは遠距離に強く威力も高いから、狙われたら大変だ。狙い易い位置なら尚更。だが、それでもどうしても死角はある。そこを素早く突くのがまずポイントだな」
言いながら、茂美のキャラは素早く行動する。相手側の高台の、壁を塗り、そしてそこをイカになって這い登る。
「このマップでの死角と攻め手との兼ね合いで一番いいのは、このコース」
言う間に、這い登った茂美のキャラは相手チャージャーに肉薄。すぐさまインクを撃ち込み、これを撃退した。
「お見事。確かに迷いなしね」
「相手がもう一人のワサビを狙っていたからね。造作もないよ」
隙あらば鼻の下をかこうという感じもある茂美だったが、すぐに表情を改める。
「逆に言うと、チャージャー側はここが最大の狙われ所だから、警戒している場合がほとんどだよ。今みたいに登ってこられる、と思ったら、下がって登り際の隙を狙うのがチャージャー側の手だね」
「それか、広場の段階で撃ち取るか、よね」
そうだ、と茂美は言いながら、スプラッシュボムを置き土産にしつつ、一旦広場に飛び降りて戻る。見れば、こちら側のチャージャーもやられてしまっていた。
「今のは、本筋からの侵入デスネ」
「本筋?」
「ソウデス。ちゃんと道を通っての侵入ルートデスネ。時間は掛りますが、案外付け入る隙のあるルートデス。これをちゃんと防げると、チャージャー使いとしては一級デスヨ」
ニシワタリの解説に、サティスファクション都も嬉々と乗っかる。
「塗りをしている相手と正面衝突する場合もあるから、危険度は確かにあるんだけど、今のこちら側はまだわかばが塗ってるのと、もう一人のワサビがいつの間にか相手側のそのルートを登ってたのがあって、丁度空きスポットになってた訳よ」
「この辺がこのマップの難しい所だね」
そう言いつつ、茂美はキャラを本筋ルートに動かして、塗りながら登っていく。と、相手側のキャラがこちらに向かってくる。スプラシューターコラボの相手だ。
「あ、来るよ!」
「ああ、大丈夫だよ」
と言うと、茂美はスプラッシュボムを投げてから、イカになって後退する。
「逃げるんだ」
「相手は同じメイン性能だからね。まともにやり合っても相打ちがせいぜいだ」
と、ボムを嫌って後退した相手が倒された。背後に、わかばシューターの味方がきていたのだ。
「ラッキーね」
「そろそろ到達する頃だと見た僕の勘を褒めて欲しいね」
状況は五分と言った所になっている。ただ、相手側のチャージャー、リッター3Kが高台の位置に戻っている。そしてその銃口は、広場に戻って交戦していた茂美のキャラに向いて。
「っと」
茂美のキャラがやられた。しばらくしてリスポーン地点で復帰する茂美のキャラ。
「やられちゃったわね」
「そうそうノーデスは無理だよ。でも、もう少し時間はある。そして美咲に教えることはまだあるし」
そう言うと、茂美はキャラを動かしていく。
「次はどうするんデス? 天空の小道から攻めマスカ?」
「天空の小道? 何それ」
「今勝手に命名しただけデスガ、あの高台の隣に、小さい道があるデショウ? それのことデス」
「あそこもいいが、それより教えたいのは、もっと違うことだよ」
そう言うと、茂美は広場前の高台まで戻ると、まず下をある程度塗ってから、先にニシワタリの言った小道へと移動する。
「? どうするの?」
答えは行動で示される。行き先を塗ってから、茂美は広場の端に当たる地点にジャンプし、そこから本筋までの道を塗りながら移動。そして本筋に登ると、その横にある壁を塗り始めた。そして塗りが完成すると、その壁を登っていく。
「ああ、そういう」
「成程、成程」
サティスファクション都はこくこくと、ニシワタリもこくこくと頷く。一人分からない美咲は呆けた顔をしているが、すぐにどういうことか分かった。茂美の動かすキャラが、道なりに相手チャージャーのいる場所へ向かったからだ。
「これって、もしかして裏取り?」
「そうデス」
そう言うやりとりの間にも、茂美のキャラは相手チャージャーの背後を突いて、撃ち倒していた。
「あのルートは長くて面倒で塗っている相手に遭遇もし易いデスガ、塗れる面積も多いデスシ背後を取れる可能性が高いという面もアリマス。まあ、曲芸めいた裏取りデスネ」
「相手が下の広場に集中しているのが分かっているからの行動ではあるわね。先の牽制もそれを見る為だった、というならお見事なんだけど」
「普通にお見事してくれていいぞ」
そう言いながら、茂美は残り時間で奪った地点と下の広場を塗ることで、勝利を得たのであった。
「ざっとだけど、タチウオでのチャージャーへの攻撃の基本は見せられたかな」
「うん、そうだね。……死角を意識して行動する、ってことだね?」
しばらく考えて出した美咲の言葉に、茂美は肯定の頷きをする。
「飲み込みがいいと助かるよ。それはどこのマップでも言えることだから、よく覚えておくように」
「うん!」
「さて、今日はこれまでにしてもらうわよ? 時間はあるけど、無限には無いんだから」
サティスファクション都の言に「分かってるよ」と茂美。その茂美がふと尋ねる。
「ところで、何時までに行けばいいんだ?」
「それはね。……」
サティスファクション都が沈黙する。そしてすぐに顔を青ざめさせる。
「ん? どうした」
「午前と午後、間違って読みとってた」
「……え?」
「これ、午前に来いって書いてあるって事よ! しまったわ、私としたことが!」
サティスファクション都は珍しく取り乱し、髪をかき上げる。サティスファクション都の言葉に、仰天するニシワタリ。
「アイツ、時間には五月蠅いタイプじゃないデスケド、流石に半日待たせるとか無いデスヨ、サティスファクション!」
「だって勘違いしてたんだもの! 追求されても困るわ! うっかりなのよ! それに時間は戻ってこないわよ! 急いで連絡、ってあいつの連絡先なんて知らないし! 半世紀会ってない相手の連絡先ある訳ないし!」
「まあ落ち着け、都くん。流石に半日待ってたら向こうから連絡があるんじゃないか? こっちの住所は分かってた訳なんだから」
茂美の言葉に、サティスファクション都はふぅ、と息を吐き、落ち着きを取り戻した。そして言う。
「それならそれでもう来ていてもおかしくない訳よ。なのにそういう気配すらないってことは、まだ待ってるってことよ。あー、もう。 本当になんであいつ自分で来ないのよ」
「こうなると、やっぱり、何かあるんでショウネ。あいつが動けない理由が」
「……今更言っても罵り合いになりそうだけど、行くわよ、ニシワタリ。城と美咲には悪いけど、急いでここから出てくれない?」
「何かあるのか?」
「実はこの“家”は、私がいないと色々危ないのよ。私がいるから、ちゃんとしている、というべきかしら」
美咲ははてな? という顔だが、茂美には何かがわかったらしく、頷く。
「やっぱり、ここは物騒だったんだな。それがあるから、来ないんじゃないのか?」
「あいつも私クラスだから、この“家”程度なら問題ないはずなんだけどね。って、それはいいからさっさと帰りなさい」
茂美と美咲をけしかけて外に出すと、サティスファクション都は独りごちる。
「単に会うだけなのに、面倒なことばかり増えたわよね」
聞いていたニシワタリは、しかし聞いてないそぶりをするのだった。
今回はケーススタディとして、チャージャーへの戦い方について書いてみたりしましたが、どうだったか。基本的には死角を進んでいくのが最善手ですが、そうそう上手くいかないのもまた事実。でも、ちょっと知っておけばかなり違うのではないか、とかなんとか。
さておき、話の方をちゃんと解決しようとする形に持って行っているものの、どうなるのか全く分かんなくなってきており。やろうと思えばまだまだ『スプラトゥーン』ネタはあるんですが、そうなると延々続ける形になっちゃいますので、さてどうしたものか。完結出来るか、この話。




