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第一章『愛の探偵団』(2)

 見事にハモった大絶叫に、街路を歩いていた人々全員が何事かと振り返る。遼平までこちらへ首を向けたので、真と友里依は音速でクリスマスツリー裏に隠れた。


「どしたの、遼平?」

「いや、今何か聞き覚えのある声が……」

 「誰だったか……?」と首を捻る遼平を、不思議そうに見上げる希紗。だが、やがて遼平が「まぁいっか」と受け流してくれた。



 ……一方、傍観者側のバカップルは。


「ちょっ、な、な、なんなのアレ!? どーして遼平くんがココで出てくるの!」

「ワイだってわからんがなっ! まさか……まさか、遼平だなんて!?」

「シンっちも知らない内に二人とも仲良くなって……?」

「そ、そういえば昨日事務所で、何か希紗が嬉しそうに遼平と喋っとったけど……」


 その時は気にも留めなかった。てっきり、遼平をまた何か新しい発明の実験役にでもさせるのかと……。


「澪斗くんとは!? 希紗ちゃんって澪斗くんのこと……」

「ワイも希紗は澪斗やと……」

「こ、コレって遼平くんの略奪愛!?」

「……いや、『略奪』も何もまだ澪斗とは上手くいってなかったような……」


 昼のメロドラマ大好きな主婦、友里依は興奮気味。一方、真は最近の希紗の動向を思い出そうと必死だ。何か悪い物でも食べたのではないか、と。



 もう一度、目を擦りながら夫婦は駅前の男女二人を覗き見る。

 遼平の服装は、いつも事務所で昼寝している時と同じカットソーのシャツに膝元が破れたジーパン、普段と違うのは革製のジャケットを着ていることぐらいか。


「遼平、また寝ぐせ直ってない〜」

「あぁ? いいだろ、こンぐらい……」

「気になる! 一緒に歩いてて気になるわよ」


 背伸びして男の寝ぐせを直そうとする希紗に、遼平はそう言いつつも腰を曲げてやや頭を下げてやる。希紗の細い指で梳かされ、いくらかマシになる遼平の紺髪。こうして見ていると……。


「……ねぇシンっち、なんかあの二人、イイ感じじゃない?」

「なんだかワイら……いけない場面見てしもうた? 見てないことにした方がエエかなァ……」


 クリスマスツリーの両側から顔を覗かせる不審夫婦は、自分たちが周囲の視線を集めていることも忘れ、事の成り行きを呆然と見ていた。だが。



「じゃ、行きましょっか」

「そうだな」


 楽しそうな笑顔で遼平の腕を引いて、希紗達は歩いていってしまう。それに慌てた夫婦は。


「ど、どないするユリリン!?」

「どうするって、もちろんコレは見逃せないわ! 中野区支部始まって以来の一大事よ!」

「せやなっ、これはかなり気にな……やなくて、部長として現状確認せな!」


 真、一部本音が漏れている。二人だけでスクラムを組み、気合を入れた。


「『愛の探偵団』、ここに結成!」


「おーっ!!」



 こうして、『愛の探偵団』(友里依命名)によるおかしな追跡劇が今、始まる。



      ◆ ◆ ◆



「よし、採血はこんなモンでいいだろう。結果報告はまた後日になるが、まぁ、異常は無いだろうな」


「ありがとう、先生」


 注射針の痕に絆創膏を貼ってもらい、純也はまくっていた長袖を下ろす。

 純也の血液を小さなボトルに詰め、獅子彦はその紅を見ながらふと呟いた。


「うーん、いつも思うんだが、お前の血って何か不思議なんだよなー」

「え、何が?」


 廃ビル地下、闇医者・炎在えんざい獅子彦ししひこの裏病院の診察室。冷たい蛍光灯の光を反射させる白壁で、部屋は明るく見える。その中で、サングラスを外した闇医者がじーっと純也の血を眺めながら答えた。


「まず、色がやたらと濃いんだよな。検査結果ではヘモグロビンの数も正常なのに」

「そんなに紅いかなぁ? 遼もこれくらいだけど」

「あいつは別格だ。蒼波一族の遺伝子は優性でな、一般人と交わってもその特性を色濃く残す。特に遼平は、先祖返り並みの濃い血脈らしいしな。蒼波一族の血液の色は、特別なんだ」

「そう言われてみれば、真君達とはちょっと色が違う……かも?」


 中野区支部の治療員担当である純也は、真や澪斗、一般人の血液を思い出そうとしてみる。何せ一番怪我してくるのが遼平なので、今まで比較したことなどなかった。

 遼平は一族の血脈のせい。ならば、純也は……?


「そしてお前の血液中の細胞……細菌を殺す白血球と止血させる血小板の数が異常に多い。生物としては理想的だ。病が自然治癒しやすく、傷口もすぐにふさがる。まるで――――」


 医学者としての見解を淡々と述べていた獅子彦だったが、そこではっと口を噤む。自分の言葉を真剣に聴いている少年の真摯な瞳に、気付いてしまったから。

 「ま、まぁその……アレだ」とお茶を濁すような言葉に切り替え、サングラスをかけなおす。採血した血は机の端に追いやり、回転イスで純也に向き直って。



「……悪かった。俺のただの憶測に過ぎない、忘れてくれ」



 少年の瞳に宿る『その先を教えてほしい』という懇願を読心術で《読んで》しまってから、獅子彦は後悔の念に駆られていた。




 今はまだ、言うべきではない。


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