第一章『愛の探偵団』(1)
第一章『愛の探偵団』
クリスマスムード絶頂で賑わう繁華街。そんな色鮮やかな群衆の中でも、目立つ男女が一組。
「ねぇ見て見てシンっち! 星の装飾がキレイ〜!」
「ほんまにな〜! でも、ワイの隣りで輝く星には到底敵わんで〜」
「やっだ、もう、シンっちってば〜!」
上下の色を赤と白で揃えたペアルックの二人も、今日はいつもよりは周囲から浮いていないが。派手な赤いコートは、男の方は踵まであり、女の方は腰元まで。先端には白い綿毛。
『年末年始くらい少しは休ませろ』という部下達からの声と、愛妻とクリスマスを過ごしたい、という理由の特別休暇。ほとんど後者の理由で、部長は今日だけ休みに決めた。大体、若者などは年末年始も特にやることなど無いのだ。
そんなこんなで、真は友里依と共に手を繋いで若者の街へ。ショッピングが目的だが、要はただのバカップルデートだったりする。
「今日はクリスマス・イヴやな! 大切な人と過ごす特別な日や」
「素敵〜っ、今日ばかりは誰も私達を邪魔できないのねっ」
誰にも邪魔されたことなどないだろうに。
どんな厳冬だろうとぶっ飛ばすほどの熱愛を醸し出す二人に、部下達は既に傍観の体勢に入っている。この夫婦を制止しようとするほど、精神が強く、時間をムダにしたい人間など存在しない。
「ユリリン、次ドコ行こか?」
「次はね〜、お洋服が見たいなっ。二人でおそろいの服にしたいの! それと……あら?」
街並みを眺めながら楽しそうに喋っていた友里依が、不意に言葉を切る。それを不思議に思い、真が友里依の視線の先を追ってみると。
「あの駅前に立っとんの……希紗やないか。珍しいなァ、あの希紗がこんなトコにいるなんて」
「希紗ちゃんだって女の子だもの、若い子の街にいたっておかしくないわ」
「せやけどあの希紗やで? 休みなら絶対に家で機械いじっとると思うとったが……とりあえず声かけてみるか。おーい、希――」
「ちょっと待ってシンっち!!」
手を振りながら近づこうとする夫を、妻が物凄い力で引っ張る! あまりの不意で強い力に、真は地に腰をぶつけてしまった。ロングコートの中に隠れた木刀が、乾いた音をあげる。
「な、なんやのユリリン?」
「よく見てシンっち、あの希紗ちゃんの表情は人待ち顔よ。きっと誰かと待ち合わせしてるんだわ」
そう言われてみれば、遠巻きに見える希紗はずっと右足でリズムを刻みながらしきりに駅の改札口に振り返っている。
「それにあの服……明らかに外着よ。いつもよりお化粧してるみたいだし……。あの様子だと、相手は男ね」
この寒い中、希紗の上着は両肩の肌を晒した、ミニスカートほどの丈がある白いTシャツ。更に可愛らしいブーツに届くか届かないかくらいの水色のスカート。髪型は、長髪を後頭部で束ね上げてピンで留めた、ベーシックアップスタイル。
「そんなこともわかるんか! さすがマイハニー!」
「だってシンっちの妻ですものー!」
「「愛してるー!!」」
路上でいきなり愛の奇声を発した二人に、注目の視線が集まり、人々が遠ざかる。それに気付いた希紗が、ふとこちらに顔を向けてきたので、夫婦はすぐさま街路にあるいくつものクリスマスツリーの一つに隠れた。
「危なかったわ、さすが希紗ちゃん、私達の気配は隠しきれないわね……」
誰でも気付きます。
むしろ気付かない希紗は、今は何かに心奪われているようにも見える。何度も腕時計を確認して。
「……し、しかしやな、相手が男で外着っちゅーことはつまり……」
「「デート?」」
クリスマスツリーの裏に隠れながらお互い夫婦は人差し指を向け合って同じ言葉を発する。その互いの反応は、真は目を丸くし、友里依は好奇心で眼を輝かせる、といったものだったが。
「そうよねそうよねっ、希紗ちゃんだっていい年頃だもの、クリスマスデートだっておかしくないわ!」
「でも……そうすると、希紗が待っとる男ってのは……まさか澪――――」
天地がひっくり返ってもそんなことは有り得ない男の名を真が口にしようとした時、希紗の声が聞こえた。ビックリして、夫婦はそーっと誰かに手を振っている希紗を覗く。
「こっちこっち〜!」
改札口から大勢の人が出てくる中、希紗へ歩み寄る人影があった。駅の屋根の影で顔がよく見えない……。
「もう、遅いわよ〜、かなり待ったんだから!」
「いいじゃねーかよ、こんな日ぐらい……希紗」
「遼平は時間にアバウトすぎ! せっかくの休みなのに」
現れたのは、まだ眠そうに紺髪を掻き上げる、ラフな格好の遼平。
その会話を見ていた夫婦は、クリスマスツリーの両側から顔を出したまま、硬直。
そして。
「「ええええええぇぇぇえぇえええー!?」」