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第四章『愛、乱れて』(1)

第四章『愛、乱れて』



「これじゃあ渋すぎるし、かといってこっちは子供っぽいかしら? うーん、ピッタリなのがないわね……」

「おい希紗……俺は何着持ってればいいんだ?」


 もはや人間ハンガーとなりかけた、大量の服を抱える男。そんな彼の問いなど聞こえないのか、女はまだ服を漁り続ける。


「ねえ、遼平の服のサイズってLでいいのよね?」

「まぁ、服の種類によっちゃMも着れるがな……」


 紳士服専門店で、カジュアル売り場を歩き回る希紗に、遼平は散々振り回されていた。




「どうやら希紗ちゃんは、遼平くんに服をプレゼントするようね」

「遼平のやつ、面倒臭がって自分ではあんまり私服を買わへんからなァ」

「希紗チャンに服を選んでモラエルなんて……ヤッパリ普段みすぼらしい格好をしてるからカナ……」

「アタシだったらもっとハードな服を選ぶわよンっ! 遼平ちゃんの肌が露出するようなロックな感じの……」


「……貴様らの勝手な見解は心底どうでもよいのだがな、一言だけ言いたいことがある」


 さっきから理路整然の如く進んでいる話を聞いて、澪斗は震えを抑えた声で言う。




「何故、俺達がマネキンの真似をせねばならんのだ……!!」




 五人並んで壇上でポーズをとったまま固まっている様子に、澪斗はついにツッこまずにはいられなくなった。だいたい、この五人の服装はあまりに統一感が無さ過ぎる。


 ウールのロングコートを着た澪斗はまだ店に馴染んでいるほうだ。顔もマネキンより整っているぐらいだし。

 だが、フェイズの神父服はどうだろう。二メートル近いマネキンなど、見たことが無い。いくら紳士服専門店といっても、神父服は無いだろう……。

 梅男など、問題外だ。見た目は熟年美人女性に見える、など何のメリットにもならない。何故紳士服専門店に真紅のドレスマネキンがあるのか、誰か一人でも不審に思わないのか?

 ……更に。どこの世界に、サンタ風のペアルックコートをまとい、抱き合った体勢の二体のマネキンがいるのか……!


「ボクは、結構ユニークな変装作戦だと思うネー」

「スポットライトを浴びて輝くのが、乙女の夢なのよン……!」

「だってワイら、この姿勢が一番落ち着くし。なァ、ユリリン?」

「そうよねっ、シンっち大好きー!」

「ワイもやァァー!」

「えぇいっ、マネキンが喋るな!!」


 「「「「自分が一番うるさいじゃーん」」」」と言われ、澪斗の浮き出た血管は限界点突破まであと僅か。



「っ……、兄上……俺はいつから人の道を踏み外してしまったのでしょうか……」



「……シンっち、澪斗くんがついにいろんなモノに耐えきれなくなって独り言を始めたわよ?」

「あいつ、今まで自分が人の道を歩んでると思うとったんか?」

「ボク的には、地毛が緑色してる時点で人外だと気付くベキだったと思うネー」

「暗殺稼業をやっても迷わなかったのに、マネキンの変装でついに人生に迷っちゃったのねン」


 己の人生を嘆く、低く小さな独り言に、傍観者達の冷めた言葉。その内澪斗は、社会を恨み、地球規模で呪いだしていたが、それはスルーの方向にする『愛の探偵団』。




「コレなんてどうかしら? きっと似合うわ」


 そう言って希紗が遼平に突き出したのは、白いVネックのセーター。遼平はとりあえず今まで持っていた服を全て棚に置き、それを受け取る。


「真っ白かよ? 汚したらシミが目立つだろ」

「遼平、なんでそんなオバサン目線で選ぶのよ? 汚さなきゃいいでしょ!」

「悪ぃ、しょっちゅう純也が洗濯にうるさいから、つい……」


 まだ服にシミをつけて同居人(少年)に怒られていたのか、二十一歳。

 一度は遼平に渡したセーターを両手で希紗は開いてみて、男の肩に当ててみる。


「んー……、着れそうよね。普段は黒系統の服ばかりなんだもの、清潔感が漂う色も絶対似合うと思うの」

「そうかぁ?」

「そうなの!」


 こればかりは、希紗に決定権があるらしい。嬉しそうに自分で頷いて、希紗はセーターをレジへ持っていってしまった。




「希紗のやつ、遼平が普段着とる私服まで気にしとったんか……」

「しかもあのセーター、最高級のカシミヤよ!? すっごい値段が張るのに……」

「デーモン遼平クンに清潔感ナンカ似合うもんカー!」

「遼平ちゃんは上半身は何も身につけないくらいがワイルドでカッコイイのよンっ」

「……それではただの裸族では……」


 マネキン置き場に立った変な五人を、店内・店外から様々な人が奇異の目で見ている。それに気付かない変態達(自称『愛の探偵団』)に、聞こえよがしな咳払いが。



「お客様、ちょっと事務所まで来ていただけますか?」



「「「「「は……??」」」」」


 笑顔をピクピクと引きつらせた店長が、サービススマイルのまま手を上げる。すると、後ろに控えていた十数人の店員達が、抵抗する奇妙なマネキン達(自称『愛の探偵団』)を、店奥事務所まで運んでいった。


「ちょっ、待って! ワイらは怪しい者では……!」

「いや〜ンっ、アンタどこ触ってんのよ〜!」

「て、店長っ、コイツ男です!」

「よし、警察に通報しろ」


「ええええぇぇぇー!?」









「……? ねぇ遼平、さっきの店、なんか騒がしくなってない?」

「何かのイベントだろ。変なマネキンがあったし」


 不思議そうに振り返りながら店を離れていく希紗の横で、遼平が至極興味の無さそうな顔で空を仰いでいた。



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