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第二章『愛戦争、勃発』(4)

     ◆ ◆ ◆


「よろしくお願いしまーす、お願いしまーす」


 大きなクリスマスツリーのオブジェがある明るい駅前で、カイロを配る少年の姿があった。

 少年の持ち前の純粋な笑顔に、道行く人が快くカイロを受け取ってくれる。一方、サンタの格好をした男の方は、声が小さくてなかなかカイロが減らない。


「リンリン、残ってる分、僕に分けて? この調子ならあとちょっとで終わるよ!」

「ごめん純ちゃん、俺の仕事なのに、俺は全然配れなくて……。俺……俺やっぱりダメな奴で……うぅっ」


 また涙腺が緩みだした李淵に、「あ、あ、泣かないで!? 大丈夫だよリンリン!」と必死にフォローしようとする小さな少年、純也。何とか彼が泣かないようにと、フォローを考えてみるのだが。


「リンリンは……ほらっ、表じゃこんなコトしてるけど、裏では立派な泥棒じゃん! ねっ?」

「泥棒は全然立派な職業じゃないよ……それに俺、ロクな物盗んだことないし……」

「ちなみに、今まで盗んだ物で一番高いのは?」



「大漁旗」



 …………何故。


「……何をどう血迷って『大漁旗』なんて盗むに至ったの?」

「いや、一部のマニアの人には高値で売れて、管理もずさんで盗みやすくて……でも……」

「でも?」

「盗んだままじゃ申し訳ないから、毎月少しずつその漁師さんの家に匿名で仕送りしてマス」

「返って損してない?」


 涙をこぼしながら頷く男に、「リンリンってある意味義賊?」と呟きながら背中をさすってやる。自分が食べていくのにさえ必死でアルバイトで身を粉にしているのに、更に見知らぬ他人に仕送りまで……本当に、何故この人物は泥棒なんてしているのだろう?


「えーっと……あ、ほらっ、リンリンには『手品』の特技があるじゃん! リンリンの手品はスゴイよ!?」

「そりゃ……俺の家系は全員マジシャンだからだよ……」

「そうだったの!?」


 知られざる、林李淵の(比較的どうでもいい)過去! 敵前で目くらましに逃げる手段として使う、器用な手品は家系のおかげだったのか。


 ふと李淵は余ったカイロをバスケットから一つ取り出すと、純也の両手に握らせる。それに首を傾げている純也の両手を優しく手のひらで包み、少年の手を開かせると、カイロは消え、一羽の小さなハトが両手から飛び立っていった。


「えぇっ!? リンリンっ、今のどうやって……」

「……コレが俺の精一杯だよ。俺の家系は全員有名なマジシャンだけど、俺だけ家の中で落ちこぼれだった。不器用で、人前では上がり性で、俺だけ手品師には向いてなかった」

「だって……だって今の手品スゴイじゃんか! 不器用なんかじゃないよっ」


「ありがとう、純ちゃん。でもね、俺の家族はこんな小手先の手品なんかしないんだ。情けなかったよ、俺……弟が一ヶ月で習得したマジックも、俺は一年もかけてさ。だから、俺はあの家を出たんだ…………自分の無能さに、俺は逃げたんだよ」


 今までとは違う、静かに流れ落ちていく雫。それでも、無理に男は笑顔を作っていた。


「ごめんね、こんなどうでもいい話。どうしてだろ、情けない話なのに、純ちゃんには言えちゃうんだよね。友達だから、かな……」

「……リンリン、あのね、僕は――――」


 人の心の痛みがわかる、共に感じることのできる優しさを持つ少年は、何かを告白しようとしていた。今までずっと、隠してきたコトを。





「…………すまないが、カイロをもらえるかい?」



 穏やかなアルトの声に、二人は我に返る。そうだ、まだカイロ配りの途中だったのをすっかり忘れていた。


「あ、ごめんなさい、どうぞ!」


 爽やかな笑顔で振り返り、純也がカイロを手渡した人物は――――漆黒。


「え……」

「おや……」


 同時にお互いに気付いた途端、純也は氷水をかぶった気分になる。


 深いフードまでかぶり、ローブのような漆黒のロングコートをまとった人物は。



「るっ、ルイン――――!?」


 見紛うはずもなく、あの最凶最悪の破壊屋だった。



「おや君は確か……」


 挨拶のつもりなのか、深いフードをぬぐいさって長い金髪を外気にさらす。整った顔つき、宝石と称されそうな銀色の瞳、天河の如き鮮麗な金糸。美しすぎて、性別がわからない……否、性など越えた領域の美貌。

 小さな少年を見下ろし、思い出そうとしているように眼を細めて微笑を浮かべる。女神のような表情で。


「あぁ、そうそう、遼平君の隣りに居た子だ。遼平君に随分とかばわれていた子だね。遼平君は元気かい、坊や?」


「……実は遼のことしか覚えてないでしょ?」


 「それが何かいけないかね?」と問われ、その満面の笑顔に悪寒を覚える。遼平のコトとなると、本当に楽しそうだ。


「フフフ……、彼のことを思い出すと今でも興奮してしまうよ。あの獣の瞳、破壊の肉体、死を呼ぶ声……フフフフ、実に、実に興味深い」


 『闇』というよりは『邪』の笑顔で、独り何かの回想に浸っているルインに、純也は鳥肌が立ちまくる。街中だが、どうしても警戒して風を集めてしまう。


「坊や、私は今は仕事中ではないのでね、緊張する必要は無いよ。非常に残念なことに、ね。フフフ……」


 本当にただ歩いていて、カイロを貰おうと立ち止まっただけなのだろうか。カイロなどいくらでも作れそうな、爆弾魔なのに。……というか、このビーナスの手にカイロが収まっているのが、違和感ありまくりだ。


「……そうだ、坊やに預けたい物があるのだけれど」

「な、何?」


 ルインがコートのポケットに手を入れたので、つい条件反射で構えてしまう。しかし、出てきたのはあの爆弾がついたダーツではなく。



「遼平君に……私からのクリスマスプレゼントだよ。渡してくれたまえ」



「…………はい?」


 真っ赤な包み紙に、黒のリボンがされた……なんとも見た目的にも不気味な箱を渡される。送り主同様、この物体も何か黒いオーラを醸し出しているような。


「本当なら私自身が彼に会って渡したかったのだがね、ゆっくりと《芸術》について語りながら……フフ」


 それはそれで、非常に危険な気がする。純也は、(最悪の場合、街が一つ消えるな……)と推測して引きつった笑みで箱を受け取った。


「おっと、扱いには注意してほしいな。そう、《充分、慎重に》、ね?」

「まさか、中身は爆――」

「ね、ねぇ純ちゃん、この人……どちら様?」


 今まで全く話に入れなかった李淵が、おずおずと純也に尋ねてきた。李淵は、ルインの微笑に思わず顔を赤らめている。まぁ、普通の人間なら男でも女でもこの美貌には見とれてしまうだろう。


「すっごく綺麗な人だよね、遼さんの……恋人、とか?」

「あ、あははは…………違う、と、思うよ……うん。この人はね、破壊屋で《破壊の使徒》って呼ばれてるらしい、ルインって名前の――――」




「ぎゃあああああああああああぁぁぁあああーっ!!?」



 純也の紹介の途中で、李淵は純也のマフラーを掴んで猛ダッシュで逃げ出していた。それはもう、音速に近い速さで。


「え、ちょっ、うわっ、リンリン!?」

「殺されるぅぅぅー! まさかアレが『美の死神』だったなんて……っ、死ぬー!!」

「り、リンリン、その前に僕が死ぬ……マフラーで絞め殺される……」

「怖いよおぉぉぉー!」


 思いっきりマフラーを握られているせいで首が絞められ、顔面蒼白になっている純也に気付かず、李淵はひたすらカイロを道にばらまきながら疾走していった。




「フフフ、我が同胞よ、メリークリスマス。武運を祈っているよ、君の紅で私の芸術が完成する時まで……ね」



 再び漆黒のフードをかぶった《死の芸術家》は、刹那に人混みに消えた。



     ◆ ◆ ◆



「へくしっ」


「遼平、また? やっぱり風邪でもひいたんじゃないの?」

「そうかもな……なんか悪寒がしやがった。風邪よりタチの悪そうな……」

「誰かが遼平のこと噂してたりして〜?」

「……やめてくれ、嫌な心当たりばっかだ」


 ここまでの寒気がするとは、相当の人物に違いない。ただの勘違いだと……思いたいのだが。

 自分達を追跡している『愛の探偵団』(フェイズ参戦)には全く気付かず、遼平と希紗はレストラン街に入っていく。そろそろ昼食時だ。


「この店でいいか?」

「遼平の好きな店でいいわ。こんな喫茶店みたいな場所でいいの?」

「気楽に食える店の方が、いいだろ」


 そう言って遼平がドアを押し開ければ、扉の上についたベルが軽快な音を鳴らす。

 彼らが窓際の席に座ったのをいいことに、その窓にこそこそと近寄る輩がいた。


「ねぇ遼平、なんだか私達、外の人にじろじろ見られてない?」

「そうか? なんでだろうな」



 原因はもちろん、窓下アスファルトに這いつくばった奇妙な四人組である。



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