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第二章『愛戦争、勃発』(3)

 すぐさま拳銃を腰から抜いた澪斗に、外人はおどけたように軽く両手を上げて手を振る。


「オ〜ゥ、街中で物騒なモノを出しちゃダメだヨ、澪斗クン。大体、今のボクは情報屋じゃナイしネ〜」


 裏社会の情報屋『ハイテンション』の、フェイズ・B・イゼラード。能天気でどんな時でもバイオリズム最高潮な騒がしい人物だが、澪斗が敵視するのには理由がある。


「貴様、以前はよくも……!」


 真の情報を怨恨者に売り、友里依の命さえ危うくさせた。真もろとも中野区支部を罠にはめようとした人間に、間接的とはいえ協力した人物なのだ。


「もー、澪斗クンは融通がきかないネー。ボクは情報屋なんだカラ、情報を買ッテくれる人がいれば売るのは当たり前ダヨ〜?」

「ならば何故、純也にまで手を出した!」


 フェイズ曰く『アフターサービス』とやらで、襲われた純也。澪斗は、それをしっかり覚えていたらしい。


「……もうエエよ、澪斗」


 優しい苦笑で首を横に振る真が、澪斗の銃を下げさせる。一番被害に遭ったはずの、真が。


「情報屋の仕事なんて、そんなモンや。裏社会では仕事を選ぶ余裕なんて無い。ワイも、もう恨んだりしてへんし。大人げないこと言うなや」

「真、しかし……」


 まだ納得しきれない澪斗に、「ありがとな、でも、」と軽く口元を引き上げたと思ったら。



「コイツ、無謀にもあの純也を怒らせて《ボッコボコのギッタギタにやられた》挙げ句、遼平に《お情けで》逃がしてもろたお人や。これ以上責めんのは、可哀相やろ?」



「真…………笑顔がとてつもなく眩しいのだが」


 虹がかかるような満面の笑みでフェイズを指差す真に、確かに同情の念を覚える。ここまで散々に言われている情報屋に。


「シンっちってばとっても寛大〜! 素敵!」

「いやいや、人として当然のことを言ったまでやで〜」

「……部長サン、一番大人げないヨ……」


 真の痛恨の一撃が効いたのか、テンションが下がるフェイズ。この部長が執念深いタイプだと、ちゃんと調べておいたのに。


「まぁ、今日ぐらいはそんな事水に流そうや。で、あんさんは何しとるん?」


「ボクはもちろん、今夜のクリスマスイベントの準備ダヨー。ボクの教会で、イヴのイベントがあるのサ」


 情報屋フェイズは、東京表社会で小さな教会の神父をしている。たった一人の神父だから、準備が忙しいのだろう。抱えている紙袋には多くの買い物が詰められていた。


「部長サン達は何してるのカナ? お仕事……じゃなさそうだヨネ」

「あー……あんさんは知らない方がエエかも――――」

「シンっち! 二人が店を出ちゃうわよっ!」

「二人?」


 希紗にぞっこん惚れ込んでいるフェイズがこの状況を見たら――――そんな不安がよぎり、真はなんとか誤魔化そうとしたのだが、友里依が声をあげてしまった。

 友里依が指差した方向へ思わず視線を向けたフェイズは、見てしまう。人混みの中をはぐれないようにくっついて歩く、遼平と希紗を。


「ワッツ!? オーマイガッ、ボクの愛シの希紗チャンがー!!」


 買い物袋を落とし、目を見張る白人。彼は、その場面だけで全てを察したようだった。


「あのデーモン遼平クンと……そんなっ、マサカー!? …………っさつダヨ……」

「え……フェイズはん?」


「抹殺ダヨ……あのふざけたにやけ顔と胴体をバイバイさせてやるヨー!!」


 叫びながら、どこからともなく二メートル近い白棒を刹那に構え、思いっきり振りかぶる。棒の先端には、弧を描いた大きな鎌の刃。


「ちょっ、待てやあんさん! こないな街中で物騒なモノ出すなゆーてたやろっ!」

「ノープロブレムッ、聖女を毒牙にかけようとするデーモンはどこであろうと抹・殺!! オールオーケー!!」

「ここは日本なのよっ、街中で刃物出したら通報されるわー!」

「愛の制裁に国境は関係無いネ! 我らが父、神に代わってボクが地獄へ堕とシテやるヨっ、デーモンがー!!」

「……蒼波が『デーモン』なのは貴様の中で前提事項なのか……」


 ため息を吐きながらも、澪斗も夫婦と一緒になってフェイズの巨体を抑える。白い大鎌が目立ってしまい、周りがざわめき始めた。




「……!」

「遼平? どうしたの?」


 急に瞳の色が鋭くなった男を、希紗が不思議そうに見上げる。いきなり、遼平は強く希紗の手を握った。


「……なんでもねぇ、次のトコ行くぞ」


 そう言いながらも、遼平の足は速まる。強引に歩かされる希紗が、首を捻りながらもついていく。


(殺気……? まさかな……)


 男の漆黒の瞳が、険しい色を映す。





「はァ、はァ、はァ……。お、落ち着いたか?」


「ま、まぁ、ボクもいきなりは襲ったりしないヨ。コレには何か、深ぁぁ〜い事情があるに違いないしネ! そうダヨ、あの希紗チャンが、ボク以外の男と歩くなんて……歩くなんて……」


 いきなり街中で大鎌を振り上げた自分の行為を無かったことにしておいて、三人がかりで取り押さえられたフェイズは凶器を隠す。本当にこの人物、仮にも神父なのであろうか。


「あっ、なんか遼平くん達、速く移動しちゃってる! シンっち、追わなきゃ!」

「ヨ〜シっ、ボクも追っかけるヨ! もし希紗チャンの柔肌にデーモンが触ったりしたら――――」

「……情報屋、既に蒼波は希紗の手を握っているが?」



「ノォォォォォー!! やっぱりココで虐殺スベシ!!」



 ……この後、またもや三人がかりでフェイズと大鎌《マリア》が押さえつけられたのは、言うまでもない。



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