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前編

ボーイズラブ風味があります。ご注意ください。

「生粋の灰色猫か。珍しいな。」


低い声の後に、獣耳がピルピルと動いた。


抱き上げられ近くなった頭にある獣耳を、ついアーシェがすっと撫でてしまったからだった。


「獣王・・・。」


呆然としながらもそう言ったアーシェの前で、見る見る内に狼と化していく顔は獰猛にニヤリと笑う。


「お前は俺の、獣王の盟約の花嫁。小娘、断ったらこの村を焼き払うからな。」


 ※ ※ ※


灰色猫族が暮らすミミズィ村は獣人の国リンステッドの辺境にある。


獣人の姿は人間と変わらない。

獣人の神である獣神がその獣性を封じた為と言われているが、興奮すると耳が変化したり、尻尾や爪が生える者は稀にいる。それは獣神の封印が弱まった訳ではなく、高い獣性のお陰らしい。つまり神に許された為に一部でも獣化できると言う事なのだろう。彼らは他に比べ、身体能力が高い。

だが完全に獣化できるのは、獣王と将軍だけ。

特に王である獣王は強さとその冷酷さも含めて恐れられている。


「アーシェ、17歳おめでとう!」


その日、一部でさえ獣化できない灰色猫族のアーシェは17歳の誕生日を迎えていた。

両親はすでにいないが優しい姉に祝われ、村の友達が来る前にと庭でユリイの実を踏み砕いた。これからも穏やかに暮らせますように、と願いを込めて。

そんな風に家族の前で夜明けと共に自ら獲ってきたユリイの実を、願いを込めながら踏み砕くのは灰色猫族の誕生祝いの儀式である。


「まぁ、赤だわ。アーシェ、どんな大それた願いを込めたのよ。」


姉に言われ、下を向けばアーシェの布靴に赤い色が染みていくのが見えた。

ユリィの実の中の色は割ってみないと分からない。白なら成就、黒なら要努力。赤はあまりいい結果ではない。

濡れてしまった布靴を振りながら、アーシェはプクッと頬を膨らませた。


「そんなスゴイ願いじゃないのに、ケチな実ね。」


思わずユリイの実に文句をつけたアーシェの両頬は、姉にやんわりと萎まされた。


「もう、子供じゃないんだからやめなさい。17歳は特別なのよ。」


窘める姉の声にアーシェは頷く。そう、17歳は特別だ。成人として、結婚が許される歳なのだ。


「大変よ、アーシェ。首都からの客人なの!」


そう言って、族長であり村長でもある父親をもつミリアムが息を切らせて庭に駆け込んできた。アーシェはそんなミリアムを軽く睨む。


「やだ、ミリアム。祝いの言葉はくれないの?」


「もう、そんな場合じゃないのに!誕生日おめでとう、アーシェ!さあ、一緒に来て頂戴。客人がアンタをお呼びなのよ!」


「なんでよ。客人って呼ばれるような知り合いなんかいないのに。」


「いいから来て!すごいお話なんだから!」


嫌がるアーシェを引っ張り始めたミリアムの腕を、止める為にアーシェの姉は掴んだ。


「ちょっと待って、ミリアム。どうして客人がアーシェを呼ぶの。すごい話しって何?」


「アーシェに妻問いに決まってるじゃない!首都の客人からよ。17になった乙女に会いたいんですって!」


ミリアムの言う、妻問いとは獣人が伴侶を選ぶ昔ながらの儀式の事を指す。お互い顔を合わせて、伴侶という運命のつがいかどうか判断するのだ。そんな王都から来た者の妻問いに興奮せざるを得ないミリアムは15歳。運命と言う言葉に目が眩む、恋に恋するお年頃だった。

ミリアムの話を理解して、アーシェの姉の顔が不快に歪んだ。


「いやだ。首都からこんな辺境の村につがいを探しに来るなんて。どこの一族よ。どうせ碌な獣人じゃないわ。しかも17歳の乙女なんて、いやらしい指定ね!」


おっとりしたアーシェの姉は普段の様子からは想像もつかない位早口で捲くし立てた。大事なアーシェに変な話を持ってこないで頂戴、と髪の毛が逆立ちそうな程怒っていた。


「いやーだ、いやらしくなんて無いわよ。すっごいキレイな銀色の毛並みをしてて、若くてカッコよくて身なりも立派なのよ。御付もいっぱい居たし、アレは貴族か大商人の家の出ね。玉の輿よ、アーシェ。これはつがいじゃなくても、受けるべきよ!」


アーシェの姉の怒りなんかものともせず、ミリアムは興奮しっぱなしだ。


「その人はつがいを探してるから、わざわざ辺境まで来たんじゃないの?なら問題ないわね。アーシェ、とっとと確認して祝いの続きをしましょう。もし相手が行き遅れで、妥協しようと金を詰まれても了解するんじゃないわよっ。まだ若いアーシェにはちゃんとした獣人と、できれば同じ灰色猫で添ってもらうんだから!」


ミリアムの話に姉はころっと態度を変えた。しかしアーシェに念を押すのも忘れない。

獣人は、運命の相手であるつがいと全員が結ばれる訳ではない。世界は広く、誰しもつがいに会える訳ではない。むしろ出会えない者の方が多い。つがいを求めるのは獣人のさがだが、子孫を残す本能には勝てない。その為、立場等でどうしてもつがいを求めなくてはいけない獣人達以外は妥協して伴侶を決める事が多かった。つがいを求める者も、27歳までに見つからない場合、妥協して相手を決めなくてはいけない決まりだ。

だからアーシェも姉も、顔を合わせないと分からないと言うのに相手がつがいだとは思っていない。興奮している夢見るミリアムでさえも。それ位、番に出会うのは難しい事なのだ。皆早々無いと、逆に高を括っていた。


「もう、姉さんたら。分かった、ミリアム行きましょう。顔を合わせるだけよ。つがいでなければ、すぐ帰るからね。妻問いはたとえ王様でも無理やり嫁がせられないんだから、村長の娘でも余計な事は言わないで頂戴よ!」


「これだから頑固姉妹は!呆れた堅物ねっ。アーシェも顔を見ればそんな事言ってられないんだからね!」


妥協されてしまえ、いやしない。そんなやり取りを繰り返しながら、アーシェはミリアムに引っ張られるように村長の家に向かった。

それが、姉を見る最後になるとも思わずに。いや、姉どころか村を見るのすら最後になるのだが。


 ※


アーシャはあっという間に王都について、とうとう城に入る事になってしまった。


「おい。」


エグエグと自分の運命を悲観し俯いていたアーシェは、その低い声に思わず顔を上げた。また獣王に何か言われるのかと怯えたのだ。

だが常にアーシェを睨むように見据えていた目は向いていなかった。そして荷物のように、片腕にアーシェを抱える獣王の腕が震えているような気がする。


アーシェが前を見つめたまま動かない獣王の視線を辿ると、そこには文官らしき姿をした者が城をバックに仁王立ちしていた。


「アンタ、何子供さらってきてんですか。こんな小さい子。

嫁を探しに行くって言ってましたよね?番を見つけるって大口叩いてましたよね?それで休暇もぎ取ったんですよね、確か。

しかも彼女、なんでこんなにクタッとしてんですか?まさかオマエ、こんな小さい子に発情期の獣の如くガツガツしたんじゃないだろうな。バカか?ロリか?あー、泣いてるじゃないですか。大丈夫ですよ、レイプ犯はちょん切るから安心してくださいね。

どこって?決まってるじゃないですか。二度とできないように、ですよ。

え?跡継ぎ?レイプ犯の血筋なんて残す必要ないだろ。いくら王でも私の目が黒い内は幼児虐待なんて許しませんよ。しかも性的虐待なんて、万死に値します。

え?目は黒くない?例えですよ、バカ王。それに私の瞳孔は黒いんだから間違ってはないでしょうが。


ああもういいから!その娘こっちによこせって言ってんだよ、誘拐犯!」


あれだけアーシェを恫喝していた獣王とは思えない、ボソボソとした反論が全てピシャリと遮られていた。

しかもアッと言う間にアーシェを取り上げた。あの、国で歴代最強と言われた獣王から。名残惜しそうにアーシェを追う獣王の腕は、言葉同様にピシャリと跳ね除けられた。


「もう大丈夫だからね。」


男性にしては、少し長めの黒髪に優しい茶色い目がアーシェを見下ろす。黒色の一族なのね、とアーシェは思った。獣人は髪が一族の色を表している。ハーフでは、獣性の強い方の親の色を継ぐ。

アーシェも灰色猫らしく灰色の髪をしているし、銀色狼の獣王は美しい銀髪の持ち主だ。もし、万が一弱い獣性のアーシェが獣王の子供を生めば、その子供は銀色の髪をしている筈だ。


「怖かったでしょう、お嬢さん。」


泣きはらした目をゆっくりと拭う手はアーシェを捉えた武官たちの無骨な手とは違った。

優しくニコリと笑われて、アーシェの頬は自然と染まった。


「お名前は何と言うのかな?」


その声は柔らかくて、怒声と脅迫しか聞いていなかったアーシェには心地よい。


「マーリン、俺の花嫁だ。返せ。」


その、主に怒声と脅迫を述べていた獣王の声が、名前を答えようとしていたアーシェをビクリと震えさせる。

チッという分かりやすい舌打が上から聞えて、アーシェはマーリンと呼ばれた相手を見上げた。


「私が、今、彼女の名前を聞いてんだから、黙ってろよ、ロ・リ・コ・ン。」


「ロリ、・・・ち、違うっ。」


マーリンが苦手なのか、ウーと唸る獣王は歯切れが悪い。

アーシェはマーリンが救世主に思えた。


「何が違うんだよ、小児性愛者。」


「わざわざ言い換えるな・・・そ、それは、17だ!」


「だから、何だよ。行き遅れなお前より10も下。ピチピチなロリだ。」


流石に自分はロリではないと思っているアーシェだったが、獣王が27歳だとは知らなかった。27歳は番探しが出来るギリギリの年齢だ。辺境の村にいると王の年齢すら伝わってこない。


「17は成人だ!結婚できる。ロリコンじゃない!」


アーシェは獣王が大声を上げると耳を塞いだ。内容は事実であるのだが、獣王の声は威厳に満ち溢れ恐怖を呼び起こす。まさに狼の吼え声だった。弱い猫族であるアーシェには恐ろしくて堪らない。

マーリンがやんわりと肩に触れていなかったら、アーシェはしゃがみ込んで丸くなったに違いない。

現に、城へ来るまでアーシェはそうして耳を塞ぎ、目を閉じてきた。時には涙も流して。


「じゃあお前、この子に妻問いして承諾貰えたわけ?」


「・・・ああ。」


アーシェより、頭一つ高いマーリンは成人した獣人男性にしては低い。だが、獣王に負けじと立つその姿はとても大きく見えた。対して、渋々返事をした獣王は縮こまって見える。

返事を聞いたマーリンの茶色い目は細められ、本人が言うように黒い瞳孔が開いたのだろうか。眼差しが黒い。獣王の首が更に縮まった。


「ウソだな。また故郷を焼き払うとか言ったんだろう。」


マーリンの言葉にアーシェは何で分かったのだろうと顔を上げた。

実際アーシェは村を、姉を守る為に花嫁を承諾していた。


「あたりだ。マーリン。」


更に同行していた将軍が証言してしまった為、獣王が焦った声を上げた。


「ちょ、おま!」


「オマエも黙ってみてたんなら共犯だな、アーノルド。」


マーリンの言う通り、将軍であるアーノルドはアーシェに諦めろと言い続け、獣王を止めようとはしなかった。確実に共犯である。自覚があるアーノルドはグッと唸って沈黙した。


「・・・すまん。」


マーリンという味方を得て、獣王と将軍をやり込める姿に押されたアーシェはちょっとだけ強気になった。そんなちょっと強気なった勢いで背後をチラリと見る。すると項垂れた将軍をざまあみろとニヤついて見る獣王が見え、目が合ってしまった。途端に、獣王の目が獲物を狩る光を帯びる。


「・・・マーリン、ソイツをよこせ。」


唸る獣王に睨まれたアーシェはアウアウと再び涙目になって、背後を振り返るのを辞めた。できればマーリンの背に回り込みたい位であるが、獣人は本来、伴侶を他の雄に触れられるのを厭うからマーリンを守る為にもその場に立ち尽くすのがやっとだった。妥協した相手であっても、獣人は雌を独占したがる者なのだ。本気で獣王が怒れば、文官のように細いマーリンなど一溜りも無いだろう。いざとなったら壁になろう。獣王が花嫁だと言い張るアーシェならマーリンの盾位にはなるだろう。アーシェはそう考え、縋りそうになる腕を震えながら下ろした。

だが、震えるアーシェにマーリンは笑った。


「大丈夫ですよ。」


ドガッ!と言う音と共にアーシェの視界はクルリと回る。


「え?」


目をパチパチと瞬いたアーシェはうつぶせに倒れる銀色の美丈夫を見た。


「え?」


銀色の美丈夫、つまり獣王が、地面に、倒れている。


「ええ?」


柔らかくアーシェを包んでいたのはマーリン。

清潔な白いシャツと革のベストに頬が触れている。

アーシェの布靴とは違って、ピカピカした靴が銀髪の獣王の頭をグリグリしていた。


「駄犬が。」


獣王を踏みつけたマーリンはハッ!と鼻で笑った。


ヒャーッとアーシェは心の中で悲鳴をあげた。

踏まれた獣王を助けようとする者はいない。なぜかあれだけ怖かった武官も将軍も動かない。

アーシェは思い出した。獣化せずにこの国でそんなコトが出来るのは、リンステッドには一人しかいない。


「宰相。」


神経質な声にマーリンは体ごと振り返る。合わせて抱かれたままのアーシェもクルリと回る。

白い髪の痩身の男が頭を下げていた。


「彼は白狐のトラントリアだよ。トラン、未来の花嫁を頼む。私は下種な駄犬どもの躾をしなおさないといけない。」


「・・・程ほどに、願います。」


アーシェは白色狐族のトランと呼ばれた男に託された。白色狐の一族は代々城に使える名門だ。

トラントリアの後ろに控えるメイドが、足元のおぼつかないアーシェを支えた。


「死神、宰相様。」


アーシェの呟きにマーリンは困ったように笑った。


「それ、恥ずかしいからやめてね。」


『死神宰相』とは、リンステッドの救世主だ。


獣化する獣人は強い。特に獣化できる獣王は歴代最強と言われている。

一騎当千と言われる将軍も獣化できるが、王には敵わない。宰相はそんな彼らの力を上手く使い、国を治める影の支配者とも呼ばれている。だが彼は知能だけではない。『死神宰相』は獣化せずに、その高い魔力で鎌を一振りすれば一国が沈むとまで言われていた。


 ※


「そりゃ獣化しないよ。獣人じゃないもん。」


マーリンはアーシャが聞いた『死神宰相』のイメージを一蹴した。獣王と将軍をノシて戻ってきた後に。


「まぁ魔法には自信あるけど、国は無理だよ。単位デカ過ぎ。」


そう言ってアーシャの対面に座ったマーリンはカラカラと笑う。

マーリンはよくしゃべるし、よく笑う。獣人の雄は無口なのが多いから、獣人じゃないと言われてアーシェはなるほど、と思った。


「私は人間だけど、この国の宰相を任せてもらってるからね。王には盟約の花嫁が必要なのもよくわかってるさ。」


「なら、もう少し配慮を頂きたいと。」


白色狐のトラントリアは侍従らしく立ったまま、その狐目を細めてマーリンを見る。彼は獣王に花嫁を渡すよう進言しているのだ。

対してそれを拒絶しているマーリンはふんぞり返ってニヤニヤと笑った。


「君達は獣王に配慮してるけど、花嫁に配慮する者はいない。私が味方にならずして誰がなる?」


「ですが、彼女は承諾を。」


「トラン、脅したのを承諾と私は認めないよ。君らの神だって認めないだろうよ。」


トラントリアの言葉にマーリンが笑うのをやめた。マーリンが良く笑うのは、その厳しい表情を隠す為なのだとアーシェは知った。

現に、それまでマーリンの言葉に噛み付いていたトラントリアは縮み上がっている。


「それに君ら獣人の番制度ってのは私だってよく知ってる。番は唯一で違える事なし、だろ?」


マーリンの言葉にトラントリアの後ろのいたメイドが首を縦に何度も振った。そう、獣人にとって番は唯一だ。間違えるコトはない。


「番って主張については、どうもヴェルの一歩通行みたいだし。それに本来、番には優しくするもんだろう。人間の私でさえ知っている。それがなぜ出来ない?それともこれが獣人には当たり前の事なのか?」


マーリンの言葉にトラントリアは少しだけ首を横に振った。そう、獣人は番を大事にする。アーシェの亡き両親もそうだった。妥協した相手でも、伴侶と決まれば大事にするのが獣人だ。

トラントリアが不本意そうな顔なのは、常に彼が獣王を支持しているからだろう。ようやくマーリンは笑顔を浮かべた。


「よろしい。ならば王はやり直すべきだ、彼女に承諾を貰う所から。」


アーシェはニンマリと笑うマーリンに見つめられ、事態が飲み込めずキョトンとしていた。


「彼女が真に『盟約の花嫁』ならば、この『死神宰相』にそれを示せと伝えろ。」


マーリンが告げるとトランは頭を下げた。だが、すぐに顔を上げる。


「よろしいのですか?」


「いいよ。彼女に親はいないんだ、私がそれに変わる事に何か問題でもあるか?」


「いえ。王に、そのように伝えます。」


チラリとアーシェに目を向け、再び頭を下げたトランは静かに部屋を出ていった。


 ※ ※ ※


「古の儀式の再来ですかぁ。」


水色鳥のメアンナが鏡の中で天井を見上げる。

アーシェは共に引っ張られた髪に頬を引き攣らされた。

結うのには向いていない、アーシェの髪はその痛みと引き換えに形になっていく。


「『花嫁』様には同情しますけど、『儀式』が終わるまでは解放されませんからね。」


茶色穴熊のヨーファがそのタレ目を更に下げて、鏡の中のアーシェに微笑む。


「儀式にまでする気はなかったんだけどね。」


鏡の端にソファーに寝転んだマーリンが脚をプラプラさせているのが映っていた。


「マーリン様!『花嫁』様の前で何をしてるのです!?」


キッとメアンナがその青い目を吊り上げた。


「前じゃないじゃん。それにココは私の私室だし。」


「それはそうですけど!確かに『花嫁』様を他の部屋に置いたらキケンだからって、マーリン様の私室に居ますけど。あの獣王から守れるのはマーリン様だけですけど。でも嫁入り前のレディと同室はどうかと思いますし、くつろぎ過ぎなのも宰相としてどうかと思います。」


「メアンナ、いっぱい言い過ぎで纏まってないよ。」


「もう、ああいえばこういう!確かに纏まってませんけど!」


「マーリン様、メアンナの血圧が心配なのであまりからかうのはお止しになってください。」


「うん、ゴメンね。」


ヨーファに窘められ、マーリンはソファーに座り直して謝った。どうやらこのメイド達と宰相は気安い仲のようだ。


「ご覧の通り、マーリン様は下々にも気安くお優しい方です。同室とは言え、万が一と言う事もありませんので『花嫁』様はご安心なさってくださいね。誰かしら控えてますし。」


「最後の一言は余計だよ。」


拗ねたようにソファーで小さくなるマーリン。アーシェはマーリンを完全に信じていたので、彼らが言うような心配はしていないと言い出すタイミングを計っていた。


「大丈夫ですわ。私共はマーリン様が紳士だって十分に分かってますから。」


「分からないよ。私だって欲望の赴くまま、しでかしてしまうかもしれないだろう?」


ヨーファの言葉にマーリンは意地悪く返した為にアーシャは目を見開いた。しかしヨーファとメアンナはマーリンを窘める所か、キャーッと興奮の叫び声を上げた。


「あらあら、そうしたら将軍様に『花嫁』様の盾になっていただかなくては!」


「そして欲望の赴くまま、二人はくんず解れず薔薇色の世界へですわね。・・・ウフフ。」


アーシェの髪を結い終わっていた二人は手を取り合い、陶酔の表情を浮かべている。


「えっ、マーリン様は男で将軍様は雄ですよね。」


アーシェが困って二人を見ていると、その耳がやんわりと塞がれた。振り仰ぐと、それはマーリンの手だった。


「ああ、腐ってやがる。アーシェ、戯言は聞くんじゃないよ。お、かわいく出来たね。」


耳を触れられているマーリンに褒められた事もあり、アーシェはいろんな意味で目を白黒させ、顔を真っ赤に染めた。


ちょっと長かったので前後編。


【適当な設定】

獣化:全部動物になっちゃう。

獣性:獣化できる適正の事。

番:人で言うと赤い糸の結ばれた相手。

妻問い:人で言うお見合い。

※性別表記が違うのは獣人と人間で分けてるからです。


完全に劣勢な獣王は見事アーシェのハートを射止められるのか。後編に続く。

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