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どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争  作者: ホエール
第1章「ダートマス――Killing each other of south seas」
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7.

  7.

 ピッと言う電子音。

扉がむき出しの配管を介して空気圧の力で開かれていく。空気圧というところがみそだ。緊急時は空気圧のボンベやら配管やらにに銃弾を1発でもぶちかませば開かなくなるという事なのだから。

が、普通に開く点から見て、そういう事は誰もやってないらしい。

必要ないと判断されたのか、それともそういう事も出来ないくらい切羽詰まっていたのか……あるいはそういう事も思いつかなかったのか。

何にしても、扉が開き始めると完全に開く前に2人は慌ただしく中に入って、閉まる様に壁のタッチパネルに指示を出す。


「ふぅー……これで、1分は、いき、つける……ぜ」

翔はそういって壁に背をつけて荒い息を整えようとする。

閃光と音響で相手の目と耳を封じ、場合によっては数秒とはいえ、意識すら刈り取るのが、スタングレネードというやつだ。敵はそれで逃げ出し、こっちはそれで動きを封じられる。それが何をもたらすか、鋼鉄の大蛇がこっちをターゲットするのも時間の問題。

というやつになる。

やっとの思いで、センサーがぶっ壊れて手当たり次第に破壊をまき散らす物騒なドローンから逃げ出したのだ。

どうせ、この扉もすぐ破られる。それでも無いよりは心理的な支えくらいにはなるし、破る際の破壊音が警報代わりになってくれる。


「と、とにかく……翔、あんた、合流点……わ、すれてないよね!?」  

「忘れるものか! って言いたいが……正直あやふやになりつつあるな。目印が極点に少ない見知らぬ地下施設の廊下なんぞ」

ジェン(小隊長)に聞く方法があるが、それは正直期待できない。なら


「地図と方位磁石やらなんやらで……か」  「いつの時代よ……って言いたいけどそれしかないよね……今は」

「えーと、お前、ここまで歩数を数えたか?」  「一応、あんたは?」

「まぁ、念のためにな。だが、あってる自信は弱いぞ」

自信満々に自信はないという翔に頭を抱える少女の絵図。

とにかく、2人は話し合い地図を見てあーだーこーだとした結果、場所をようやく突き止めた。

区画は北西。予定から100メートルも離れた区画の第7階層。目的は第5階層という事から考えて……


「階段か、エレベーターシャフトがほしいな……」

そんなつぶやきが出来るのも仕方がない。そんな2人が向かったのは階段ではなく、エレベーターの扉。


「階段はブービートラップを仕掛けられる王様だからな……」  「エレベーターだってそうでしょ」

「だが、シャフトは違う。いや、少なくとも階段やエレベーターの扉よりはましだ」

2人はそんな会話をしながらもエレベーターの扉に向けて――


「ブービートラップごと吹き飛ばせば何ら問題はねーだろ!」

グレネードランチャーをぶっ放した。瞬発信管を組み込まれたグレネードの砲弾は一気に起爆し、エレベーターの扉を吹き飛ばす。

扉が吹き飛んだエレベーター。2人はそのエレベーターシャフトの中にワイヤーアンカーをぶっ放す、アンカーガンの引き金を引く。

ワイヤーが何かに引っかかる。そのまま、アンカーガンを腰のベルトにくくりつけ、2人はさらに吸盤と壁にへばりつくための爪の手袋を装着する。万が一に備えてだ。必ず片腕は壁に着けて、警戒しつつ、ワイヤーをモーターの力で回収していく。

そうやって階層を上るのだ。

こうでもしないとエレベーターシャフト内にさらにトラップが仕掛けれていた場合、どうすることもできなくなってしまうから。

ましてや、こういう状況下だと動いていないと信じたいが、エレベーターが動いているパターンもある。上から押しつぶされたくなければ少しでも壁につかまることが出来る状況を得なければならないだろう。だからこその手袋である。

が、そんなことわざわざ考えての行動ではなく、すでに体に染みついた行動。2人は特に問題もなくモーターでワイヤーを回収し始める。浮き上がる体。そして、シャフトの中に2人は入っていった。

向かうは2階層も上の場所へ。

扉にプラスチック爆弾を仕掛け、扉の向こうの罠を警戒。起爆。

ミラーを使い、何もないことを確認して、2人はその階層へと降り立って――――。

そして、その階層でも敵と銃撃戦に陥るのはいつも通りか、はたまた今度は『シェルターのお客様(お荷物)』がいる状況だから、いつも通りではないのか。


「やっと、みんなと合流したと思えば、このざまか!」  「うっせーな、とっとと働け!」

次々と真鍮色の空薬莢が床を埋め尽くさんと音を立てて転がっていく。

無数のキラースネークが5.56mmの暴風の中を突き進む。

軽迫撃砲の砲弾を迫撃砲に装填せず、信管を半作動させた状態で投げる。そして、起爆。

2発目の迫撃砲弾を右手に構えて、さらに投げる翔。起爆の衝撃波と爆音。爆風と熱風が荒れ狂い、金属の欠片が暴れまくる。


「急げ、急げ! ドローンがこれ以上増える前に、移動させろ!」  「防御円陣!」

「分隊長!」  「なんだ!」

「さらに合流を図る連中が増えた!」

次々と来る人々や武装した仲間、あるいは友軍の人間たち。曲がり角の通路より無数にわいてくる敵キラースネークの群れ。すでにコンクリートの壁は吹き飛び、むき出しの土壁やあるいは鉄筋がその戦闘の激しさを説明していた。


「クソッタレ、火力で全部吹き飛ばしてやる」

分隊砲兵1人1門だけの虎の子。AT-4CS無反動砲を構え、それをキラースネークをはじめとする各種『無人兵器ドローン』がわいてくる通路の天井へと――。

直後、振動と衝撃波が周囲の空気を揺らし、轟音と共に磯の香りと転がる瓦礫が広がっていく――。


「排除! そして封鎖!」

叫び。


「突破口確保! 安全は確保できたか?」  『――・――地上の安全を確認できず(ナットオールグラウンド・グリーン)――』

無線から聞こえる声。


「翔! 無反動砲、砲弾は!?」  「AT-4は使い捨てだぞ、残ってるかァ!」

6連式リボルバー型グレネードランチャーを使い終わったAT-4の代わりに構える翔。分隊砲兵として、SAW手の役割を持つが同時に無反動砲手の役割も持つ。そして、今の彼は分隊支援火器の代わりだったM4アサルトカービンカスタムを失った人間である。

だからこそ、彼にもうSAW手としての能力を求めることは酷といえよう。それでも、無反動砲手などは期待できた。期待できた。

もう期待できない。だからこそ、少しでも役に立つためのグレネードランチャー。

MP7とP90の予備弾倉は残り2つ。グレネードランチャーの砲弾、グレネードの数もそれほど残りは多くない。

本来、翔は、マニュピレート・セグメンタタのナリウスで、セグメンタタ小隊における分隊支援火力たる、分隊砲兵だ。

それが、セグメンタタなしに通常歩兵の真似事をする。

通常の歩兵小隊が大体、30~50名、そしてセグメンタタは大体20で1個小隊を構成し、1個分隊6名ほどという編成上の問題から、翔一人に支援火力、支援砲火にまつわるすべての役割がまわってくる。

むろん分隊砲兵は翔以外にもいることはいるが、彼の分隊には翔だけだ。

だからこそ、グレネードランチャーしかない現状に半分苛立つが、それは口にしない。そんなこと口にして、『お荷物(避難民)』たちが騒げば危なくなるのは自分の命だ。


(俺様は――幸せに生き残るんだ。この時代と世界を)

『―・―――確保。どうぞ、送れ――』  「だ、そうだ! 走れ、走れ!」

お荷物たちが走る。

エレベーターが動き、地下施設より、どんどん避難民たちが排出されていく。


「緊急用エレベーターか……生きててよかったというべきか、やっとこいつを安全に使える状況を手に入れたといえばいいのか……」

最後尾につくことで、確実に避難民たちを逃がそうとする。


「……?」

ふと、目線に気が付く翔。彼を見る視線の持ち主は、一人の少年。10歳くらいだろうか。その顔に青い筋の様なものが走った少年がこちらを見ている。


「…………」  「…………」

一瞬、されども特別な時間。

おそらくは、自分と同じように『調整』を受けた、あるいは受けている個体だろうな――と、翔は思う。

出なければ、顔に青い筋に様なものが無数に走るなど、普通はないだろう。少年の瞳は、澄み切っていて――たぶん、俺様の目は濁っている。

そして、少年とのひと時の時間はエレベーターの扉が閉まることで終わりを見せる。


「次の便が最後だ! 私たちも続く!」

分隊長の言葉。

せっかく吹っ飛ばした通路の向こうより、聞こえてくるのは、騒音。何かが何かを掻き乱し、金属の歯車がかみ合う音だ。


「クソッタレ、次が来るぞ!」  「まだ、降りてこないの!?」

そして、2メートルの鋼鉄の大蛇が瓦礫の中から飛び出してきた。


「爆破しろ!」

直後、工兵が捻ったスイッチから、有線で起爆信号を受け取ったプラステック爆弾が爆発した。吹き飛ぶ壁の建材。そして、衝撃波が施設の床全体を揺らす。

爆風と熱風が吹き荒れる中、それでも逃れたいくらかの鋼鉄の蛇が、あるものは2メートル、あるものは3.5メートル、またあるものは12メートルという大きさを振り回し、襲い掛かってくる。

自立殺戮型無人兵器インデペント・ジェノサイド・ドローン』『鋼鉄の大蛇キラースネーク』。

その特徴は、確実に絞め殺そうとする行動のアルゴリズム。そして、動く赤外線目標に対し、IFFが検知できなければたとえ、1匹の子ネズミであろうと問答無用で攻撃を仕掛け、殺す事。

そのための、仕掛け。ニードルガン(毒針銃)。

神経毒のニードルを解き放つことで、相手を殺すか、もしくは動けなくする。

そして、絞め殺す。それがキラースネークの行動アルゴリズム。キラースネークが蛇行運動から、飛びかかりへと変化しようとするその一瞬を狙って、翔は引き金を引き、銃砲より飛び出るグレネードが炸裂した。

プラズマ・グレネードより噴出した、ガスが、『第4形態プラズマ』を周囲に伝達しまき散らしていく。莫大な熱量と衝撃波の熱風が電磁波と共に周辺を荒れ狂い、ありとあらゆる物質を焼き散らし、電磁波が電子回路を破壊していく。

2発目が軽快な音を立てて、宙を舞い、3発目が同じように飛び出し、双方着弾点より起爆し、プラズマをまき散らしていく。

どうせ、5.56mmだと威力不足だし、そもそも分隊砲兵として、分隊支援火器代わりのM4カスタムがないのだ。仕方がない。

ただ……


「翔一人が、まともな火力ってのは不安な話よね」  「何でもいいけど、装填のときは頼むぞ」

6連発リボルバー式とはいえ、逆に言えば6連発しか続かない。

なら、撃ち尽くした後、やってくるドローンにどう対抗すればいい?


「まだ、エレベーターは降りないのか!」

そんな叫び声が天に通じたのか、扉が開いた。

そして、次々とその中に人が入っていく。これが最後だ。

「残り全部吹っ飛ばせ!」  「ヤーっ!」

そして、工兵たるひよりが最後のスイッチをひねり、扉が閉まって轟音が響いた。


『――……状況を詳細に報告せよ』

やっと小隊長殿が暇を見つけたようで、状況の報告を求める。

今更か、などという空気が流れるなか、無重力を思わせるようなふわりとした体感は消え、そして、振動が止まりエレベーターの扉が開かれる。後は、歩き……いや、走りで100メートル一直線。それでこの面倒な地下施設から出ることになる。

だが……


「走れ! 襲撃だ!」

そうだ、地下から出れば、そこは戦場ど真ん中の『地上』。数秒とかからないうちに、久しぶりに吸い込む地上の空気は――相も変わらず砂とススにまみれた戦地のクソみたいな味の空気。


『――そちらに、お前らの本来の装備を送っている。それまで耐え抜け』

その小隊長たる、ジェンの緊迫した言葉が――――惨状を物語っている。

翔はグレネードランチャーの装填を行い、その他装備品の確認と一呼吸。

戦場へと飛び出す。


「円形防御! 円陣を作れ!」

人が並んでいく。○を作る様に。それが、円陣防御とも言われる小隊陣形戦術。もちろん、小隊じゃなくても作られるときはあるが、少なくとも今、この瞬間、ただの歩兵として活動している彼らにとっては防御において有効な小隊・分隊戦術でしかない。

人の肉壁でできた丸い円陣が、人々を守る。

だが――


「避難民たちを囲んで守ることはできネーな。数が足りない」

そんな時に、それは、来る。コロコロと大地を転がって。

コロコロと、それは来る。球体。黒くて、20センチほどのそれ。『自立殺戮型無人兵器インデペンデント・ジェノサイドドローン』『鏖殺円球エクスターミネーション・ボール』。

まるで白黒6角形の模様が描かれたサッカーボールの様に6角形状の特殊機構を無数に持ったそれは、6角形のそれが足となって常に転がって移動していく。

そう、6角形のそれが飛び出して、地面を蹴り飛ばすのだ。そうやって次々と高台だろうが転がって移動していく。


「翔! 吹っ飛ばせ! 近寄らせるな!」

6角形の足。それがいきなり伸びた。そして、解き放たれるのはプラステック爆弾特有の爆発時の青い光。指向性散弾が解放される!

翔ではない――翔じゃない。それ以外、学生傭兵の誰か、学院傭兵軍第3軍団の、小隊メンバーの一人が、先ほど、翔が地下で使ったあの装備を広げてガードする。

スペクトラ繊維と形状記憶プラスチック合金からなる即席防弾盾の傘! 傘は一瞬で使い物にならなくなる。それでも――身を、難民を、部隊を守る!

指向性散弾が十分に拡散する前、小さなボールから飛び出した突起物からのそれは、拡散範囲も狭ければ拡散物の量もまだ足りていなかった。

そして、銃弾が、鏖殺円球という残虐なクソッタレサッカーボールを吹き飛ばす。

吹き飛ばされた先の空中で鏖殺円球は大量の散弾をばら撒きながら起爆する。

自動で動き回る大型手榴弾。それが、『鏖殺円球エクスターミネーション・ボール』の特徴。

はっきり言ってキラースネークはこれと比べればかなりコストの入った『高級品』である。


「被害!」  「ゼロ! 何とか防御!」

鏖殺円球の起爆は1つ。まだ、来る――!

3個の虐殺大好きフットボールがこっちへと――来る前に次々と吹き飛んだ。

遅れて聞こえてくる発砲音。次の瞬間、次々とそれが、落ちてきた。

GN-11Bキャットファイト。翔たちが使う2.5世代セグメンタタの数々である。

その殆どは中身が空の状態でやってきたらしく、落ちてきたそれらは前面装甲版が開いていた。


『・遅れてすまない・今・到着した』

「リャン! おせーぞ!」  『・だから・すまない』

軽口を言い合いながら、次々とみな、自分のマニュピレート・セグメンタタを装着する。乗り込むように入り込み、装甲版を閉じる。

5センチ大のデータスティックを突き刺すとOSが起動を開始する。データスティックの中に入っているのはこれから操縦する『搭載者』の基本的な身体データや戦術パターンのデータだ。

そして、最も大事なものが、IFF(味方識別信号)の照合機能。これがなければ動かない。

関節位置を微調整。この作業がなかなかの苦痛である。何しろ全身を叩かれる様な思いをするのだから。

続けて、首筋に取り付けてある特殊な器具、『電脳設備』へとセグメンタタの端子が接続されて各種バイタルデータが自動入力される。

最後に、万が一の際の薬剤などを投入するためだったり、生命維持を担当したりするための無数の針で出来たまるで背骨の骨格模型の様な背もたれ状のそれが突き刺さって終了である。

―― 『思考行動補佐ティーチング・アクションアシスト』、『持久戦型撲滅モード』フェーズ2にて稼働 ――

戦術A.I.の機械音声が響く。

さぁて、サッカーしない腐れフットボールをとっとと、ごみはゴミ箱へしよう。この銃弾と砲弾で。

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