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彼は眠っていた。その日まで。
『ケーキを買っておいてー、久しぶりにそっちにいくからー』
姉を名乗るメール。しかし、彼に姉はいない。
次の瞬間には、クローゼットを開き、そしてその壁に偽装されたべニア板をひっぺ替えしていた。
中から出るのは大量の銃器。その殆どが日本製なのが、皮肉である。
彼は『HOW』というメーカーのラベルが印字された拳銃を手に取って――――
「あっ、ごめんー。彼氏から」 「えー、まじ?」
若い女性集団にとって、恋人の話題はある意味タブーだ。
婚期を逃したと感じる女性にとって内心は大荒れ、今の恋人に不満を持つ女性にとっては自分の恋人と比べる対象物。
そして、恋人のいないいくらかの女性にとっては憧れの話題。
だからこそ――
「ごめんねー」の一言で、その場を離れていく女性を見る周りの目は一見笑っているようで――おぞましい迫力がある。
けれども、離れていく女性が手を入れるカバンの中には、C4と書かれたプラスティック爆弾のラベルが――――
その日、一人の兵士は缶コーヒーを飲みながら、海の見える小さな丘の上のベンチに腰掛ける。いつもなら、巡洋運用艦やヘリ空母なんかが並んでいる軍港も今日は1隻の駆逐運用艦があるだけだ。
のんびりとした1日。軍港のすぐ隣にある民間の港に1隻の大型貨物船が入港してくるのが見えた。軍港のすぐ隣ということもあり、『臨検』といういわば立ち入り調査がおこなれるのが普通だが、どうもそれが無い。
大方事前に許可が下りている貨物船なのだろう。青いコンテナが並んでいるのが印象的なその大型貨物船。見慣れた軍艦とは違う意味で壮大さを感じる大きな船舶を目にした彼は潮風に吹かれながら静かに缶コーヒーを飲んでいた。
空には大きな輸送機と思わしき大型航空機が複数飛んでいる。いつもとエンジンの音が違う気がしたが、どうせ、正規空軍の新型だろう。この間から空軍の連中が騒がしかったから。
そんな風に思いながら、平和の空気をその肌に感じていた。
潮風が気持ちいい……。任務を忘れ、このまま日光浴に走りたい。そんな気持ち。
晴れ晴れとした心。
86%の世界に所属する軍事基地でありながら、これほどにまで、心休まる時があっただろうか。
そして、聞こえてくるのは――――
――――空気を切り裂く爆音。
「ん――?」
彼が疑問を表に出す前に
目の前を黒煙が支配した……。
平和ボケ。そう、どこまでも、平和ボケ。
だからこそ突然コンテナ船より巡航ミサイルが発射されたとき、誰も反応できなかった。五大国という地位の軍隊。それが安全を保障したはずの軍港は一瞬で炎に包まれた。何処までも獰猛な破壊の炎に……。地元住民と制限信託統治領ということもアリこの地に住んでいた日本人達が逃げ惑っていた。テロ攻撃を超えた侵攻作戦がそこにはあった。
「非常に由々しき事態である」
新生日本連邦、ミクロネシア統合連合駐留軍。その――現在の留守の最高責任者である、笹竹大佐はそう口を開く。
「本隊が出陣した途端、これだ」 「では――いかに行動を?」
「決まっている」
大佐はそこでいったん言葉を区切り、一呼吸。
「――持久戦だ」
彼の言葉がきっかけなのかはわからない。然れども、その途端、新生日本連邦、ミクロネシア統合連合駐留軍の動きが変わったことが後の公式戦記録には記載されている。
むろん、新生日本連邦側の公式記録とミクロネシア統合連合双方の公式記録にである。
しかし、テロ勢力側の公式記録は存在しえないため、どこまで正確に記しているかは不明である。
ただ、捕虜として、とらえられた人間の証言記録がいくつか残っており、テロ勢力側がスリーパーや別動隊を含めて、地上戦力1個旅団という数をそろえて、攻めてきた事。
そして、それに対抗する新生日本連邦軍は、事実上歩兵1個連隊程度の戦闘兵力がないという事実。テロ勢力1個旅団はこの基地攻略に大変な時間をかけたことを示さねばならない。