プロローグ
どこまでも俺様主義 Re-meke
Episode.1:砂漠の国の紛争 プロローグ
全世界の86%が泥沼化した紛争地帯。
残った14%も大国が軍事力で押さえつけているだけ。
倫理のタガはとっくにはずれ
人類は――――戦後処理に失敗した。
人は平和を願って――火に油を注ぐ。そもそも、すべての争いは己の平和なのだから。平和こそが戦争の目的なのだから。
それは違うというものには、こう疑問を与えよう。では、殺したくて殺すような連中が国家という巨大集団を作れるのかと。
そして、国家が、不要な殺戮を許容するだろうか――? 何故ならば、国家とは結局のところ利己的だったり、偽善的だったり、あるいは世のため人のために心から行動できる……そんな人々の集合体なのだから。
故に――すべての争いは己の平和を目的に始まるのだ。
その〝己〟の定義の違い、あるいは〝平和〟の定義の違いが、争いになっていく……。
たとえば、〝己〟を自己だけにしよう。
ならば、たとえ他者をいくら食い物にしようと、〝己〟が平和であれば、最高の人生である。たとえ、その他者が〝己〟を恨んだとしても。
たとえば、〝平和〟の定義を何事もなく、いつも通りの日々を過ごす事だったとしよう。
もし、そこに、病魔が遅い、いつも通りの日々を安穏と過ごせなくなったとしよう。そして、病魔の治療に莫大な資金が必要だったとして、その資金を稼ぐため、いくらでも他者を利用したとしても……己がいつも通りの日々を安穏と過ごすためには、必要な犠牲でしかない。
そう――すべての争いは己の平和を目的に始まるのだ。
さて、争う以上、勝たねばならない。勝たねば平和を会得できないのだから、そのためにいろいろなことをいろいろな人が考える。
例えばだ、もっと効果的に、歩兵の犠牲なしで戦車を撃破出来ないか? という問いに対し、まだまだ誘導技術などが未熟な時代に出された一つの答えはまさに油を注いだといっていい。
陸戦無双兵器『マニュピレート・セグメンタタ』は、ただでさえ、倫理の外れた戦場からもっと悪い方向に戦場を変化させた……。
最初はただの副産物でしかなったはずのセグメンタタがもたらす戦術的価値は強力すぎたのだ。
だが、一つの欠陥として、普通の人間ではまともに扱えなかったのだ。それを科学者たちはある方法で克服することを思いつく。
『人間』が扱えないというのであれば”人間を改良すればいい”のではないかと。幸い、”経験は豊富”だ。
研究が進められ一番コストパフォーマンスがいいのは10代の少年少女であることがわかると、世界中の戦場で、少年少女の兵隊が溢れた。
これらはすべて人間が――――戦後処理に失敗したから。
7月 木曜日 南洋群島 ミクロネシア統合連合 新生日本連邦制限信託統治領
遥かなる天空――を飛ぶ、4機の超大型戦略輸送機、カーゴハイマスターズの編隊。
その内部は狭く暗く、そしていくつ物『セル』の中にそれが納まっていた。
『――ではお金のための人命救助作戦(オペレーション:マネーオブディフェンス)開始してください』
そんな通信が流された次の瞬間、輸送機のハッチが開き、機内の安全灯に赤いランプが、次の瞬間青く光りだすと次々と固定されていたそれが投下された。超大型戦略輸送機の中で狭く縮こまっていたそれらが一気に空中に飛び出す。
そして、縮こまっていたそれらが一気にまるで花開くように開放した。セルから解放された。
新生日本連邦の駐留軍は既に壊滅状態だった。主力が艦隊と共に同盟国との外洋演習に出てから5日目。別方面での苦戦をカバーするために部隊の派兵が決定され、出発してから既に2日、民間の貨物船に偽装されたそれに積み込まれていたのはロシアのClub-Kといういわば、コンテナに偽装した巡航ミサイルランチャー。
そこから発射されたミサイルと投入された敵陸戦部隊はあっという間に駐留軍の基地を破壊した。無論駐留軍も抵抗したのだが、敵の動きが早過ぎたのだ。既に航空優勢は敵に取られ、国際条約で規制を受けている自立式殺戮型「無人兵器」と、今や戦場の主力へと上り詰めた「陸戦無双兵器」を投入されていた。
そもそも論として、すでに侵入されていたテロ部隊によるテロが重なり、侵攻してくる敵どころではなかったのだ。
本国、あるいは外洋演習に出かけている部隊と艦隊、もしくは同盟国が助けに来るまではもはやどうしようもない位置にいたのだった。
逃げ遅れた2人の日本人の女の子は爆炎が立ち上る戦場で立ち往生していた。
空は黒くそして、赤く染まり悲鳴をかき消す轟音だけが支配する。炎と土、そして恐怖だけが存在する空間。それがその場所だった、
そこに、焼け焦げた軍服を身にまとった2人の兵士がすすだらけの顔でやってくる。
「そ、そこで何をしているんだ!? シェルターはあっちだぞ!?」
2人の兵士は女の子たちを保護しようと駆け寄る。その次の瞬間だった。轟音とともに土砂がめくれ衝撃波が当たりに散らばり、空気が轟いた。
約2~5メートルほどの大きさ、 茶色と白い色の塗装。はっきり言えばそれが迷彩であるとするならば、これほどお粗末な迷彩は無いだろう。いわば製造時のカラーリングのまま使われているのだから。大きさ約2~5メートルのそれ、マニュピレート・セグメンタタが立ち上がり、太陽の光を受けて輝く。
若干オレンジ色に光る装甲で覆われた人型、まるで翼か何かに見える飛翔装甲、その周囲に浮遊している大量の機銃備えた武装。ちょうど人の顔にあたる部分、頭部は流線型のような形をしており、真ん中に赤い点が3つ並んでおり、人の手にあたる場所には親指に当たる機械の指は常に内側、つまり手のひらの上に存在し、また、全部で5本の指ではなく、4本の指となっている。
足は、まるで神話の怪物を見るように、そして恐竜のように爪を持った長い指が前に3本、後に2本とそれぞれついており、それが二足歩行というバランスの悪い歩行法を可能にしている。
無双を可能にする陸戦性能にして、現代戦に復活した重装歩兵。
『陸戦無双兵器』『兵力式・特設型兵装』。
それは、ロシア製第3世代のクラカジールと、中国製第2世代の63式装歩鎧から構成された敵部隊の1人だった。
そう、4人の目の前に鋼鉄の怪物が降り立ったのだ。
兵士2人、逃げ遅れた少女2人、状況はあまりにも最悪だった。誰もが恐怖し、誰もが絶望し、せいぜいいるか分からない神様に祈ることしか対処法を知らず、思いつかなかった。
だが――ほんの刹那、そのセグメンタタは小さな光と大きな貫通音とともに大地に膝をつけた。
悪魔は天空より降り注いだ1発の銃弾に撃ち抜かれた。