表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

1-3-1

 アクルックスは早く見つかった。 どこにいたのかというと、風呂場にいた。 そこでまるで冬場の捨て犬のように縮こまっていたのだ。 いや、隅っこで背を向けてブルブル震えている姿は、もはやハムスターとでも言ったほうが正しいかもしれない。 さっきまで踏ん反り返って偉そうにしていた奴がこんなに怯えているのを見ると……

 ――なんだか哀れに見えるな……。

 正直声をかけようか迷ってしまう。 だがずっとこのままという訳にもいかないので、とりあえず肩を軽く叩いてみる。

「おい大丈夫かアクルック――」

「ひ、いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「え――」

 ポンと叩いた瞬間、アクルックは耳をつんざくような悲鳴をあげながらシャワーをガッ! と掴み取り、

「えちょ、おわお前あぶなっ!?」

「来るな! 来るな来るな来るな来るな来るなああああああああああああああああああ!!!」

 思いっきり振り回し始めた。 しかも目を瞑りながらやっているようで、その動きはもう滅茶苦茶だ。 しかもやたら速い!

 ――欲しいもの買ってもらえなかった駄々っ子かお前は!?

次の瞬間、顔面に飛んできてシャワーをすんでのところで掌で受け止める。

バッシイィィン!!というピッチャーの全力投球を受け止めたような音が風呂場の中で響いた。

――痛ってええええええええええ!! なんだこのバカみたいな力!?

俺の掌にも痛みが響いた。冬の寒さで悴んだ手で受けたような痛みに似ている。全くもってナイスピッチ(バッチ)だ。

「!? いやっ、は、離せ! 離せ!! 離してえええええええええええええええ!!!」

「てめっ、変質者に襲われたような悲鳴あげんな!!」

対して受け止められた側のアクルックスは、未だに状況が理解できていないのか、武器シャワーを取られ、逆に錯乱の色を強くした。目尻にもう涙を浮かべながら武器を取り戻そうと引っ張ってくる。

――引っ張り合いでもこんな力あんのかよっ!

だがこちらが手放すわけにもいかない。この状態でシャワーを取り上げられたら、また殴り掛かられる可能性がある。 

――だったら!

ふと思いついた俺は、シャワーから手を離した。 すると、そのせいで引っ張る相手がいなくなったアクルックスはバランスを崩し、後ろに倒れかかる。 が、その前に肩を掴んでそれを止める。

「ひっ!? 」

混乱しっぱなしのアクルックスはそれと同時に身を捻ってすぐさま暴れだそうとしたが、その前に言い放つ!

「アクルックス! 俺だ! 叶だよ! お前の味方だ!!」

だった。 最悪今度こそ殴られる可能性だってあった。 だってそうだろう。 俺がアクルックスの味方だという確証は、俺の方はともかく、恐怖で錯乱し、目も瞑っているアクルックスの方にはない。 今の彼女にとって、正体のわからないものは全て敵――いや、恐怖対象となっている。

「――……! きょ…………う…………?」

 しかし、アクルックスは俺の声にやっと気付いたのか、体を一瞬だけぴくっと動かし、少しずつ顔を上げ、ようやく俺の存在を認識したようだ。 わずかに表情が和らいだように見える。

 だがまだ足りない。 

「あの蛇の奴はもういない! なんか知らんけど、出て行った。 だからもう、大丈夫だよ。 ここにはお前の味方しかいない」

 俺はそのまま彼女を落ち着かせるよう、柔らかい声でそう言い聞かせる。

 するとアクルックスは、

「み……か、た…………う…………う、ぐ…………ううぅ…………うううう、ううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」

 顔をまるで握った紙のようにクシャクシャにし、目尻に溜まっていた涙は止めていた土砂が水によって崩れるように一気に溢れ、すぐさま彼女の頬を伝って床のタイルへと落ちていく。 そして俺にすがりつくように崩れ、嗚咽を何回も漏らした。

「――――っ」

 そこで俺は初めて気づく。 彼女の服――ドレスのあちこちが、擦り切れていることに。 黒い色な上、目立たない箇所にあったせいでわからなかったが、近くで見てみると正直言ってひどい有様だ。 没落貴族なんて失礼な感想が頭の中で思い浮かぶ。

 一体どれだけの期間を経てこのマンションにたどり着いたのか、その期間一体何があったのか。 全く想像できないが、少なくとも彼女にとって辛い期間だったはずだ。 そしてそれを、たった一人で過ごしてきたのかと思うと、無意識に、手が拳を作り、震えるほどに握っていた。 そして、これもまた無意識に、俺はアクルックスと同じ目線になるよう膝を折り、彼女の細い細い少女の体を、もう誰からも傷つけさせないというように抱き寄せていた。 彼女のほんのりとした温かみを感じ、

「あぁ、味方だ。 俺はお前の味方。 俺がお前を守ってやる。 だから……お前のこと――お前を巻き込んでいる全てのこと、話してくれ」

 そしてアクルックスも、

『うん…………う゛ん………………はい(・・)………………』

 俺の体を抱きしめ返してきた。 それはまるで、初めて出来た自分の味方を、絶対に離したくない。 そういうふうにも見えた。




これがアクルックスの本当の姿です。

皆様の目には彼女がどのように写りましたでしょうか?

彼女があんな態度をとっていた理由はもうちょっとあとで判明します!(まぁもうほとんど見りゃわかるよ程度なんですけどw

感想、評価、アドバイス等お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ