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「「『は?』」」
三者による全く同じ反応が声に漏れる。 それとほぼ同時に、宙を舞っていたカトラスの切っ先がフローリングの床を豆腐のように突き刺さった。
「――ッ!!」
その瞬間、俺はその場にいた誰よりも早く動き、そのカトラスめがけて思いっきり飛び込んだ。
――何が起きたかはわからないが、得物を取れば形成を逆転させられる!
俺よりも剣の近くにいた飛虎も遅れて反応したが、近いからこそ飛び込むという行動ができず、手を伸ばして取ろうとするが、遅い!
「取った!」
カトラスの柄を掴み、飛び込んだ勢いを利用してそのまま床から引き抜く。 ガリガリガリッ! と床の穴がめちゃくちゃ広がったが、この際気にしてられない!
そのまま背中を床につける形で着地することで勢いを殺してからすぐさま立ち上がる。 が――
「ざけんじゃねぇ!」
「え」
次の瞬間、ドッ……! と鈍い衝動を横っ腹に感じるや否や、俺の体は壁に激突していた。
「――ご、ふっ……!? な、に……が……?」
衝動で無理やり酸素が吐かされ、そのまま糸切れた人形のように体がうつ伏せの体制になるよう床に落ちる。
鈍い痛みが全身に走るのを堪え、顔を上げて部屋を見回す。 そこで確認できたのは、どうやら手から離れて再び宙を舞っていたカトラスと、まるでサッカーのシュートをした時のポージングをした飛虎が、体勢を整えながらそれをキャッチするところだった。
――あいつが俺を蹴飛ばしたってことか……!?
信じられない反応速度と力だ。 骨は折れていないと思うが、男一人がまんまサッカーボールのように飛ばされたのだ。
「ちっ! 面倒くせぇことしやがって……」
悪態が聞こえ、今度こそ殺されるか。 と思ったが、どうやら当の飛虎はそれどころではないような表情をしていた。 少なくとも、今意識はこちらの方を向いていない。
彼の意識の先、それは窓――いや、その向こう側だった
「ちっ」
彼が舌打ちしながら、カトラスの腹を自分の前に掲げるのと、ガギン!! と強烈な金属音が鳴るのは同時だった。 先程カトラスを弾いたものと同じだろう。
飛虎は歯噛みし、
「矢谷の野郎かぁ…………クソッ!! 目の前にカモがいるっていうのに……」
『飛虎、撤退よ!! 多分五百メートルも離れてない! 探している間にこっちに来られたら終わりだわ! コイツのことは腹立つしもったいないけど、我慢しなさい!』
「わーってるよぉ!」
見えない声と少しだけ言い争いながら、そのままこちらには目もくれないで駆け出し、入ってきた窓から飛び出していった。
「……………………」
誰もいなくなり、さっきまでが嘘のように部屋に静寂が訪れる。 これが西部劇だったら目の前をタンブルウィードが転がっていきそうだ。
「なんだったんだ……」
未だに痛む体を仰向けにし、ため息をつくようにそう言葉を漏らす。
後ろで少しパラパラ……という音がする。 少し壁が砕けたのだろうか。 それにしても割れた窓から流れてくるそよ風が心地よい。
……おい俺の部屋ボロボロじゃねぇか。 どうしてくれんだよ虫とかいるんだぞこの季節!
しかし、怒りをぶつけられる相手はもうこの場にはいない。 いたとしても返り討ちに会うのが関の山だが。
「あぁクソ、疲れたぁ……!」
わけのわからないことの連続で頭も体も精神もすべて疲労しきっているのか、そのまま思わず寝てしまいそうになる。 正直に言うと本気で寝たい。
だが、そうするよりもやることがある。
「あいつに聞きたいことが山積みだ……!」
侵入者のこと、星空のこと、そしてアクルックス自身のこと。 あいつの言っていたことは妄想の話ではなかった。 そしてそれに巻き込まれた。 俺には一体それがなんなのか聞く権利がある。 もはやそれは興味などの範疇ではなかった。
俺は重い体を全力で持ち上げて立たせ、アクルックスを探しに向かう。 痛みなど全力で無視させていただく!
「全部聞いてやるからな。 お前を巻き込んでいる事態のこと!」
てなわけで今回で一旦の区切りです。さーてストックの方が危なくなってきたぞぉ、ここからどう頑張れる俺
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