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「……さて、色々聞きたいが、まず、お前の名前を聞かせてもらおうか」
なんだか精神的にめちゃくちゃ疲れてしまった俺は、勉強机とセットのオフィスチェアに腰を下ろし、とりあえず状況確認と相手の素性を知りたいがために、不法侵入していた少女に質問を促した。
当の少女の方は、何故かはわからないがやたら偉そうに腕と足を組んでほくそ笑んでおり、さらに「やれやれ」といった感じにため息をつかれた。 おーイライラする。
「人の名前を聞くにはまず自分から、というのが常識だと聞いていたのだがな」
「この…………っ! 漣波! 漣波叶だ!」
不法侵入者なんかに言い負かされて情けないことこのうえないが、一応正論は正論。 俺が歯噛みしながらも素直に名乗ると、少女は満足そうに頷いた。
「ほう、叶か。 良い名だな。 気に入ったぞ」
「いきなり下の名前を呼び捨てかよ…………」
「何か不満でも?」
「ねぇけど……」
あまりそういうの慣れてないんだよなぁ……女の子からの名前呼び捨てなんてあまり経験な
いから。 若干というかなんだかむず痒く感じてしまう。
え、小町? あぁいいのあれは。 あれは違うから。
「んで、お前の名前は? こっちも言ったんだから、もういいだろ?」
もうこれでまだ答えないというなら流石に警察でも呼ぼうかと思う。 ちなみに、警察を呼
ばなかった理由は、目の前の少女の素性がまったくわからないから、ということ含め、いろい
ろ聞きだしたかったからだ。 警察を呼んではすぐさま補導されてしまい、聞きたいことも聞
けなくなる。 別にそれでも良いといえば良いのだが、それでは少々スッキリしないだろう。
そして、不法侵入少女は俺の要求に、「いいだろう」とほくそ笑みながら言い放った。
「私の名前は『アクルックス』。 『南十字座』の『核星子』だ」
「帰れ」
「おかしいな、日本語を間違えたつもりはなかったんだが」
「おかしいところしかなかったわバカタレ。 名前が『アクルックス』ってのはまだいい。 お前明らか日本人じゃないし、そういう名前の外人って事なら違和感はないからな。 だけど『南十字座』の……えっと……」
「核星子」
「あぁそうそうそれそれ……って、お前の脳内設定の話が聞きたいわけじゃないんだよ。 そうじゃなくて、お前が何者かを聞いてるんだって」
ここで怒鳴り散らさないでもう一度聞けるあたり、俺はかなり精神力が強い人間なのではないだろうか。
……というか、よりによって南十字座とは……少々皮肉が過ぎている。 いよいよ本当に運命だったのか一瞬だけ疑ってしまった。
「言ったとおりだ。 『南十字座』の核となる星『アクルックス』。 私はそれの化身なんだよ」
「だからそう言う話を聞きたかったわけじゃねぇよ。 ……もういいや。 じゃあ次。 どうやって家に入ったんだ」
このままでは少女――アクルックスの口から延々とそっちについて語られそうなので、質問を変える。 ただでさえ空き巣なのかどうなのかをさんざん悩まされた後なのに、こいつの脳内設定に振り回されるのはごめんだ。
それに、実際気になっていた。 マンションの入口は、パネルに鍵を差し込んで開くことのできる自動ドア以外にない。 それをこの少女がどう入ったのかが。
しかし、アクルックスはなんでもなさそうに答えた。
「ここの住人が入るところをそのままついて行ったんだよ」
「あぁ、今お前がすっげぇ何食わぬ顔でエレベーターに乗る姿が思い描けたわ」
マンションの住人の全員が、他のマンション内の住人を把握している可能性はあまり高くない。 この十字架ゴスロリ少女が割り込んできたところで、住人の誰かがコスプレした姿だと先入観を抱いてしまえば、特に疑われることはないだろう。
だがここで第二の疑問に入る。
「んじゃ、この部屋の鍵は?」
「空いていたぞ。 普通に」
「そこは俺が原因かよ!!」
真顔で返された答えに思わず大博打で負けたギャンブラーのように両拳を膝に打ち付けてしまう俺。
なんてことはなかった。 ただ俺自身が朝学校に行く際、鍵をかけ忘れてしまっただけだったのだ。 自分の情けなさに頭を抱えてしまう。
――あれ? でも俺鍵かけたはずなんだけど……。
とりあえず過ぎたことを考えていても仕方がないため、頭を上げて次の質問に移ることにする。
「……じゃあ次の質問だ。 何でうちに来てたんだ? 泥棒じゃあないのはなんとなくわかる。 じゃなきゃのんきにゲームなんてしないだろうからな。 ていうかなんでゲームしてたんだよ」
俺の質問に、アクルックスは言葉を整理しているのか、表情を真剣なものへと変えて「ふむ……」と指の腹を唇で甘噛みするしぐさで考える様子を数秒間だけ見せ、その後再び口を開いた。
「一言でいうと、君に会いに来たのだ」
ちょっと会話が始まっただけでちょんぎってしまってスイマセン;
次回ちょっと進展があります!