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1-2-1

 自然自殺の話題の後は、いつも通りの他愛もない学校の出来事や小町が仕入れたほかの情報などの話題で盛り上がりつつ、自宅へと続く十字路で小町と別れた。 もう家は目の前だ。

 自宅は少し大きい十階建てのマンション。 少し古い建物らしいが作りはしっかりしているようで、大きな地震があっても、ちゃんと俺たち住人を守ってくれた。

 玄関である門を開き、自動ドアを壁にあるパネルの差し込み口に鍵を挿し、ひねる事で開けさせる。 エレベーターは自動ドアを出て左へ十歩足程度のところにあり、上へのボタンを押すと5秒ほどで来てくれた。 そのまま最上階、十階へのボタンを押し、エレベーターは動く。 学校での疲れを背中を壁に預けることで一旦取り、目的の階へつくと同時に妙な名残惜しさを感じながら自分宅の玄関へ向かう。

 そこで一瞬、体が止まる。

 ドアが空いている。

 鍵が空いているんじゃない。 ドアが空いているのだ。 扉下部に付いているストッパーが降りていて、ドアが閉じるのを妨げている。

 そして、いま自宅には俺しか帰るものがいない。 

 ということは……

「空き巣か!?」

 急いで自宅の玄関へ入る。 こんな時でもきちんと扉を閉めて鍵を閉めるあたり、自分は律儀な人間だなと思う。

 玄関から見える限り、自宅が荒らされている様子はない。 だが、ここからではリビングや自分の部屋がどうなっているかはわからない。 靴を脱ぎ捨て、まずは通帳とかがあるリビングの方へ行く。 勢いよくドアを開けるが、リビングにはいない。 それどころか、

「何も、荒らされていない?」

 すくなくともパッと見、通帳のある棚の引き出しはなんともない。 中身を確認するが、カードも通帳も、それどころか現金の入っている封筒もちゃんと入っていた。

「じゃあ、空き巣じゃない……? いやでも、間違いなく玄関は空いてたし……」

 あまりにも何もなさすぎて、逆に泥棒なんだからちゃんと盗めよとか言いたくなってしまう。 再度引き出しを確認するが、それでもちゃんと全部あった。

 他に貴重品とは言っても、盗まれるようなものはもうない。 宝石とか金品はうちには置いて無いのだ。

「じゃあ一体何が…………え?」

 一応他に被害にあいそうな物はないと周りを見渡す際、俺は見てしまう。 テーブルに置いてある、グラスを。

「………………」

 グラスだ。 や、別にそれは問題ない。 問題なのはグラスの中身だ。

 濡れている……白く。

 手に取ってみる。

 見たことある液体だ。 というか、今朝これを飲んだ覚えがある。

「勝手に人ん家の牛乳飲んだのか!?」

 捜査技術の進歩している現代。 コップに残っている唾液からでもDNAなんて簡単に割り出せる。 しかも洗ってもいない。 そもそも一撃離脱といったように、できるだけその家に留まらないで目的のものが見つかればさっさと家から出るというのが空き巣やり方のはず。 少々違和感が芽生えてきた。

 現状この家に帰る人物は俺ひとり。 鍵を開ける方法なんて、鍵を壊すか業者に来させるかのどちらかしかない。 しかし、鍵なんて壊れてなかったし、業者に来た可能性もどう見たってない。 空き巣としか考えられないのだが……

「マジで誰だよ……いったい人ん家に何しに来たってんだ……」

 我ながら情けない声が出る。 それは目に見えない何者かに対しての恐怖もあるが、それ以上にここまで間抜けな犯人に対する呆れが大きかった。

 すると、緊張が少し和らいだせいか、今まで気付かなかったものに耳が反応する。

 音が聞こえる。

 さらにそれは足音のような単発のものではない。 永続的になり続けている。

「テレビ?」

 しかし、リビングのテレビは電源がついておらず、真っ暗な画面のままだ。

 となると、

「俺の部屋か!?」

 鞄をソファに放り捨てて、自室へと駆け出す。 もはや空き巣に対する恐怖感以上に、もうここまでやらかしてる奴の顔を拝んでやろうという好奇心が強くなっていた。

 長くない廊下の途中にある自分の部屋の前まで早めの忍び足で移動し、ドアノブに手をかけた。 一瞬そこで立ち止まったのは、やはり恐怖からなのかもしれない。 一旦そこで深呼吸をする。 肩の力が少しずつ抜け、心が僅かにだが和らぐ。 

 一旦ここで耳を澄ませる。 やはり、聞こえるのは自分の部屋からだ。 何を見ているのかと、この後に及んでいらぬ考えに走り、さらに耳を澄ませる。 これは……

「ゲームのBGM?」

 自分のよく知ったテレビゲームのBGM。 レーシングゲームのものだったはずだ。 なんか中から「よっ」「はっ」とか聞こえる。 めっちゃ熱中していやがるんですけど。

「本当に、なにやってんだよ……」 

 もうなんだか、泥棒とかどうとかどうでもよくなってきた。 だが、自分の家に不法侵入してきた人間がいることは間違いない。 とりあえずそいつをとっちめることだけを考えよう。

 ドアノブを握る手に力がこもる。

 まずは相手を威嚇する!

 そして一度息を吸い込み、

「ひとん家のゲームで勝手に遊んでんじゃねえええええええええええええええええええええええ!!!」

 自分でもなんでそんなチョイスをしたのかわからないシャウトとともに、そのまま勢いよくドアを開けた。

 俺の双眸に映るのは、見知った自室の背景。 テレビと机と簡易的な本棚とクローゼット。 そして次に映ったのは、

「え?」

「え?」

 現時刻と同じ、夕焼けのような、赤、というよりは朱く美しい、長い髪の毛。

「なっ!?」

「あ……」

 幼さを残した、かわいらしくも、どこか大人びた妖艶さも併せ持った、整った顔立ち。 橙色の瞳。

「お前っ!!」

「おぉっ!!」

 ゴシック調の、どこか修道服のようにも見える、胸元に十字架が描かれたフリルの多い黒のタイトドレスに、その十字架と重なるような位置に掛けられた、こちらもまた十字架のネックレス。

 羚羊のように細く滑らかな足を覆う、脛の外側に黒い十字架が書かれた白いソックスと、それとは反対に、前腕の甲部に白い十字架が描かれた、肘まで覆っている黒のタイトなグローブ。

 どこもかしこも十字架で飾った、礼服のようにもコスプレのようにも見える服装の少女だった。

 その少女は俺を見るなり待ち侘びたとばかりに立ち上がり、

「やっと来たか! ずっと待っていても来ないから暇だったので使わせてもらっているぞ! いやしかしこれはなかなか面白いな! 人間というものがこのような」 

 初めてテレビを見たような田舎者のようにはしゃぎながらなんか言っている気がするが、そんなの全く耳に入ってこない。

 帰ってきて鍵かけたはずのドアが開いているもんだから泥棒だと思ったら何にも盗まれてなくて、もう逃げた後かと思ったら俺の部屋でゲームをしていた。 意味が解らな過ぎて思わずよろけ、壁に寄りかかってしまい、その衝撃でこっちの方はなぜかほうり捨てなかったコンビニ袋がカサリと音を立てて落ちる。

 しかし、その衝撃と音のおかげでわずかに冷静になる。 それと同時に、目の前の現状に対して、ありのままの感想が口から出た。


「誰だ!!」



てなわけで新キャラ登場!コイツは一体何者なのか!

感想、評価、アドバイスなど、心からお待ちしております!

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