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1-1-2

 それというのは、当たり前のように自然自殺のことであり、つまり小町のインタビューというのは、 

「自然自殺のインタビューってことか? ……ってことはまさか、内の学校に被害者がいたのか!?」

 嫌な予感がして、恐る恐るといった感じに質問する俺に、小町はいつの間にか食べきっていたアイスの棒の先で「そう!」と、人指し指のようにビシィ! と向けてから答える。

「被害者はそのインタビュー相手の他校の友達だけどね。 その子がちょっと前に自然自殺で死んじゃったらしくってさ」

「マジかよ……」

 正解を引き当てられてうれしかったのか、やけにご機嫌な小町から出た衝撃的なニュースに、俺は背筋が冷えるのを感じた。 さっきまで身近(正確にはちょっと違うが)に起こったことないから実感がないと思っていた矢先にこれだ。 少しばかり体が強ばる。

「そんな噂初めて聞いたぞ……」

「そりゃ、その子自体ほとんどの人に言ってないからねぇ。 こっそり聞き出したのだよ!」

「お前……」

 誰にも言っていないということは、まだ傷が癒えてなくて、それを周りに騒がれたくないからだろう。 それなのに土足で他所の家に入るような態度で聞いたというのかコイツは……。 近しい人間の粗相に少々頭が痛くなる。

 だが、なんだかんだで自分も好奇心には勝てず、怒るよりもまずその内容に食いついてしまう。

「まぁいいや……んで、その友人に、自然自殺の何を聞いていたんだ?」

「言いかけたのがなんなのか気になるけど……ええっとね」

 小町は俺の問いに対し、ポケットからやけにアンニュイなキャラクターが表紙全面に描かれたメモ帳を取り出して、ページをめくりながら答える(邪魔になったアイス棒は俺のポケットに入れられた)。

「聞いたのはその子……あぁ、その子の名前、汐佳愛(うしおけいと)っていうんだけどね。 その汐さんの友達が死ぬ直前までの状態と、死んだ後の状態のことかな。 自然自殺で死ぬその瞬間まで一緒だったみたいだから、たっぷり聞けたよ」

「お前踏み込んだなぁ……」

 買ってもらったおもちゃを自慢する園児のようなワクワク顔でえげつないことを言う小町に、呆れとは言わないが、変な方向に感心してしまう。 もう土足で玄関どころか廊下を走っているレベルだ。

 小町は新聞部に所属していて、その容姿と人望があいまってか、どんな人間もこいつには飴を上げるようなレベルで情報を提供してくれるので、情報収集力は半端じゃない。 通称(自称)、新聞部のグーグル先生だとか。

「何言ってんの! このくらいやんなきゃ、真相にはたどり着けないんだよ?」

「いやそうかもしれんが……」

 真相どうこうはそうなのかもしれないが、友達が死んでショックな人間、しかも自分の友達にそんな遠慮なしに聞いてもいいのかと思ってしまう。 

 しかしペンを差し棒のようにこちらの腕をつついてくる当の本人が全くわかってないようなので、深く言うことを諦める。 つかやめろ、変にくすぐったい。

「あー、もいいや。 んで? 収穫はあったのか?」

「二度目の言いかけも気になるんだけど……まぁいいや。 えっとねえっとね。 当日、彼女はその子と渋谷の方に出かけてて、楽しくお話しながら歩いたらしいんだけど、急に糸の切れた人形のようにその友達の子が倒れだしたんだって。 んでんで、急いで救急車を呼んだんだけど、その時点で、本人も友達が死んでるってことはもう解ってたみたい。 その後のことは、ショックであまり覚えてないみたいで、気付いたら顔に布を被せられてベッドで横になっていた友人の姿があったんだって」

「…………」

 淡々と語ってくれているが、思ってた以上に内容がヘビーだ。 その汐さんとやらの悲しみの感情は計り知れないものだろう。 自分の顔が苦笑いでなのか、引きつったのが分かった。 まともな形で死ねないなコイツ。 

 そこまで思うと、ふと、ここまでで一つ違和感を感じた。

「でも、確かに当事者の情報をきけたのは収穫かもしれないけど、聞けたのは結局、ニュースで取り上げられているものとそこまで変わらないな?」

 小町の情報収集能力のすごさは聞いての通りだが、今のところ彼女が言ったのは、世の中にすでに広まっている程度のものだ。 まだ癒えきってない汐さんの傷に塩を塗るようなことを聞いておきながらこの程度では、少々お粗末と言える。

 やはり本人にとってもそこは気になっていたのか、小町は「まぁねぇ」と、少々のため息とともに肩を落とすが、すぐに顔を上げた。 

「だけどだけど、実はちょっと気になる点があってね」

「気になる点?」

 俺が返すと、小町は「うん」と答えながらも、こっちを見ず、人差し指の腹で唇の下を押さえながら、地面を見ている。 思い出そうとしているというよりは、なんと言っていいか、言葉を選んでいるようだった。

 そして数十秒たっぷりかけて、ようやくその「気になる点」を話し始めた。

「自然自殺って、なんの原因もなしにいきなり倒れて死んじゃうって言うじゃない?」

「まぁそうだな」

 その言い方だと、倒れたから死ぬと語弊があるように聞こえるが。 なんの音沙汰もなしにいきなり死んでしまうという点は間違いないので頷く以上の返事はしない。

 小町はそのまま続ける。

「でもでも汐さんが言うにはね、その噂通りだとすると、ちょっと違和感があったんだって」 

「違和感?」

「うんうん。 その友達が死んだ瞬間のことを詳しく聞いたんだけど。 なんていうか、本当になんの原因もなくいきなり死んだっていうよりは、『その日その場所に行ったから』死んでしまったように見えたんだって」

「?」

 日本語がおかしいように聞こえたのは俺のせいじゃないと思う。 一瞬顔をしかめてしまうが、意味は伝わった。

「えーっと……つまり、こういうことか? その汐さんの友達は、その日に渋谷に行ったことが原因――自然自殺が起こるトリガーとなったから、その人は死んでしまったと?」

 情報を整理しながら言葉を絞り出しているためたどたどしい言い方になったが、

「うむうむ! そういうことそういうこと!」

 正解だったようだ。 当の本人も伝わるかどうか不安だったのだろうか。 大きく頷いて嬉しそうな笑顔を見せる小町。 その笑顔を見てホッコリしてしまうのと同時に、こいつの情報伝達力の低くさに若干呆れを感じてしまう。

「ふむ。 となると…………」

 別に痛くはないが指先で前頭部を抑えながら少し整理してみる。 もし、小町の情報に一切の誤りがないとしたら……

「自然自殺は自然現象じゃなくって、それが起きる原因がちゃんとある……そういうことか?」

「そーう! ザッツライ! ザッツライ!!」

 俺の出した答えはまたまた小町にとって正解だったのだろう。 テンションが最高潮に達し、ぴょんぴょんと跳ねながら爛々と喜んでいる。 うん、それはいいんだが今足踏んだろ。

「でもそれってなんの根拠もない仮説みたいなもんだろ? 言い切るにはちょっと弱くないか?」

 踏まれた方の足を一瞥しながらまだ違和感から抜け出せない俺に、しかし小町は怒るも呆れるもすることなく、「仕方ないよ」と言わんばかりに肩をすくめた。

「ま、一回の取材でそんな核心を突けるようなものが手に入るなって思ってないよ。 家に帰ったら情報を整理して、また明日から取材したりするしね!」

「……そうかい」

 こんなことをまだ続ける気全開な小町に、一回本当に怒って説教してやろうかと思ったが、そんなことをしてもこの天真爛漫小娘は止まらない。 付き合いの長い俺が言うんだ、間違いない。

 しかし止めはしないが、心配でもある。 こんなことをし続けて誰かに恨みを買ったり(もう買っている可能性あり)、何かに巻き込まれたりしないだろうかと、目が見放せない。

「まったく……」

「?」

 静かについたため息に小町はしかし、何も気づいてないようにたた小首を傾げるだけだった。


というわけでいかがでしたでしょうか?主人公と幼馴染っていうのはまぁ王道ですよねw

ちなみに今回で主人公の名前の由来がわかったかと思いますw

以降も楽しんでいただけるよう頑張っていくつもりでございます!

感想、評価、アドバイスなどお待ちしております!

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