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プロローグ

 夜空の下で火花が散る。 まるで鉄と鉄が勢いよくぶつかり合ってできたような、一瞬だが強い火花。

 いや、実際にぶつかっているのだ。 鉄と鉄が。 正確には、刃と刃が。 剣と剣が何度もぶつかり合い、夜の闇に覆われたアスファルトを一瞬だけ、街灯以上に照らす。

 それらを持っているのは、二人の少年だった。

 片方の少年持つのは、刀身が細長く、鍔がやけに長い、まるで十字架のようなレイピア。 もう片方が持つのは、海賊が持っているようなカトラスをそのまま豪奢にしたような剣だ。

 レイピアが相手の体を突こうとすれば、カトラスはそれをはじき、返しで相手の体を割こうとする。 それをレイピアのつばで受け止め、そのまま横に流す。 長く一進一退の攻防が続くが、勝負の幕は降りる。

 突如レイピアを持った少年が後ろに跳躍した。 すさまじい脚力だ。 たった一回のそれで10mは跳んだ。 そして地面に着地すると同時にレイピアを十字に振るう。

「…………?」

カトラスを持ったほうの少年は、その行為の意図が読めなかった。 何も起こらないと悟ったのか、カトラスを握り直し、レイピアの少年に襲い掛かる。

 が、今まさに駆け出そうとした瞬間に、異変に気付いた。

 自分の体が前に進まない。

 それどころか、今の自分は、地面に足がついていない。

「え…………?」

 思わず間抜けな声が漏れる。

 いつからだ。

 いつのまに。


 磔にされていた?


 何が起こったのかわからない。 わかるのは今自分が、腕を広げ、足をそろえた状態で動けないでいるということだ。 まるで、十字架に磔にされたように。

 何が起こったのかを見るため、眼だけでなんとか自分の後ろを見ようとする。 するとそこには、さきほどの「まるで」という部分を打ち消すものが存在していた。


 十字架だ。


 光り輝く、というよりは、光そのものが十字の形を持ったような、そんな十字架。

 ここでようやく隙だらけの自分を自覚し、必死で振りほどこうとするが、全く動かない。 どれだけ力を込めても動かない。

 詰んだ。 

 そう自覚し項垂れる。 レイピアの少年も相手がもう打つ手なしと悟ったのか、カトラスの少年に歩み寄り、そして目の前で止まった。 もちろん、レイピアの射程圏内だ。 そしてレイピアを握りしめ、

「っ!!」

 一瞬躊躇したようだが、すぐにその剣を、ドシュッ……と、静かに相手の体に突き立てた。

 しかし、急所じゃない。 自分からみて右――相手の左腿付け根のあたり。 急所とは明らかに外れた場所にだ。 さらにおかしいことに、刺した部分からの出血がない。 

 だが突如、何かが砕けたような音と共に、刺した部分から血が出る代わりに薄い水色の光が輝き、


「ぎぃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


凄まじい断末魔が轟いた。 しかしそれは刺されたカトラスの少年の口からではない。 彼は苦痛に顔を歪ませているが、間違いなく彼の『口からではない』。 彼の、体からだった。

 そして、悲鳴の直後に彼の体から、まるで蛹から羽化する蝶のように、ズルリと何かが現れ、そのままなんの支えも受けずにドシャァ……と地面に落ちた。

 女だ。 しかしただの女じゃない。 上半身はちょっと洒落たドレスを着た、二十代前半ぐらいの色白の美女。 だが、下半身はまるで蛇のような――いや、比喩でもなんでもなく蛇の尻尾だった。 腰から目測してもおよそ八メートルはあるだろうか。  そちらの方はもはや力すら入らないのか、動く気配すらない。

「う……く、ぁ…………」

 苦しみ、もがきながら、その奇形の下半身を持つ女がレイピアの少年を見上げた。 女の顔は地の色以上に白くなり、死相もできている。

 その女の状態に彼は、血の気が引いたような表情を見せ、一歩後退した。 

 女は少年の足を、すがりつくというよりは、つかんでもぎ取ろうといわんばかりに手を伸ばす。 しかし、わずかに届かず空を切り、そのまま再び倒れこんでしまった。

 そして、さらなる異変が起こる。

 女の体が星の光のようにうっすらと輝きだし、彼女の長い蛇の尾の先が光の粒子へと変わっていったのだ。

「や……やだっ、まだ私は……っ!」

 女が何かにあらがうように首を振るが、彼女の体は少しずつ、着実に消滅していく。

 とうとうそれは胸のあたりを越し、肩にまで至ってくる。 女はレイピアの少年を見上げ、

「くそぉ……クソおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 恨みを込めたまなざしで、彼をにらみ続け、激昂し、そのまま完全に消滅していった。 光の粒子は浄化された魂のように天へと昇っていく。

 もう異形の女がいた形跡はどこにもない。 彼女が存在したと証明できるものは、塵ひとつすら残っていなかった。

「…………」

 レイピアの少年は異形の女がいたはずの場所を呆然と見つめる。 その表情はひどく動揺しているようにも見えた。 慣れた光景でないというのが見て分かる。

「いつまでだ」

 静寂の中こぼしたその一言は、独り言というよりは誰かに向けて言ったようだったが、少なくとも、今はもう地面に倒れ伏している、先ほどまで戦っていた相手にではなかった。 

 そして、レイピアを砕かんばかりに握りしめ、今度は吠える。

「いつまでこんなことをすればいい!!」

 空気が震えても、静寂は再び戻る。

 その咆哮に答える人間は、いないように見えた。

 

そう。 見えた。


『決まっているだろう』

 見えないが、いるのだ。 少年の問いに答えるものが。

 そして、答えたものは無慈悲に言う。

『勝ち残るまでだよ。 この私がね』

「っ!!」

 夜の空気に響かない声が少年だけには聞こえる。 彼はその答えに怒りを覚えたのか強く歯を食いしばり、未だ握っていたレイピアをアスファルトの地面に勢いよく突き刺した。

 レイピアは粘土を相手にしたかのように深々と突き刺さり、まるでそれは、今消えていった異形の女を弔うための、十字架のように見えた。



まだプロローグでごめんなさい;

次から本編に入ります!3日以内にできたら投稿いたします!

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