発芽2
彼女は隣の教室の子だ。
そういえば最近、よく一人でいるのを見かけた。いつもはもう一人の女の子と一緒にいた気がする。
「カヨちゃん、何を探してるんだろ。」
ああ、カヨって名前らしい。
「あのいつも一緒にいた女は?最近見なくね?」
「サヤカちゃんのこと?そういえば見ないね。カヨちゃん、サヤカちゃん探してるのかな?」
「さあな」
俺達は深く関わろうとはせずその場を離れた。昼時だったこともあって食堂へと向かっていた。
「恭也。」
俺は後ろから声をかけられて振り返るとすぐに前を向き直し早足で食堂へと向かった。
「恭也。今すぐ首を跳ねられたくないなら止まれ。」
親父だった。
俺は仕方なく止まり振り返った。
「なんだよ。」
「今日赤茶髪の男が数本木刀を折ったと聞いた。お前だろう、恭也。」
「え…な、何をおっしゃいますかお父様!私三谷恭也は大事な資源を粗末になど致しま」
あ。今日校庭のトカゲを退治しようとした時、思いのほか素早いトカゲのせいで床に何本か叩きつけたような気が…
「心当たりがあるようだな。」
「う"…申し訳ございません…」
「予備の木刀を倉庫まで取りに行け。用は終わりだ。」
そう言い切ると親父は俺達を通り過ぎて前へ進んだ。昔はもっと会話もしてくれたし遊んでもくれた。優しい親父だと思っていた。
「恭ちゃん?」
立ち尽くしている俺の顔を美衣は覗き込んできた。
「…トカゲなんて追っかけなきゃよかった…」
「怒られなかったんだからよかったじゃない!」
そう誤魔化してみたものの、きっととてつもない顔をしていただろう。母が死んだ時のことを思い出すと何年経っても憎しみがこみ上げる。
「恭ちゃんがそんな髪の毛してるからすぐバレちゃうんだよ!ツンツンだし!」
「俺はどんな髪型でも目立つの!美衣は地味すぎる!今時おさげなんかするか?」
美衣はスタイルこそ悪くないもののメガネだし3つ編みおさげだし、真面目を絵に書いたみたいだ。
ちなみに雅人は落ち着いた色だし髪型も落ち着いてる。顔までイケメンに属されるだろう。女子からの人気は言うまでもない。
「午後から何する?」
カレーライスをがっついていた俺は美衣の問いかけでスプーンを止めた。俺達は学び舎にいるとはいえ授業はない。教室に拘束されることはない。その中で遊び呆ける奴なんていないのはきっとみんな死にたくないからだろう。力をつけてどんな敵にも負けないように鍛錬している。
「あー。雅人のとこでも行くか?様子見に。」
「そうだね。あ、でもその前に…」
美衣は食べ終わったのかトレイを持って立ち上がった。
「もう一試合していかない?」
気弱な美衣でもこういう時の目は十分威圧的だった。