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忘却ノ胡蝶蘭-ファレノプシス-  作者: 永倉 有理
発芽
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発芽

 キィィィィィィンンンンンーーーッ


甲高い金属音は緊迫した空気を震わせた。俺の渾身の一撃だった。


「ー…恭ちゃん。それじゃ駄目だよぉ」


目の前に立つ少女に向けて打った一撃は少女の張った翠色の光の盾にいとも簡単に打ち消された。


「くっそーーー!!また負けた!」

俺は剣を床に投げ捨てて寝転んだ。

「あーあ。毎日剣術ばっかでつまんねーの。いつになったらここから出られんだ?」


「仕方ないじゃない。みんな戦ってるんだから!」


そう。俺達の世界は“病”のせいで壊れてしまった。


 剣術に取り組んでいた“剣菱家”

 聖書を読んで詠唱を繰り返していた宗教“レアー教”

 伝統を守り続けてきた“陰陽師”

この3つに所属しない力を持たない人はみんなあの日に死んだ。


俺は父親と一緒に剣菱家で剣術に関わっていた。でも母は剣を握らなかったからか呆気なく死んでしまった。


あの日。あの忌まわしい日のせいで。俺の日常は一変した。


「ーーーー恭ちゃん!!」

俺は、三谷恭也。今年で昔の高校生にあたる18歳だ。特技はとくになし、趣味もとくになしの普通の男子高生のはずだった。


「今度こそLevel3に昇格するんでしょ!頑張ろうよ!あと少し!」


世界が壊れた日を境に大人達は力にLevelをつけるようになった。

今俺がいるのは“学び舎”といういわば学校だ。ここである程度の年齢まで過ごす。その間の成績評価としてLevelを設けたらしい。

1から5までの5段階に分けられる。1ははっきり言って戦う体制だけはできるし状態。2はかろうじて実戦に参加できる状態。俺は今ここ。3は戦力になるし、応用力を持ち合わせた状態。4は即戦力。戦闘をリードできる状態。5はスゲーってことしか知らない。

これでも俺は物心ついた時には竹刀を握っていたためか、剣を握って14年が経つほどだ。それにしてもまだLevel2。


「恭ちゃん!聞いてるの?」

「うるせーな、美衣はー」


こいつは幼馴染の七瀬美衣。陰陽師の継承者でLevel3の盾使い。

「う、うるさい?わ、私うるさい?そ、そうかな…」


ほんとは強いくせに気が弱いところが玉にキズ。


「冗談だよ。それより雅人は?」

「そういえば、今日は見てない気がする。」


雅人こと、森羅雅人と俺達2人はよくいう仲良しグループだった。学び舎の中では3人でいることが多かった。


「病気とかかな?」

「どうせ、サボってんだろ。」


雅人は俺達の中でも群を抜いて強かった。聖書も暗記してるしLevelも4だ。なのに、全く威張らないし嫌味の1つもない。言葉通りの“いいやつ”だ。


引っ込み思案で優等生の美衣と、温和で人当たりのいい雅人、そして落ちこぼれの俺。なにかとバランスは取れていると思う。俺がモメると美衣が止め、その場は雅人が収める。そんな事が何度あったことか。


「…あ。」



木刀を片付けて教室に向かっていた俺と美衣は、取り押さえられてる女子生徒と鉢合わせした。


涙にまみれた彼女の顔と掠れた叫び声がただ響いた。




「探してよ!!!おかしいじゃない!!!

 急にいなくなるなんて!!!!!

 探してよ!!!」





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